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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇三年

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93/336

93.長蛇作戦 桔梗の失敗

二二〇三年一月一日 一九四二 長蛇トンネル


「ところで、性急過ぎませんか。計画案の成功率は低くく、改善の余地はあると思いますが…。」

鹿賀山は、東條寺が出した計画案は理論値で書かれており、現実にそぐわない要素がある事を指摘した。

「それは、問題無えな。行政府が問題点を洗い出し、計画を修正した。それに伴い、本計画は、O2計画と命名された。

修正の結果、計画規模が大きくなって、第八大隊だけでは実施できないがな。

で、工兵隊及び専門家の指導の下、憲兵大隊と協力し、計画を実施することになった。

計画が失敗した場合は、行政府に責任を押し付けちまう。ああ、これは総司令部から言質はとっているからな。安心しろ。」

「つまり、失敗した場合は、計画を立て、実行した行政府に責任を押し付け、成功すれば、立案及び実働の我々が、功を取るということでしょうか。総司令部も菱村少佐に似てきましたね。」

精神的動揺からようやく立ち直った東條寺が、菱村へ当てこする。

―はて、東條寺は、もっと冷静な人物だと思ったが、虐殺計画に改竄され、動揺しているのだろうか。―

鹿賀山は、東條寺の肩に手を置いて宥めた。

当の菱村は、ニコニコと東條寺の噛みつきを受け流している。逆に状況を楽しんでいる風情だ。大人の余裕と云うものだろうか。

それを見て、副長は東條寺を咎める事もせず、会議を進めることにした様だった。

「では、具体的に計画を説明する。中央に投影するので注目。」

副長が、手元の端末を操作し始めた。

鹿賀山は、隣に座っている東條寺の落ち着かない態度を不審に思った。

東條寺は、俯き加減に座り、時折、菱村少佐と白河憲兵少佐の顔色を窺っていた。

見られている二人は、視線に気づいていた。だが、態度は正反対だった。

菱村少佐は、東條寺と視線が合う度に面白がり、白河憲兵少佐は、ポーカーフェイスであり続けた。

―東條寺は、小和泉の件を報告したいのだろうか。それも良いだろう。奴の自業自得だ。しかし、どの件だろうか。―

鹿賀山には、心当たりが幾つもあったが、そう決めると会議に専念した。


二二〇三年一月一日 二三〇三 OTU 城壁


831小隊は、哨戒任務を数時間続けていた。

さすがに促成種の三人でも肉体的にも精神的にも疲労を感じていた。

現在、隊に残っている唯一の自然種である井守准尉は、アサルトライフルを杖代わりに何とか、歩哨を続けていた。以前であれば弱音を吐いていただろうが、士官らしい態度をとろうと努力している事は、理解できた。ただ、現実として威厳は全く無い。

