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ちんばの総長  作者: クスクリ
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第38話 タイマン

 中央公園下段にタイマンには十分の円形のスペースが開けられた。その周囲を構成員が何重にも取り巻く。最後尾は池縁ギリギリまで追いやられる。あと半歩後退したら暗い池の中にドボンだ。

「押すな」

「押すなっちゃ」

「危ねぇやねぇか」

「落ちるっち言よろうが。前詰めれっちゃ」


 人垣の中に等間隔に単車を配置してヘットライトが点灯された。坪口・美代子・支部長連中は変わらず上段に居座って浩紀を見守る。

 美代子が、「坪口ぃ、余裕かましてるけど浩君大丈夫なん?」

 坪口はニタニタ笑いながら、「こいはボクシングや無ぇ。あくまでもルール無しの喧嘩や。そん喧嘩に俺や浩が負ける訳無ぇやん」

「三浦見てみぃや康太ば」と言う坪口に、ベンチに眼を遣る。

「康ちゃん気持ち良く居眠りしてるよぉ」

「さすが俺らの総長や。あの図太さ、俺には絶対真似出来んわ」

「俺も浩も、もし喧嘩で負けたら総長ば裏切ったことになるわ。康太は俺らを見限って普通の高校生に戻ってまうでぇ。そんことは浩も重々分かっとるけん、絶対に負けんごつ血反吐吐きながら喧嘩のプロの井本さんに鍛え上げてもろうたんや」


「こんなもん滅多に見れねぇよ。大牟田の果てから出て来た甲斐あったでぇ」

「俺は佐賀じゃ」

「お前は?」

「俺は二日市や」

「辰吉っち新人王やろ。隊長がいくら化けもんのごと強ぇちゅうてもプロボクサーに敵うんかいな?」

「隊長の顔見てみぃや。余裕寂々やで。俺には隊長が負けるてろ想像出来んわ」


「こらぁ良い見せ物やな」とは達己。

 佐和子が、「浩くん勝てるの。さっきおじさんに全く歯が立たなかったでしょ」

「お佐和、俺とあのボクサーば一緒に見るなや」

「ん…?」

「どうしたのおじさん?」

「何か見覚えあるち思うたらあんときの族か」

「あのときって?」

「去年の今頃、丸星の駐車場で美穂ちゃんが奴に絡まれとったんば助けてやったんじゃ」

「美穂ちゃんが暴走族に絡まれてたなんて全然知らなかったよう」

「喧嘩したの?」

 達己はちょっとバツが悪そうに、「頭突きで眠らせた」

 佐和子は、「あんなに強い人を…」と唖然とする。

「まぁあんときよりは強うなっとるようやな」


 辰吉は余裕の笑みを浮かべながら特攻服と外したグラサンを取り巻きに渡す。相当絞っている。鍛え上げた肉体に贅肉なんか全く見当たらない。辰吉の階級はウエルター級だ。日本人が王座を獲得していない中で最も軽い階級だ。年齢は18歳、浩紀より2つ上だ。

 ――いつか刈谷にリベンジすんために苦しいトレーニング重ねてきたんじゃ。新人王も取ってこんままボクシング続けても良ぇかっち思うとったがよ…。そいがポッと出のガキに眼潰されて廃人にされたって、クソが!嘗めんじゃねぇぜ。こいつ血祭にあげて憂さ晴らしたるわ。

「ガキがぁ!」

「あっという間に俺の足許に這い蹲らせたるわ」


 浩紀は辰吉が握り込んだままのメリケンサックにわざとらしく眼をやって、「お前ぇもメリケン使うんか?」

「気になるんか。ボクサーなもんで拳労らないかんもんでよ」

「もしかしてお前ぇ怖ぇんか?」

「そうやろな。そん気持ち良う分かるわ。俺ほどのもんが握れば擦っただけで肉がザックリ切れるけんな」

「外して欲しいんなら土下座して頼めや」

「僕怖いからどうぞお外し下さいってな」

 取り巻き含めてドッと吹き出した。

「今言うたこと全部てめぇに返ってくんぜ」

「ていうことはルール無用の喧嘩っちことやな。分かったわ」と浩紀は右手を特攻服に突っ込んだ。

 何かがキラッと光ったと思った瞬間、辰吉の頬がぱっくりと切れて血が流れだした。取り巻きが狼狽える。

「なんじゃ!」

「ナイフかぁ」


「こいが噂で聞きとった隊長の投げナイフか」

「凄ぇ!あんなもん誰も避けきらんわ」

 もう一度今度はゆっくりとした動作で特攻服から手を出すと2本のナイフが指の間に挟まれている。

 ニヤッと笑った浩紀は、「新人王獲ったボクサーでもこげな至近距離じゃ躱せねぇよな」

「まぁ総長くらいの動体視力が無ぇと俺のナイフ躱すんは無理やがな」

「俺も暇じゃねぇんでよ。早いとこお前ぇの眉間にナイフ突き立てて終わらせな総長が首長うしてお待ちじゃ。あとで大目玉食うんは俺やでな。悪ぃな」


 辰吉が青ざめる。

 ――こいつナイフ使いか。そいも相当の腕や。この俺が全く動けねぇ。分かっとっても避けられねぇ。こいつ人一人くらい簡単に殺せるつもりか!

「汚ぇぞお前ぇ」

 取り巻きが吠え捲る。

「ボケかお前ら。ルール無しの喧嘩っち言うたんはお前らじゃ。さっきはわざと外したがよ、ちなみにどんだけ正確に眉間に刺さるか、お前ぇで試してみるか、ぁあ」と取り巻きの一人に狙いを定める。

 狙われた取り巻きはヒーと悲鳴を上げて別の取り巻きの後ろに隠れた。

「バカ、俺の後ろに来んなや」

 分が悪いと悟った辰吉は、「けっ!こいつ普通じゃねぇわ。頭切れとるわ」と拳のメリケンを外して力いっぱい池に投げ込んだ。

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