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戦闘予報 -死傷確率は5%です。-  作者: しゅう かいどう
二二〇二年

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34/336

34.〇二一一一七作戦 急報

二二〇二年十一月十七日 一三〇五 KYT郊外北西十五キロ地点


大隊司令部の掌握に成功した鹿賀山は、戦闘糧食をとっていた。食事ができるタイミングに取らなければ、いつ食事ができるか分からない。食べられる時に食べる事も重要な仕事であった。

横では、先に昼食を済ませた東條寺が鹿賀山の代わりに各中隊へ的確に指示を出していた。

東條寺は、鹿賀山が安心して任せられるまでに育った。いや、育て上げた。一年前の失敗を消化させるのには苦労したが、今では糧となり作戦をさらに客観視できるようになっていた。

鹿賀山の副官として十分頼れる存在へと成長していた。

今も各中隊の動きを見ていても画一的な駒の動きではなく、波の様な滑らかな連携を保つ戦線を形成していた。


鹿賀山の昼食を中断させる特別なコール音が司令部に鳴り響いた。

日本軍総司令部からのホットラインだ。戦況はリアルタイムで日本軍総司令部も把握している。こちらに落ち度が無い限り鳴る筈の無いコール音だった。一瞬で司令部が静寂に支配される。

担当下士官が素早く受話器を取る。

「第二大隊司令部です。はい。総司令と代わります。」

担当下士官は受話器を保留にし、鹿賀山へと振り返った。鹿賀山は頷くと受話器を取った。

「総司令、鹿賀山大尉です。」

「現在、地下都市KYTは、月人約十万匹の攻撃を受けています。第一歩兵連隊、第三歩兵連隊、第四歩兵連隊の四千八百名が塹壕にて応戦中。第一から第三砲兵大隊の千百四十名も砲撃陣地より応戦中です。休暇中及び偵察中の第二歩兵連隊も招集をかけています。大尉らの第二歩兵大隊も遂行中の作戦を中止し、即座に第二歩兵連隊へ復帰し、防衛戦への参戦命令が発令されました。

敵兵力、過去最大規模と確認されています。KYT所属日本軍の総力戦となります。即座に帰還して下さい。」

「了解致しました。詳細情報はネットワークに上がっていますか?」

「もちろんです。帰還予定時刻が分かり次第、報告をして下さい。」

「了解しました。」

電話が切れる。鹿賀山はやるべき事を頭の中で素早く整理する。

誰も口を開かない。鹿賀山の発言をじっと待ち続けている。


鹿賀山の考えがまとまった。

「傾聴。作戦中止。即時撤収だ。地下都市KYTが月人による総攻撃を受けている。敵兵力は約十万匹だ。日本軍の総兵力である一万人で対応することになる。その為、我らが大隊にも帰還命令が出た。現状を確定し、即座に戦線を縮小。撤収に入る。詳細情報は戦闘ネットワークに上がっている。各員確認せよ。

歩兵部隊より進発し、装甲車部隊が殿軍を務める。これを骨子に撤収作戦を即座に組め。かかれ!」

鹿賀山の号令に一斉に司令部員が動き出す。

コンソールを操作し、詳細情報を呼び出す者。

地図を広げ、撤収ルートを検討する者。

戦線の動作状況を確認する者。

それらの情報を統合していく者など、己に課せられた任務を忠実にこなしていく。鹿賀山もネットワークの最新情報を眺めながら、先行きを考慮していく。


戦闘予報

撤収戦のち防衛戦になります。

死傷確率は10%です。


戦闘予報による死傷確率は、悪くは無い。残敵がいるかどうか分からない状況で背中を見せての行軍だ。状況によっては、背後から奇襲を受けてもおかしくない。だが、戦闘予報ではその心配は無いと判断している様だった。しかし、保険と言うか確証は欲しい。

鹿賀山は、特科隊の新装備の一つを思い出した。

「こちら司令部の鹿賀山だ。特科隊、応答せよ。」

「はいは~い。小和泉ですよ。」

小和泉の落ち着いた声に鹿賀山の焦りが消えていく。

「そちらの新装備の地中探査機で地下を計測してくれ。残敵を知りたい。早急にだ。」

「大変みたいだね。了解。すぐにとりかかるよ。三分間の静寂が欲しいね。一三三〇探査開始でいいかな。」

「分かった。手配する。解析次第、ネットワークに上げてくれ。」

「特科隊、了解。」


特科隊の地中探査機は、聴音・電導率・超音波の複合探査を行い地中の状況を調べることができた。これもこの一年をかけて開発された装備だった。

以前より洞窟での掃討戦は行われていたが、過去に反撃らしい反撃を受けたことが無く必要とされていなかった。だが、今後は地中探査機が必需品となるだろう。欠点として、地表や地中で戦闘を行っていると余分な振動や音により解析データにゴーストが入り込む為、地中探査中は一切の行動がとれず、無音でなければならなかった。

