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ちんばの総長  作者: クスクリ
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小倉南区葛原Ⅰ

 北九州市小倉区が小倉北区と南区に分かれたのは昭和49年4月1日だ。美穂ちゃんたちが馴染みの喫茶店で駄弁っているのは昭和50年3月。拓海が達己と喧嘩修業に北九州を訪れたのが昭和49年。と言うことはこのときはもう小倉南区葛原か。俺が初めてB界を訪れたのはB界の1973年、B界の昭和48年で、このとき俺が居たA界は2012年、平成24年で、俺の歳は53だ。


「俺の小倉の危ない裏通り喧嘩修行ん話は後回しにするとして、ほんと俺としては命からがらっちゅう表現になるんやけど、やっとのことで車ば停めとった小倉港まで逃げおおせたよ。ふ〜っち一息吐いて運転席に座った俺に達己さんが哀願口調で言うんや、『疲れとるとこ申し訳ねぇんやが拓海、ほんとは俺一人のときに行きたいところなんやがせっかく来たけんのぉ。小倉に来たら絶対に寄って帰りたいところがあるんや。行って貰えんやろうか』っちよう、俺としてはこげな危ない街、早いとこずらかりたいところやったんやが、達己さんに頼まれたんじゃ断れねぇよ。どこですか?と訊いた俺に達己さん、『俺の人生の恩人の家や』と。でも達己さん、ここ十数年、会えたんは1回だけなんやって笑っとった」

 美穂ちゃん、「1回だけしか会えんかったって達己さん言いよったけど…それがまさか十数年ってあんまりじゃ…」と言葉に詰まる。

「でも寄らざるを得ない達己さんの気持ち、痛いほど分かるよ」と美穂ちゃん。

「達己さんの大悟先生愛やね」と夏希。

「達己さんアニキとしか言わんけ、俺には単に若い頃めっちゃ世話になった先輩かなんかかなってしか考えんやったわ。アニキって言う人があの大作家、木村大悟先生って知っとったらサイン貰っとけばよかったわぁ。職場で自慢できたっていうよりお宝っちゅうことでテレビ局の取材がわんさかきたかもしれん」と虚空に視点を浮かせる。

「拓海のバカ!何考えてんの」と美咲。


「美穂ちゃんが言いよった葛原っていうところなんやけど、小倉の市街地からはずいぶん離れとったよ。周り一面田んぼや。走った道は宮崎まで伸びとる国道10号線やな。そいば右に曲がってちょっと入ったところやった。この辺り、民家は数件しかなかったで。日豊本線が通っとってその土手の上の一軒家やった。『あの家や』って言うた達己さん途端、『あっちゃ〜、GTOがあるぞ。もしかしてアニキ家に居る?』ってはしゃぎ捲っちゃるんよ。あんな達己さん俺初めて見たわ」ときょとんとしている拓海に美穂ちゃん、「そうかぁ…拓海君ラドンの上映会に来てなかったけん伯父さんと達己さんの絆の深さは分からないよね」

「ほんと何度も言うようやけど達己さん何も喋ってくれんけんね」と拓海が口を尖らす。

「野中、掻い摘まんででええけ俺に話してくれよ。達己さんと大悟先生の関係分かっとかんとこいから話すことに支障来すかもしれんしよぉ」

「分かったよ拓海君」と美穂ちゃん。


 これから美穂ちゃんが拓海に話すことは、この物語を書いている俺が(A界の2021年12月5日現在、62歳の年金暮らしのジジイだが、何を隠そう、B界の創造主様だ。その俺が小説『夢界の創造主』で口から出任せで語った内容、このことは美穂ちゃんも承知だが、それを拓海に真剣に話してやろうと言うのだ)B界で口から出任せに喋ったことだが、創造主の俺が口にしたことは全て真実になるのがB界の掟である。

「掻い摘まんで話しても結構長くなるけど、いい?」

「頼む野中」

「分かった」


「達己さんのお兄さん正之さんは地元猪町では数十年に一度の神童と異名を取っていたんやけど、家は貧しい農家で進学は望めなかったみたい。ならと、元来戦うことが大好きだったお兄さんは海軍の飛行予科練習生に志願したんやって。大悟伯父さんも地元久留米では正之さんに勝るとも劣らぬ神童ぶりを発揮していたんやけど、やっぱり戦うこと、特に飛行機乗りに憧れていて予科練に応募したん。それで二人は同期生でライバル関係になったという訳。二人ともめっちゃ気が荒くて腕っぷしも強く、ことあるごとにぶつかったけど、喧嘩の戦績は五分やったんやって伯父さん笑ってた」。

「そうして二人は互いに認め会う、親友関係になったんやけど、山本五十六連合艦隊司令長官が空戦で撃墜されて亡くなったとき、零戦での護衛の任務に就いた中に伯父さんと正之さんも居ったん」

 拓海、「えっ!日本人なら誰でも知っとる山本五十六の撃墜死のときの護衛の任務って日本の一大歴史的事件じゃん」と絶句する。

「そう。二人ともその大事件の当事者。当時の日本って無線は全て連合国に解読されて筒抜けなんやから誰が護衛しても避けることなんかできないよ。でも軍国日本ではすいませんでは済まないよね。二人に求められたのは死だよ。死ぬまで最前戦の空戦に送り込まれた。本人たちいかに理不尽でもその責任は痛感していたから母国を恨む気なんて更々ないし、連合国パイロットを一人でも多く道連れにするつもりでドッグファイトを続けたんだよ。でもとうとう正之さんは空戦で戦死。伯父さんは左足を失ったけど復員したんや」


 美穂ちゃん一息吐いて、「簡単に喋ろうとしても無理みたい」と舌を出す。

 拓海、真面目な顔で、「いや、野中の思うように話してくれ。俺のしょうもない喧嘩修行よりこっちの方が余程為になる気がするよ。そいにこの話今じゃないと絶対に聞けんのやろ」

「確かにそうやろね。達己さんに話してって言っても無駄やし大悟先生には絶対会えないし、今このとき美穂からじゃないと無理だよ」とさらっと答える美咲。

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