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ちんばの総長  作者: クスクリ
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第46話 黒崎喧嘩修業Ⅱ

「何や、やったら達己さんのあの落ち着き払った態度も理解できるわ。素手で日本刀相手にしとったんならドスなんておもちゃやん。全く慌てんし顔色も変わらんやった。ほんと大したお人やで。ほんとあの人と一緒に居ったら怖いもの無しや」

「達己さん、ドス抜いたヤーさんに言い放ちやったわ、『あ~あ、とうとう抜いちまいやがったわ。やから喧嘩の弱いヤー公っち嫌なんや。よう考えちみろや。だいたいよ〜、拳や蹴り足が俺に全く届かんのにドス握って腕が長くなったけんち当たるち思うんか?ほんとノータリンやな〜』って呆れとったよ。一般人なら鈍い光放つ刃物前にして呆れてる場合じゃないと思うばって」と拓海。

「酔っぱらいの見物人からもドス抜いたヤーさんに非難囂囂やったわ、『確かに兄さんの言う通りや。殴っても蹴っても当たらんのに刃物やからって刺さる筈ないわ』っていい笑い者や。二人の内のガタイのいい方のヤーさん顔真っ赤になってよ、『こっちも覚悟決めたわ。懲役行くつもりで獲ったる』って達己さんに向かって行ったんよ。ヤクザの刺し方、刃ば上にして両手で握って身体ごと」

 と、ここまで話した拓海、一応、どうだ!って感じで女の子三人を見回す。想定通り、彼女らに緊迫感はない。達己さんやったら当然、ふ〜んといった感じだ、『大作家の大吾先生から達己さんの若いときの武勇伝聞かされとんのやけん、俺なんかの喋りより相当リアリティーあるに決まっとるよね』と拍子抜けする。

 堪らず、「みんな俺の話面白い?もう止めようか?」と訊いてしまった。

 美穂ちゃん、口を尖らせて、「何で?止めないでよ拓海君。私日本に帰って来て拓海君の変化に一番びっくりしたんやから。たった1年でのその成長の過程知りたいに決まってんじゃん」

「でしょ」と同意を求めると、夏希も照代も、「うん是非聞きたいよ」

にこっと微笑んだ美咲が、「良かったじゃん拓海。さすが私の彼氏!」

 美咲の言葉に気を良くした拓海、「分かった。続けるよ」


「ヤーさんの身体は確かに達己さんには当たったよ。見物人の見る角度からは刺さったように見えたけん、うわ〜っていう悲鳴が聞こえたばって、達己さんドス持ったヤーさんの両腕をしっかり左脇で抱えて押さえとったんよ。瞬間、達己さんのえげつない右の肘打ちがヤーさんの左顔面を襲ったんや。その威力たるや、重いヤーさんの身体、ぶっ飛んだよ。もちろん意識失ってね。ヤーさんの片割れ、ビビってしもうてドス投げ出して遁走しやがった」

「途端達己さん、逃げるぞ拓海!やって。俺らひたすら走ったよ。車相当遠くに停めとったけんね。ばって達己さんとても40とは思えんくらい足速いんやけん。俺やっとのことでついて行ったよ」

「達己さん言うんや。拓海、俺ぁヤクザに感心することが一つあるって。そいは警察並の情報収集能力やって。もし奴らが仲間集めて追い掛けて来て、俺らが乗っとる車見られたらすぐ足がつくやろうってね。やけんとにかく何の情報も与えないためには、奴らの視界から消えてしまうほど速く、また遠くに走り去るんやって」


「野中どう?面白い?黒崎編はここまでや。後は小倉編やけど」とわざわさ断りを入れる拓海。

「拓海の喋り中々堂に入っとるやろ?」と満足顔の美咲。

 美穂ちゃん、「黒崎編小倉編って分けてるってことは、小倉編での主演はもしかして拓海君?」

「ピンポン」と陽気に答えた拓海だが、途端表情を暗くして、「今やけん笑って話せるばって、あんときはほんと俺の一生終わったって覚悟したよ。まぁ達己さんが付いててはくれたばって」