「東條寺少尉、一三三〇から一三三四まで地中探査機を使う。全隊に無音待機を指示せよ。」

「一三三〇から一三三四まで全隊無音待機了解。すぐに通知致します。」

鹿賀山や東條寺に指示を出す。東條寺はこの一年、特科隊の立ち上げに尽力していた。地中探査機が何か説明する必要は無かった。

東條寺は、コンソールの操作を操作し、受話器を上げた。

「全隊に連絡。一三三〇から一三三四まで無音待機せよ。一切の行動を停止せよ。これには戦闘行動も含まれる。友軍による敵観測の妨げになる。繰り返す。敵観測の為、一三三〇から一三三四まで一切の行動を停止せよ。無音を保て。以上。」

東條寺の声は、精神的な危うさは消え去り、落ち着いていた。

―予測外の事態が発生しても取り乱さなくなったか。成長したな。さて、地中に敵が潜んでいなければ、即座に撤収できるが、残敵の規模はどうなのだろうか。それによって、撤収方法が変わる。小和泉よ、地中探査機を上手く使ってくれよ。―

鹿賀山は、実験通りに地中探査機が動作する事を祈るばかりであった。


二二〇二年十一月十七日 一三二九 KYT郊外北西十五キロ地点


「全隊に通達。無音待機まで六〇。準備せよ。」

東條寺の声が大隊無線を通じて第二大隊の全員に届く。

もちろん特科隊の耳にも入る。

「舞曹長、東條寺少尉の秒読みに合わせろ。」

「了解。」

小和泉の指示に舞が返答する。

「秒読み開始。

三〇。

二〇。

一〇、九、八、七、六、五、四、三、二、一、今。」

銃器の発射音、装甲車の走行音や月人の悲鳴がぱたりと止んだ。戦場を静寂が押さえ込む。

「聴音探査開始。受動ソナー正常作動。受音中。音響データ記録完了。

電磁波探査開始。電磁波発射。規定出力による発射確認。第一波反射確認。反射継続中。電磁波データ記録完了。

超音波探査開始。規定出力による発信確認。第一波反射確認。反射継続中。超音波データ記録完了。

無音状態解除可能です。複合解析開始します。」

舞が作業を一点ずつ報告する。隣では愛が作業を補助していた。

時間を確認すると一三三三が過ぎ、一三三四になろうとしていた。

「司令部、こちら特科隊。」

小和泉が大隊無線を繋げる。

「こちら司令部。状況を報告せよ。」

司令部の下士官が無線に出る。

「地中探査、正常に完了。現在解析中。無音待機解除。以上。」

「了解。無音待機を解除する。」

大隊無線が切れ、すぐに東條寺の声に変わった。

「全隊、無音待機解除。次の指示があるまで戦闘を継続せよ。以上。」

即座に機銃や迫撃砲の音が戦場を駆け巡り、月人達が断末魔をあげる。

解析結果が出るまではまだ時間がかかる。この時間短縮も今後の課題だなと小和泉は常々考えていた。


小和泉達は周囲の警戒を怠らず、地中探査の結果が出るのを待ち続ける。

装甲車に搭載できるコンピュータの性能では、瞬時に解析は終わらない。気長に待つしかない。

地下都市KYTにある日本軍の中枢コンピュータに直結すれば、解析に数秒しかかからないことは実験で分かっている。だが、それだけの膨大なデータを流すには通信ケーブルが貧弱すぎた。

データ転送を行う時間と装甲車に装備したコンピュータで処理する時間を比較した場合、圧倒的に装甲車に装備したコンピュータで処理した方が早かった。

実験で一度、通信ケーブルにデータを流したところ、各部隊の通信が遮断され、戦略ネットワークが停止する事態に陥った。

偵察部隊が長年敷設してきた通信ケーブルにそこまでの能力を要求することが間違いだった。

その様な用途は想定されていなかった。


「桔梗分隊長、解析結果の確認をお願い致します。」

舞曹長が第二分隊の責任者である桔梗へ解析が終わったことを報告する。解析に十分以上かかっていた。

「分かりました。確認します。」

桔梗が目の前のコンソールを操作し、桔梗の眼から見れば解析が甘かった。

「電磁波解析をもう一段階精度を上げ、音波解析は一段階精度を下げなさい。」

桔梗は、小和泉に話しかける時の愛らしさを感じさせない乾いた声で指示を出す。

「了解。すぐに補正します。」

舞と愛がコンソールを再度操作し、数分、解析結果が出るまで待たされる。

「桔梗分隊長、お願い致します。」

「了解です。」

桔梗が解析データを再度確認する。この待ち時間が小和泉にとっては、もどかしかった。

正直、目安になる程度の精度で良いのではと小和泉は考えていたが、鹿賀山に一度報告をするとそれが正式な報告となる。正確でない報告を上げることは軍では、犯罪に等しい。その不正確な情報で人は死んでいく。

それが分かっているがゆえに、全幅の信頼をおいている桔梗にデータの確認をさせていた。

ただただ、小和泉と鹿賀山には待つことしか出来なかった。

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