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ちんばの総長  作者: クスクリ
35/47

第35話 鍋島学園

 佐賀市の不良養成所・鍋島と龍川の2校のワルたちも傍若無人に好き放題暴れ捲るTBRに戦々恐々として手を焼いていた。

「輝ちゃんどうすんよぉ?」

「どうするって何がよ?」

「TBRのボケどもよ」

「目立つ奴は片っ端からカツアゲされとうぜ」

「まさに奴ら怖いもの知らずや」

「あの勝田先輩と川上先輩も女と230グロリアで街流しとるときに襲われて半殺しにされたうえ、女浚われて回されたって話やで」

「もちろん車はボコボコにされてスクラップや」

「去年のうちの総番の勝田さんと副番の川上さんがか」

 そこに居る誰もが耳を疑った。

「私たちもTBRに襲われたら回されるん?」とヤンキー女生徒。

「あぁ間違い無くな」

「奴らに媚びても無駄やで」

「血も涙も無ぇ奴らやけんな」

「うちの奴らの何人かは刈られるんにビビっちまってボンタン・短ラン捨てた上に坊主にしちまったよ」

「族仕様に決めとった単車までノーマルに戻してな」

 総番はペッと唾を吐いて忌々しそうに、「チッ」

「根性無ぇ奴らやな」


 ここ鍋島学園応援部部室は校内のワルの巣窟だ。輝と呼ばれる総番を中心に不良女生徒も加わって、雀卓を囲んで煙草を吹かす。名前さえ書ければ合格すると揶揄されるこの鍋島学園、不良どもには毎日の授業などそっちのけだ。ちゃんと学校に出てくるだけまだマシか。奴等は教師連中には触らぬ神に祟りなしの扱いだ。

「鳥巣中からうちに来た1年の松島が支部長やわ。周りは鳥巣からの越境組が固めとる」

「うちの1年には鍋島中の長田が居ったよな?」と総番。

「松島に喧嘩売って返り討ちにされたがや。そいから奴に対抗出来る者は1年には居らん」

「中学んときあんだけ恐れられとった長田がまさか…」

 総番は唸る。


「ならもう1年は締めたも同然やないか。今度は俺ら的にしてくるんやないんか」

「いや松島は2・3年には興味がないようなんや」

「どけなこっちゃ?」

「坪口の鳥巣工業でも大塚の商業でも希望して奴らのグループに入れるんは1年だけで上級ん者はツッパリ辞めてしもうておとなしゅう奴らに貢ぎよるっちゅう話しや」

 総番は額に青筋立てて、「なんじゃ」

「TBRに刈られんために俺らもツッパリ辞めて1年の松島に貢げっちゅうんか?」

「あぁ殺されんためにはな」

 途端、総番はそいつの襟首を掴んで、「お前ぇ寝言は寝て言えや」

 そいつも顔を上気させて、「なら輝、お前は何か策でもあるんか?」と対抗する。

 総番はヤケクソ気味に、「あぁあるわ。龍川と協力して支部襲って潰しちまえばええやろうが」


 一人が冷静な口調で、「輝、坪口と大塚の喧嘩見たことあるんか?」

「無ぇよ」と吐き捨てる。

「輝、久留米狂走連合の総長ば大塚が襲ったん知っとるよな」

「あぁ大勢でアジトば不意に襲ったんやろうが。刈谷さんは歴代最強の総長や。1年坊なんかに不意打ちくらったっちゃへでも無ぇ。撃退したんやろうが」

「そいはデマや」

「俺は狂走連合の内情に詳しい奴と仲ええんじゃ。刈谷さんたちは相当悲惨な目に遭うたごたるぜ」

「突入したんは大塚率いる数人や。狂走連合が根城にしとった茶店にゃ刈谷さん含めて十数人は居ったげな。大塚は全員半殺しにした上に刈谷さんもタイマンで分殺したち話や」

「あの刈谷さんばタイマンで分殺、まさか!」

 一堂唸るしかない。


 総番は今年の初め、久留米狂走連合の高良山での集会に参加した。武勇伝は数知れず、歴代最強の総長と異名をとる刈谷の貫禄十分の屈強な姿が脳裏に浮かんだ。

「刈谷さんは俺の憧れやったんや」

 総番は憎々しげに、「その刈谷さんが1年の大塚如きに…」

「そいでよ…」

「なんじゃ勿体ぶらんで早話せや」と周りがせっつく。

「お前ら聞いたらビビって寝れんぞ。そいでも喋ってええんか?」

「じれってぇな」

「あぁ分かったわ」

「奴らの頭の潰しかたは普通じゃねぇ。頭は手下と全く違う扱い方するんじゃ。仲間に取り込むとか全く考えてねぇ。煩わしく思うんはその報復や。そんために手下の前で頭ば残酷に潰すんじゃ。仕返しする気力も失せるごとな」

 みなゴクッと息を飲む。


「この先のことは箝口令が敷かれとって聞き出すんに苦労したんやけどよ…」

「大塚ぁナイフば刈谷さんの両目に突き立てたげなぜ」

 ぞっ!

