第41話 登壇
「お前ら待たせたな。いよいよ総長の登場や」
「俺も浩も総長に命預けて福岡県制圧したるつもりや」
「お前らはどうじゃ?」と、坪口がハンドマイク右手に手下どもに大音声で投げ掛けるや大合唱が起きる。
「総長!」
「総長!」
「総長!」
「うおぉぉぉ!」
「お前らの意気込みよう分かったわ」
「ただ一つだけ忠告しとくでぇ」
「俺らの総長は合田のごつ、図体だけデケーで、幼稚園児並みの頭のバカがいい気になって頭張っとる愚連隊たぁ違うんどぉ」
一斉に笑いが起こる。
坪口は、「戦争はここや」と即頭部を指で突く。
「坪、お前ぇばっかり喋らんで今度ぁ俺に喋らせれや」と浩紀がマイクを取り上げる。
「訳あって総長はお前らに顔は曝せん」
「まぁ分かる奴は分かろうけどよ。仲間内だけに留めとけや。もし外部にバラした奴が居ったら絶対俺が突き止めて目潰したるけな」
ひそひそ話が始まる。
「おい、なんで総長は俺らに顔曝せんのじゃ?」
「そんなん俺に分かるか」
「ただTBRが出来たときから影の総長の噂はあったばってん坪口と浩のブラフっち思とったじゃん。そいが本当に居るっち知ったときぁ俺ぁ信じられんやったわ」
「ただあの狂犬二人が自分らの上に立つ人間ば認めたっちゅうんが真実や」
「確かにな。あの二人の上なんやからどげん凄ぇ化けもんか見んでも分かるわ」
「浩君と坪口だけ狡い。あたしにも喋らせて。なんてったってあたいは総長の康ちゃんに次ぐナンバー2だかんね」
「けっ分かったよ」
「ちょっと待てや。俺がお膳立てだけしたるけんよ」と浩紀。
「レディースのもんにも待たせたがよ。総長登場の前にレディース総長の紹介や。例に拠って顔は曝せんが…」
「まぁ分かるもんにゃ分かろうがその辺は適当に誤魔化しとってくれや」
傍でぷ~っと美代子がマスクの下で河豚の如く膨れる。
「浩君適当にって酷い!」
「あたいも一応影の総長だかんね」
浩紀が、「ほらよ」とハンドマイクを美代子に渡す。
注目度が落ちるレディースの総長といえども、彼氏でもあるTBR総長・康太の手前、野郎どもに嘗められる訳にはいかない。必然気が張る。美代子はふ~っと息を吐くと、赤い特攻服のポケットに左手を突っ込んだ姿勢で、「訳あって総長と同じく素顔晒せないけどその辺宜しく」
「断わっておくけど…」
構成員の一部が美代子の挨拶の腰を折るかの如く一斉に指笛を吹き鳴らす。
「レディースなんかどうでもええ」
「俺らは総長を拝みに来たんじゃ」
「引っ込めや」
途端、池の端に陣取っていたレディースが俊敏に動く。総長代理の淳子を中心に、屯する構成員の間を乱暴に割って入ると、その一団を取り囲む。
「あんたらあたいらの総長愚弄するたぁ良い度胸じゃん。どっから来た族なん?」
「覚悟はできてんやろうね」
「なんじゃい」
「バックに男が居ねぇと何もできねぇレディース如きに俺らに喧嘩吹っ掛ける度胸なんかあるんか?ぁあ」
「ヤれるもんならヤってみぃや」
一色触発の状況にハンドマイク片手の美代子は大袈裟に肩を落として、「あ~あ、ヤってしまったよぉ。今あたいを嘗めたら酷い目に遭うって忠告しようと思ってたんに」
美代子は大塚と浩紀に顎をしゃくって合図を送る。
「しゃぁねぇ。一応三浦はナンバー2だかんよ」
2人は一気にその一団に突進すると有無も言わせず袋にしてしまった。
白目を剥いて地面に惨めに伸びる数人を見下ろして、「けっ、口の割にゃ歯応えのねぇ奴らじゃ」と坪口がぺっと唾を吐く。
「こいつら目障りじゃ。池にでも放り込んどけや」と浩紀。
その悲惨な光景に構成員はビビりあがって声を失い、単車のエンジン音を残して真夜中の公園はしんと静まり返る。
「忠告しとくよ。あたいの命令は総長の命令やから。やから、特攻隊長も親衛隊長もあたいの命令には絶対服従なんやから」
固唾を飲んで自分を注視してくれる構成員たちに気を良くしたのか、「どうしてだか理由知りたいやろ?」
「それは…」
「それはあたいが総長の彼女だからだ~よ」
淳子と真理子は、あっちゃ~と顔を見合わせて、「美代子言っちまったよ」
坪口と浩紀も、「三浦の野郎調子に乗り過ぎじゃぁ」
「レディースのみんなには悪いけど総長には手を出さんとってね」
「じゃぁあたいの彼氏のTBR総長を紹介するよ。断って置くけど総長は全く喋らんけんあたいが代わりに総長の意志を代弁することになるかんね」
「康太待たせたな」「出番や」と坪口と浩紀。
康太はポーズか、思いっきり背伸びするとベンチからむっくりと立ち上がる。
「さすがに待ち草臥れたわ」
「康太、俺と浩が脇固めるけ真ん中に立ってくれや」
「分かったわ」と康太。
美代子のスカーフで顔半分を覆い、背に総長の金字の刺繍入りブラックの特攻服に両手を突っ込んで若干前屈みに歩く康太は、約束した通り、カモフラージュすることなく左足を引き摺った。総長の登場とともに月明りの空に右手を突き上げて気勢を上げたかった構成員の意気込みが一瞬にしてどよめきに変わる。
「おい見てみろよ。総長びっこ引いとるぞ」
「あれが俺らの総長か?」
「もしかしてあげな総長にあの狂犬二人が頭上がらんのか?」
「うそやろ!」
坪口と浩紀はただ意味もなくにやにやと笑っている。まるで構成員たちの反応が分かっていたかのように。




