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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇二年

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74/336

74.第八大隊結成

二二〇二年十一月二十七日 一三〇三 KYT 日本軍総司令部大会議室


総司令部の大会議室では、今回の月人の襲撃概要を説明していた。

七本松総司令を始めとする上層部数人が上座に参加していることは場所柄当たり前だった。

その下座には鹿賀山少佐、菱村大尉そして小和泉大尉が出席していた。この三人が総司令部の大会議室に呼ばれることは、階級的には無い。この大会議室は、将官級の軍人が使用する場所だった。

今回の戦闘が、如何に特殊だったかを物語っていると言えた。

―上層部は、当事者の言葉を直接聞きたいのかな。―

その様な事を小和泉は、のんびりと緊張もせず自然体で考えていた。

横に座る鹿賀山は、対照的に緊張し、背筋を伸ばし硬直していた。

―だけど、鹿賀山は後方に居たし、今回の戦闘には関係無い。では、別件なのかな。―

小和泉の向い側に座る菱村は、小和泉に手を振る愛嬌がある位、余裕があった。

―菱村のおっさんは、逆に慣れ過ぎかな。お偉いさんの前で手を振るのは、僕でも自重するかな。しかし、おっさんに気に入れられている心当たりが全くないのだけど。―

だが、無視もできない為、敬礼を無難に返しておいた。

参謀達が上層部に対して説明を粛々と行い、そんな三人を放置したまま、会議は進行していった。


会議の内容は悲惨の一言だった。小和泉達には発言権が無いに等しいため、大人しく説明を聞くしかなかった。

要領をまとめると次の通りだった。


内部進攻された折、外からも包囲攻撃を受けていた。

規模は百万に近い数である。

守備についていた第一、三、七歩兵大隊壊滅。

休暇をしていた第二、四、五、六歩兵大隊を急遽招集。これを外壁防御の応援に回し敵を撃退。

つまり、歩兵部隊は定数の半分となった。

生き残りを集め、第一歩兵大隊に編成中。当面は第三、七歩兵大隊を欠番処理とする。

砲兵大隊第一から第四は健在。都市防衛は、砲兵大隊に頼るしかない状況である。

その為、これ以上の援軍が出せず、苦肉の策として憲兵隊が投入された。これにより内部に侵入した月人の撃破に成功する。

進攻された階層は、一般人全員の死亡を確認。階層復旧の破棄を決定。水路からの防御拠点を設営する。

日本軍の稼働率は六割までに落ちた。大敗と判定。

―僕達が内部で戦闘している間に外でも戦闘があったのか。で、ぼろ負けしたというわけか。まいったね。これは。―

初めて聞かされる事実に小和泉は、人類滅亡の足音を聞いたような気がした。


「憲兵隊の投入により、月人の殲滅に成功。また、一号標的の死体も戦闘終了後に回収し、研究所へ運び込みました。これにより一号標的の研究が進むと思われます。

後詰の第四大隊が第三大隊を引き継ぎ、強攻偵察を実施致しました。結果、地下都市の南部に地下トンネルと地下水路が平行に存在していることを発見致しました。月人はこれのどちらかまたは両方を使用して進軍してきたと考えられます。」

参謀の一人がモニターに表示された概略図を基に説明を行った。

「その二本のトンネルの存在は、今まで知られていたのかね。」

将官の一人が質問をする。

「現存する資料を精査致しましたが、確認できませんでした。未知のトンネルであります。」

「現状はどうしているのかね。」

「一個中隊を交代で常駐させております。両トンネルにフェンスを多重に張り、通行できないように致しました。また遠隔操作できる機関銃も設置し、連隊規模の月人を迎撃できる態勢を整えております。

また、足跡等を検証した結果、月人は西方向から侵攻してきたと思われます。」

「また、敵は来るのか。」

「可能性は否定できません。偵察隊を投入する必要があると考えます。」

偵察隊の言葉が小和泉の耳に残った。

―あぁ、これは最初から結果が決まっている会議だ。やれやれ。その偵察隊に組み込まれるわけか。会議に呼ばれた理由に納得だ。―

だが、小和泉は表情に出さない。それは鹿賀山も菱村も我関せずと無表情を貫いている。


「偵察隊は、まず水路の上流である東方向に派遣します。西方向は、東方向の調査完了後に着手致します。

水は放射能に汚染され放射線を発しています。地上と同環境とお考え下さい。」

「つまり、空気や水は汚染され、無線は使えないわけだな。」

「はい、そうです。地上と同様に通信ケーブルの敷設が必要です。

その為、残存の第三歩兵大隊へ特科隊を組み込んだ隊を新設大隊として偵察任務につけます。それに伴い、特科隊に配属されている研究要員は、研究部へ戻します。実戦部隊には不要です。