「男子って大変やね。私女子に生まれて良かったよ」としみじみ漏らす美穂ちゃん。

 拓海、「野中、同情してくれるんやな、ありがとう」


「俺と達己さん、黒崎からは早々に離脱して小倉に向かったよ。黒崎小倉間は3号線がメインストリートや。ここ市電が走ってるんやけど、ぶっ飛んで15分くらいで着いたかいな。達己さんは北九州には詳しいよ。動労(更迭の労働組合。正式には日本国有鉄道動力車労働組合)の会合がよく門司港の門鉄(門司鉄道管理局)であったけん仲間と小倉で飲んでたんやて。ときには黒崎でも飲んだかなって言ってた」


 ふと美穂ちゃんが、「伯父さん確か小倉の葛原ってところに住んでんだよ。私が北九州大学四年のとき伯父さんと鳥巣に遊びに行ったん。そんとき『とらや』のラーメン、みんなと一緒に食べたんやけど達己さん言うとったよ。動労の会合があって門鉄に行ったときは必ず寄ったけどたった1回会えただけやって」

 拓海、「もしかした達己さんがアニキって呼んでた人?」

「野中の伯父さんって、幻の大作家って呼ばれて、マスコミには一切登場しない、現在の所在も明らかじゃない、『夢界の創造主』の木村大悟先生だよね。美咲にあとで歓迎会の相手があの大悟先生って聞いてビックリ仰天したんや。まぁ誘われなかったのは俺の不徳の致すところって納得できたばって、行く前に教えてくれんかった美咲にはちょっとムカついた」と口を尖らせる。

「だって拓海、私が大悟先生の大ファンって知っとるやない。教えたらめっちゃ焼き餅焼くんに決まっとるんやから」

 照代が、「拓海君行かなくて良かったよ。あんな美咲見るの耐えられなかったって思うけん」

 美穂ちゃんが口に人差し指を当てて、「照代、めっ!」

 照代、途端に口を両手で押さえて、「言っちゃったぁ!」

「って何を?」と拓海。

 夏希が、「仕方ない教えてあげるよ。美咲、夢にまで見た大悟先生目の前にして抑えが効かなくなったみたいで大悟先生べったりやったん。腕組んだりして。大悟先生鼻の下伸びてたよぉ」と笑う。

 拓海、大して気にする素振りもなく、「何や、そげなこと。俺とは存在の次元が違い過ぎて妬く以前の問題やし」


 ここで拓海、にやっと笑う。

 女子三人、「拓海君感じ悪いぃ」

「美咲、俺が強くなった今でも大悟先生の大ファンなん?」という問に、「当たり前じゃん。確かに拓海は彼氏やけど大悟先生は私の別腹なん」

 拓海わざとらしく虚空を見上げて、「そっかぁ、達己さんが言ってたアニキって大悟先生のことやったんかぁ。そう言えば俺、知らんやったけん大悟先生とのこと誰にも話してなかったわ。もちろん美咲にもね」

 美咲、眉間に皺を寄せて、「大悟先生とのこと事前に拓海に言わんやったことへの意趣返しなんやね」と呟いたあと、がばっと拓海に正対して、「拓海あんときのことほんと悪かったよ。謝る。また大悟先生の歓迎会やるときは絶対拓海も誘うけん。ねぇ教えて。大悟先生の小倉での日常って拓海の目から見てどんな感じやったん?」

 拓海、「どっしょうかな?喋ろうかな?黙っとこうかな?」と美咲の反応を楽しんでいる。

 美穂ちゃんも、「私も伯父さんとは五年ぶりにやっと会えたん。でもヒッチハイクで偶然会えたその日と歓迎会を開いた日、そしてその翌日とたった三日間だけなんだよ。それからは全く音沙汰無し。手紙は何通か出したけど返事帰ってこない。伯父さんが小倉に居るのを知ったのもそのときなん。正直私も伯父さんが小倉でどんな暮らしをしてるか知りたい。お願い拓海君」

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