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ちんばの総長  作者: クスクリ
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第6話 乱れる風紀

考え込む関谷に、「なぁトモちゃんどうすんよ」

「何や?」と関谷。

「あの生意気な1年坊のことだよ」

 関谷は思い出したらムカムカしてきた。足が悪かろうが関係ない。弱い者虐めであろうが知ったことではない。あの忌々しい井本が弟と可愛がる奴を痛め付けて溜飲を下げ、井本の呪縛から逃れてやる。関谷は頬をぴくっと吊り上げて、「翔太分かった。その生意気な1年坊に俺らの恐ろしさ思い知らせてやんよ」

「トモ、ついでに女の方も先輩への礼儀、身体に教え込んでやろうよ」

「何か恵美も腹に据え兼ねるこつあるんか?」

 恵美は憤然と、「大有りだよ。真知子先輩の弟の彼女やからって知ったことじゃないよ。もう先輩は居ないんだ。今はあたいらがこの鳥巣高仕切ってるんやから。そのあたいらを平気でシカトすんだかんね。あいつ三浦っていうんだ。中坊のときグレてたみたいやけど湯村の彼女傘にきて生意気なんだよ。ぶりっこしやがって。制服のスカートミニにして澄ましてやがるんだ。ロングスカートのあたいらに喧嘩売ってんだよ。焼き入れてやらないと気が済まないよ」

「でもあれはあれでかわいいでぇ。あの細ぇ生足に抱きつきたくなるぜ。よう思い付いたよな」と翔太が感心する。

 そんな翔太を、「馬鹿なこと言うんじゃないよ。このエロオヤジが!」と恵美がぎろっと睨み付ける。


「黙って聞いていた情報通を自認する奴が申し訳なさそうに、「ト、トモちゃん湯村にはあんまり関わり合わん方が…」

 関谷はそいつを睨むと、「何や大輔はっきり言えや」

「湯村には危ない噂があんだよ」

「もしかしてあのチンバば虐めたら井本の野郎が東京から仕返しに来るってかぁ」と関谷は腹を抱えてげらげら笑う。

 関谷に乗せられて、翔太が、「あのチンバ、僕3年の先輩に虐められてますぅ。井本お兄ちゃん助けてぇってでも電話するんかぁ」と笑い転げる。

 何の危機感もない仲間とは対照的に大輔は顔いっぱいに不安を漂わせながら、「工業仕切った坪口と商業仕切った大塚ば操ってんのは湯村やって噂があんだよ。それに龍川・鍋島学園、第二・西福岡にも小飼の手下ば送りこんで乗っ取るんも時間の問題っていう噂まであるんや」

「大輔、お前誇大妄想の気があるわ。残虐な喧嘩狂で手のつけられない狂犬ち鳥巣市中の中坊ビビらせとったあの二人が、いくら真知子先輩の弟やからってあげなチンバの下に付くか?」

「冗談やろ」

「まぁ俺もあいつらがまさかてめぇの高校、入ってすぐ頭獲っちまうたぁ想定外やったけどよ」

 関谷は自分が工業と商業の番よりも格落ちなのは自覚している。今年の初めまでは曲がりなりにも井本の威光で鳥巣校にちょっかい掛けてくることはなかったが、この不良の巣窟の二校が自分の代になったらどう出るか不安だった。だが、頭は獲ったとはいえ、一年坊ならまだ二年三年の不良どもを完全に纏め上げるまでには相当な時間を食う筈だと関谷は高を括っていた。

「トモちゃん、工業と商業の番変わったん知っとったん?」と大輔。

「あぁ」

「まぁ見てろや。俺があのチンバの化けの皮剥がしてやんよ」


 三年の世界史の授業を終えた白水は、はぁ~と深い溜め息とともに職員室の扉を潜る。そんな白水に一足先に戻っていた長谷川が声を掛ける。

「白水先生溜め息なんかついてどげんしたんですか?」

 長谷川の隣の自分の机に気分も重く腰を下ろした白水は、「長谷川先生、湯村が居った頃が懐かしいですわ。生徒は荒れる一方ですよ。授業中の私語は止めない勝手に席は立つわで注意しても聞く耳持たずですよ。一部の不真面目な生徒のせいで真面目に大学受験に取り組む生徒にも悪影響は免れません」

「同感ですな。何じゃかんじゃ言っても湯村、特に彼氏の井本の存在は大きかったですな。井本の睨みで不良どもは縮こまってましたからな。井本が卒業したことでその反動が出たんですかな。困ったもんです」

「ところで白水先生、湯村の弟は先生のクラスでしたな?どうですか?」

 白水はちょっと考える仕草のあと、「まだ分かりませんわ」

「と言われますと?」と突っ込む長谷川に、「一緒のクラスの三浦以外とは全く喋らんのですわ。まるで自分の世界に踏み込むなとばかりに。やから周りの生徒も不気味がって湯村との関わり合いを避けてるようです。授業中に当てれば世界史に関してはその答えは完璧です。ただそれ以外はいくら話し掛けても完全無視ですわ。どうしても訊きたいことがあったら三浦に聞くしかないんです。三浦とは中学から恋人同士のようですわ」

「ほう、変わった生徒ですな。高校入学時から誰憚ることのない恋人同士ですか。羨ましい限りですな。私も湯村を当てたことはありますが国語に関しては普通ですな」

「卒業間際、湯村からはくれぐれも弟を宜しくと頼まれてはいましたが…どうしたものか」と白水は頭を抱える。


「白水先生もですか?実は私も湯村に康太君のこと託されたんですよ」と英語教師の松信が二人の会話に割り込んでくる。

 松信は長谷川に目を遣って、「先生も湯村に頼まれたんじゃないですか?」

 長谷川はにこっと微笑むと、「はい。湯村は律儀な奴ですから鳥巣高の全教師に頼んで回ったでしょう。北村が言ってましたが湯村にとって弟は何物にも勝る存在だそうです。ときには周りの者に異常とも思えるほどにね」

 白水が思い出したように、「そう言えば私が康太君の担任になったことを手紙で知らせたら湯村らしい素晴らしい文面で返信が来まして、そこには真知子君と康太君の十数年が綿々と綴られてましたよ。それを読んだら異常とも思えるほどの真知子君の康太君への偏愛の理由が分かりますよ」

 長谷川がさも羨ましそうに、「あぁ、僕が担任になりたかったですわぁ。そしたら湯村とまた関っていけたんですけどねぇ」

 松信が、「先生豪くセンチですね」

「湯村に関しては関わった教師はみんなそうなるんじゃないですか?」と逆に長谷川が問い掛ける。

「確かに湯村のあのかわいい声で完璧なネイティブスピーカーのリーディングが聴けないと思うと授業に全く張り合いがないですわ」

「我々教師がそんなことではこまりますな」と白水が冗談混じりに揶揄する。

「先生は湯村が居なくなって虚無感みたいなものはないんですか?」と長谷川が口を尖らす。

 白水は禿げた頭を撫でながら、「いやぁ…無いと言ったら嘘になりますな。あんな優秀で誰からも好かれる、そこに居るだけで周りを明るく愉しくする生徒はこの鳥巣高には二度と現れないでしょうから」

 長谷川と松信は笑いながら、「先生こそ湯村に対する最大の賛辞ですな」

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