第44話 美咲と拓海
拓海が自信満々に、「野中、俺、やっと念願のGTO・MR手に入れたぜ」
「えっ!もしかして表に路駐してたん拓海君のMR?」
「おうよ。ばって手に入れるん苦労したぜぇ。何しろ絶版車やけ全国探し回ってやっとやでぇ」
美穂ちゃん、怪訝な顔で、「顔は私が留学する前の拓海君やけど、なんか印象が全然違うよ。話し方も何か堂々としてるし」
美咲、にやにや笑いながら、「やろ」と意味深な言い方。
「実は拓海、鳥巣機関区ラリークラブのクラブ員なんや」
「拓海君が就職したんは地場の久留米ゴムやろ。部外者でもクラブ員になれるん?」と驚きを隠せない。
拓海は頭を掻きながら、「俺はあの丸星ラーメンでの一件以来激しい自己嫌悪に陥っちまったんや。悔しくて情けなくて人間止めたくやったよ。偶々達己さんが居合わせてくれて事なきを得たけどよぉ、もし俺一人やったらここにいる四人、誰一人守れんやったんや。俺は男失格や」
美咲が話を引き取る。
「私、達己おじさんの見事な喧嘩、瞼に焼き付いてるよ。男はああでなくっちゃね。やっぱり女は強い男性に惹かれるよね。守って欲しいよね。はっきりいって私あんとき拓海捨てようって思ったよ」
「酷ぇなぁ」と拓海は世にも情けない顔になる。
美穂ちゃん、間髪いれず、「そこはやっぱり拓海君だ」に、三人から笑いが起こる。
拓海は真顔に戻って、「強さに憧れん男は居らんでよぉ。あんな事件があったらね。顔では笑うとったばってん、美咲の俺は達己さんの足許どころか影にも及ばんっちゅう言葉には打ちのめされたでぇ。俺も一応男やけんね。やってやれないとこはねぇって一念発起した次第や」
美穂ちゃん、興味津々に身を乗り出して、「それでどうしたん?」
今度は美咲、「車が無くてはラリークラブに入会する資格もないやろ。就職して直ぐ、二人で中古車雑誌片手に兎に角MRを探し回ったよ。運良く福岡にあったよ。私も協力して貯金崩して頭金にして拓海銀行でマル専手形切って即行で手に入れた」
「二人でMRに乗って鳥巣の達己おじさん訪ねたんや。達己おじさん二つ返事で入会承諾してくれたよ」
「喧嘩の件は身体を鍛えることを条件に弟子入り許された。達己おじさん、喧嘩で俺に弟子入り?ってまさかって笑っとった。ばって当事者やから勿論丸星ラーメンの件は承知やし、俺の悔しさも無茶分かってくれたよ」と拓海。
「身体を鍛えることが条件ってどんな風に?」と美穂ちゃん。
「うん。腹筋背筋腕立て伏せは基本メニューやけど。ジムに通ってのウエイトトレーニング。それと達己さん意味深に逃げ足の速さに言及しとった。やけん毎日朝10キロ走っとる」
「毎日10キロ!」と目を丸くする三人。
拓海はまるで達己教の信者にでもなったかのように熱弁を振るう。
「いくら喧嘩が強い奴でも真剣に格闘技やっとる奴には歯が立たんとか尤もらしゅう言う奴がおるばってん、達己さん見とったらそいは全くの嘘やで。柔道の達人やったらヒット&アウェイで組む前にもう伸されとるし、空手の達人やランキングボクサーでも達己さんには触れることさえ不可能や。その動体視力や動きは人間業やない。格闘技やっとる奴は修業修業と何か喧嘩にない特別なことやっとるごというばってん、詰まるところ、どれだけの時間ばその修業に当てたかやないんか。時間は誰の上にも平等やし、結局どれだけ本気で死ぬ気でやったかの違いやで」
「喧嘩が強くなるためには自分に対する絶対の自信、それにはまず修羅場を潜ることって教えて貰うた。非番の日には生傷が絶えんほど情け容赦なく達己流喧嘩殺法で鍛えてくれたばって…、ここから先はちょっといい難いな」と拓海。
美咲はにやにや笑っている。美穂ちゃん、夏希、照代、「もうここまで話して止めるなんてずるい。話して話して」と急かす。
「しょうがないな」と満更でもない拓海。
「小倉黒崎の危ない裏通りに喧嘩売りに連れて行かれた」
「えっ!えっ!」と三人。
「小倉まで?!」
「正直ビビったでよ」と、わざとらしく身震いする拓海。
「達己さんが言うには北九州が唯一戦後の危ない佐世保に似とるんやって」