新設大隊は、定数の半分にしか満ちませんが、偵察任務には程よい規模だと判定します。」

「誰が、指揮を行うのだ。」

「はい、菱村大尉が適任でありましょう。問題はありますが…。」

今まで無言だった七本松総司令が右手を挙げた。すぐに参謀の発言は止まり、場内は静まり返った。

「今の案を採用する。本日付けで菱村大尉を月人撃退の功により少佐に昇進。同時に金戦功章を授与。第三大隊には戦死者を含め全員に銅戦功章を授与。小和泉大尉には、一号標的撃破の功に銀戦功章を授与。菱村少佐は、調査大隊を早急に立ち上げよ。特科隊の鹿賀山少佐を配置するため階級は同格になるが、金戦功章を持つ菱村少佐を上官とする。これで問題ないな。」

七本松総司令の鶴の一声により一瞬で決まった。

「はい、人事面の問題は解決されました。あとは菱村少佐に偵察大隊の立ち上げに注力していただくだけです。」

「正式な辞令は早急に出す。」

それが、七本松総司令のこの会議での最後の発言だった。

「立ち上げにどの位の時間が必要ですか。」

総司令の言葉を参謀が引き継ぐ。

「確認ですが、部隊は32・34中隊と特科隊の三部隊のみでしょうか。」

大隊長に突如任じられた菱村は、冷静に今後必要な事を考え始めた。この会議に呼ばれた時点で、この展開を予測していたのかもしれなかった。

「そうです。31・33中隊の生き残りは、第一大隊への補充兵となり、第三大隊は一時的に消滅します。時間はかかりますが、いずれは再編致します。」

「了解です。まぁ、顔見知りばかりですので、一か月程頂ければ使えるでしょう。」

「帰月作戦で特科隊と連携している事は確認しています。時間がかかり過ぎではありませんか。」

「あの時は、じっくりと作戦を立てる時間がありました。偵察任務では突発事項に対処する必要があります。無言でお互いの意思疎通ができなければ、作戦に従事はできません。」

「実戦経験豊富な菱村少佐が言われるのであれば、そうなのでしょう。一月で必ず仕上げて下さい。延長はできない状況です。日本軍は、非常に厳しい状況にあります。」

「了解致しました。早急に調査隊を立ち上げます。ちなみに部隊名はお決まりですかな。」

菱村は参謀に確認をとった。

「部隊名は、第八大隊とし、81中隊、82中隊、831小隊と呼称します。大隊控室とハンガーは、旧第三大隊の物を使用。設備及び装備は、第八大隊へ委譲します。他に質問および要望があれば、要望書にて提出して下さい。以上です。下って頂いて結構です。」

「では、早速調査隊を立ち上げに参ります。鹿賀山、小和泉、行くぞ。」

『了解。』

三人は立ち上がり、敬礼後、総司令部を後にした。


三人は、本部基地の廊下を歩きながら、宿題に頭を悩ませていた。

「言いたいこともあるだろうが、軍人だ。黙って命令に従う。いいな。今回の会議の内容は、黙っていた方が無難だろう。下手に喋って、営巣入りは御免だぞ。鹿賀山は、特科隊、いや831小隊の引っ越しを早急に済ませてくれや。」

菱村が右手で髪の毛を掻きむしりながら言う。どうやら髪を掻きむしるのが菱村の癖の様だ。

「了解です。どうやら小和泉と関わった者は、苦労する運命にあるようです。」

鹿賀山は苦笑いをした。この様な状況になることを鹿賀山も見越していたのだろう。

小和泉だけが先を見通せていなかった様だ。

「おいおい、親友を貧乏神扱いにするとはひどい奴だね。」

「だけど、戦争に関しては死地にばかり赴いている気がするのだが。」

「確かに危険度が高い戦場ばかり派遣されているのは事実だけどね。」

小和泉は反論を諦め、不貞腐れることにした。鹿賀山には理屈で勝つことはできないからだ。

「俺は先に行く。狂犬よ。ちゃんと娘をエスコートして来いよ。」

「了解。もちろん、可愛い部下達を忘れるはずがありません。」

鹿賀山と小和泉は、敬礼して第八大隊のハンガーへ向かう菱村と別れた。

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