小休止を分隊単位で取るべきだったが、鹿賀山と東條寺は司令部に行ったまま、すでに数時間経過し帰って来ない。

定時連絡を交わしているが、二人は大隊司令部から動ける状況には無い様だった。

そして、小和泉も消息不明のままだった。

十二人しかいない831小隊から、三人も欠けてしまうと小休止も、ままならなかった。

桔梗は、どのタイミングで小休止を取らすべきか、頭を悩ませていた。

小隊長代行など初めての経験だった。

鹿賀山達が帰隊すれば、即座に解決する問題だ。

すぐに帰隊すると考えたことが、桔梗の失敗だった。


「二時方向。距離五五〇。人影一、確認。他無し。工兵へ接近中。」

鈴蘭が、いつも通り管制官の様に報告を上げた。

桔梗は、スナイプモードにしているアサルトライフルを報告のあった方向へ向けた。

桔梗の網膜モニターには、地面の窪みを利用し、工兵の現場責任者へ接近する人影が投影された。

「敵と断定。撃つ。」

桔梗は、照準を合わせると躊躇わず引き金を引いた。

ライフルより伸びた光線は、人影の胸を貫いた。人影は前のめりに倒れ込んだ。まずは行動力を削ぐ為、命中率の高い場所を狙っていた。

「弾着、今。行動停止。手足痙攣有り。生死不明。」

鈴蘭が結果報告を上げる。その報告を聞いた桔梗は、第二射を叩き込んだ。

倒れた人影の頭部に光線が吸い込まれた。敵は動かない。小さい的である頭部を十分に狙える。

「弾着、頭部。判定、死亡。」

衛生兵兼観測手の鈴蘭が、狙撃の結果を伝えた。今までに鈴蘭が、結果報告を間違えたことは無かった。敵を排除したのは、間違いないだろう。

「脅威を排除したと判断する。全員、警戒を怠るな。」

『了解。』

警戒を始めてから、何度目かの狙撃だった。すでに何回人影を撃ち倒しているか忘れてしまった。

もちろん、ガンカメラによって記録されている為、正確な狙撃回数や殺傷人数は調べれば分かる。だが、意味の無い事なので行わなかった。


桔梗の判断ミスの原因が、ここにあった。

831小隊には、狙撃手は桔梗しかいない。

距離三〇〇以下であれば、分隊の機銃掃射で充分対応できるが、距離五〇〇を超えると友軍への流れ弾を考慮しなければならない。

そうなると、味方への被害を避ける為、狙撃による攻撃を行わなければならなかった。

桔梗としても、他の者に狙撃を託したかった。だが、その技量を持つ者は、この隊には居ない。

8312分隊の菜花は、白兵戦及び近距離戦型。

鈴蘭は、衛生兵兼観測手兼運転手。

8311分隊の舞と愛は、情報処理型。

8313分隊の井守は、実力及び経験不足。

オウジャ・カワズ・クジの三人は、近距離から中距離の塹壕戦を得意としている。

遠距離戦が可能なのは、必然的に狙撃手である桔梗だけだった。


小和泉達が居れば、問題は無い。小隊運営は鹿賀山が考え、分隊運営は小和泉がその方針に従う。

普段であれば、命令に従うだけで良かった。

小隊の指揮系統が不在の状況では、桔梗が三人分以上の仕事をこなさなければならなかった。

補佐役が居るだけでも状況が大きく変わるのだろうが、士官教程を受けているのは井守だけであった。その井守が、既にスタミナ切れを起こし、正常な判断は下せない。

その為、隊長代行としての責任、狙撃手としての責任などが、精神的負担として無意識に桔梗へ大きく圧し掛かっていた。

それらが、桔梗の正常な判断力を奪っていたのだ。


「なぁ、桔梗。そろそろ眠いんだけど。」

菜花が、小隊無線で桔梗へ休みたいと珍しく訴えてきた。

―これは、菜花の気遣いでしょうか。菜花がこの程度で音を上げる筈がありません。恐らく、他の者の意見を代弁しているのでしょう。わざわざ、小隊無線で言う必要はありませんから。

ならば、錬太郎様達の帰隊を待つ必要は無いでしょう。悩むのは止めましょう。―

桔梗は、即座に小休止の命令を下した。

「8313分隊の井守准尉、カワズ二等兵は、即時に九十分間の小休止に入って下さい。オウジャ軍曹、クジ二等兵。続いて、8311分隊、舞曹長、愛兵長。続いて、8312分隊、菜花兵曹長、鈴蘭上等兵の順番です。」

「本官は、大丈夫です。桔梗准尉が、先に休んで下さい。」

桔梗の命令に対し、井守が進言をした。

しかし、その声には張りが無く、疲労感に溢れていた。

「本官は、身体能力を強化された促成種です。自然種である井守准尉と疲労度が違います。先に休んで下さい。隊長代行としての命令です。」

「了解しました。命令ならば、致しかたないです。小休止に入ります。」

井守は、桔梗の命令に従うことにした。本音では、小休止の申し出は嬉しかったのだ。

「他の方もよろしいですか。」

桔梗が念を押した。

『小休止、了解。』

網膜モニターに、全員が返信をしたことが表示された。

―さて、錬太郎様は御無事でしょうか。―

桔梗は、小和泉の笑顔を思い出しながら端末の操作を始めた。

それは、小和泉の欺瞞情報の更新だった。

同じ場所に長時間居るのは不自然であるため、時折、ビーコンを移動させていた。

菜花が小休止を言いだしたのは、桔梗の状況を見かねての発言だった。

菜花にとって、井狩が疲労で倒れようが知った事では無い。すでに戦力として数える事すら出来ない程に衰弱している。

その事にすら、桔梗は気づく余裕が無くなっていた。

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