表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちんばの総長  作者: クスクリ
4/47

第4話 鳥巣公立三校

 佐賀県鳥巣市には公立高校が三校ある。鳥巣高校、鳥巣商業、鳥巣工業だ。私立はない。通学可能な圏内にはあと佐賀県佐賀市に龍川高校と鍋島学園高校の私立二校、福岡県では大宰府市に第二高校と福岡市に西福岡高校の私立二校がある。新年度に入って、効いていた睨みの箍が外れたように鳥巣市の中学も高校も殺伐として荒れ気味だ。久留米狂走連合も越境して鳥巣市にちょっかいを出すようになっていた。進学校の鳥巣高校とて例外ではない。部室も今や不良の溜まり場と化した感がある。鳥巣高校の部室群は体育館と向かい合うプールの一辺に沿って設けられている。


 木製机を二つ釘で打ち付けて、牌が引っ掛かるように縁取りした急拵えの雀卓を囲んで鍬え煙草で洗牌しながら、情報通を自認する一人が、「お前ら知っとうか。工業の番変わったそうやで。そいも一年坊によ」

「何てか、あの坪口がやられたんか!」

「坪口はヤーさんの舎弟にもなったって聞いたでぇ。信じられんわ」

「まだおまけがあるんじゃ聞いて驚くなよ」とその情報通はにやっと笑う。

「勿体つけずにはよ言えや」と場の連中が急かす。

「工業の頭張ったんは坪口の弟や。タイマンで兄貴ば半殺しに痛め付けたらしいぜ」

 連中が唖然として、ぽかんと口を開ける。

「まさか…弟が兄貴ば半殺し」

「今年の鳥巣中からの一年は工業にしても商業にしても半端じゃねぇんじゃ。商業の番の斎藤も一年に半殺しにされて頭盗られたっちゅう話やし」

 別の一人が呑気に、「ばってこん鳥巣高だけは平和なもんやな」

「馬鹿か。お前何も知らんな」と貶されたそいつは色をなして反駁する。

「この鳥巣高に関谷ば脅かすごたる一年坊なんか居らんめぇもん。どこに居るんか?知っとるなら教えれや?」

「今年あの真知子先輩の弟が入学して来たろうが」

「あぁ、ばってあいつぁ足悪いんやろうがちゃ。義足って噂やで」

 別の一人が、「あのチンバ、一年のくせに俺らの存在無視しやがって生意気やどぉ」

「そうやな。そいに偉そうにいつも女と一緒に居るぜ」と吐き捨てる。


 ホンダのCBナナハンの4ストの爆音とともに鳥巣高番の関谷がスケバン風成りをした家政科の女子と一緒に部室に入ってきた。ナナハンで校内に堂々と乗り入れるなど、鳥巣高三年の風紀の乱れもここに極まった感がある。

「ほいよ」と関谷はハイライトをばらばらと雀宅の上に出すと、草臥れた長椅子にどっかと腰を下ろして足を組み、女子の肩を抱く。

「トモちゃん勝ったんか」とグループの一人。

 女子に銜えた煙草に火を点けて貰った関谷は、旨そうに煙を吐き出して、「あたりきよ。ラッキーは俺の庭じゃ。負ける訳ねぇやねぇか」

 女子が、「トモやったらパチプロでもやっていけるんやない」と関谷を持ち上げる。

 満更でもない関谷は、「そうやな。暫く学校来んで稼ぎ捲ったるかいな」

「トモちゃん俺ら今、生意気な一年坊の噂しよったんよ」

「誰んことや?」と関谷は不良グループの頭らしくぎろっとそいつを睨む。

「ほら、今年入学してきた真知子先輩の弟だよ」

「あのチンバか…」


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎し。関谷は歯牙にも掛けてないような言い方をしたが、苦い思いが頭を過る。真知子の彼氏の井本は鳥巣市の伝説の番長だ。母校である鳥巣高は井本の完全な支配の下、下級生は勿論、同窓の者も井本の目の届くところで目立った行動を取ることは命取りだった。他校の者も同様だ。

 下級生をカツアゲした関谷はチクられて井本に焼を入れられた。そのときの恐怖、思い出しただけで全身の震えが止まらない。蛇に睨まれた蛙状態の関谷は、竦んでしまって全く身体が動かない。目にも留まらない井本の強烈なストマックへの前蹴り一発でゲロを吐き捲って地面を転げ回った。

「次やったら殺すぞ似非ヤンキー」の井本の言葉が脳裏に焼き付く。

 恥ずかしくて病院にも行けなかった関谷は、食い物を受け付けない胃を抱えて学校にも行けず、二・三日家で唸った。街で真知子と弟、井本が並んで歩いているのを見掛けたことがある。井本恐怖症に陥っていた関谷は思わず陰に姿を隠してしまった。校内でも井本を視界に捉えた途端、身を隠した。苦節半年、漸く井本が卒業した。

 その記憶は関谷にとって屈辱以外の何物でもない。

「トモちゃんどうかしたんか?」

「いや、何でもねぇよ」 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