 その場に居る者誰もが背筋が凍りつく。

「まさか?」

「腕の骨折るくらいなら出来んこたぁなかろうが…目ば潰すっちゃ…同じ人間に出来る仕打ちか?」

「刈谷さん…」

「まだ人生長いんに…一生台無しやねぇか」


 話したそいつは周りを憚るような声音で、「とにかく奴らは今までの族の常識にゃ当てはまらん冷酷で残忍な奴らなんじゃ」

「輝、お前にゃ悪いが俺は奴らに関わりたくねぇ。一般生徒に戻って松島に貢ぐわ。ツッパリのプライドもクソも無ぇ。盲にされたんじゃ人間終わりや。よっぽど殺された方がましじゃ」

「俺も長瀬に賛成や。あいつらはバケモンや。限度っちゅうもんば知らねぇ」


 部室での話に聞き耳を立てる奴など居る筈無いのに声を潜め出す。

「鳥巣で似たような話聞いたことあるぜ」

 総番が、「そう言えば松木お前、鳥巣の人間やったな」

「あぁ鳥巣駅で坪口と大塚の野郎にボコられたわ」

「ありゃ悲惨やったな。肋骨ぶち折られて病院送りにされたんやったな」

「情け無ぇけど狂犬相手にゃ仕返する気力も起きんやったわ。触らぬ神に祟り無しじゃ」

 仲間の自虐ネタにも、さっきまでの強気は鳴りを潜め、総番は「ウーン…」と唸るだけだ。

「ところで輝ちゃん、坪口の兄貴知っとうや?」と松木。

「あぁ高1にして鳥巣工業締めてしもうて誠心会の若頭の舎弟にしてもろうたって噂やった」

「ばって、そん兄貴どげんしたんや。なんでそげなバケモンのごたる兄貴ば差し置いて弟が偉そうに仕切れるんや?」

「松木何か知っとんのか?」

「刈谷さんと坪口の兄貴のやられ方が似とるんや」

「どげなことなんか?」とみな松木を注視する。


「坪口の兄貴は今、知恵遅れの学校・鳥巣学園に入園しとる。はっきり言うて弟に廃人にされた」

「何てや」

「実の兄貴ば廃人にしたぁ」

「あぁ、鳥巣工業の入学式の日、2・3年の番長グループと坪口の弟が対決してメタクソにやっつけたごたる。特に兄貴には残虐な仕打ちやったげな。両手の骨ぶち折って、顔は2倍に腫れるぐらいボコボコにして、仕上げに顔面ナイフで切り刻んで、兄貴の手下が弟に2度と刃向かわんごと、見せしめにしたらしいんや。そいでも手緩めんで治療して帰ってきた兄貴ば今度は兄貴の手下やった奴に毎日ボコボコに殴らせたらしいんや。その結果、兄貴は気が狂った」


 オエッ!

 聞いていた総番の彼女らしき女生徒が嗚咽する。

「て、輝ぅ」

「TBRには逆らわんほうがい、良いよ。ここまできたらもう高校生なんかじゃないよ。ヤクザだよ」と声が震えている。

 こんな生々しい話を聞いたらもう、こう相槌を打つしかない。

「そうやな…」

「そいでよ輝ちゃん、TBRの影の総長の話、知っとうや?」と松木と呼ばれた鶏冠頭。

「何てか?TBRに総長が居るっち話聞いたこと無ぇぞ」

「坪口と大塚が中心やろうが」

「あくまでも大塚は特攻隊長で坪口は親衛隊長や」

「鳥巣に広まっとる噂に依ればあの2人には喧嘩でも何でも絶対頭が上がらん奴が居るらしいんや。TBRのやるこたぁ全部そいつに伺い立てるげなぜ」

「まさか、あの狂犬2人ば手足のごと使うバケモンが居るたぁ…」

「いったいどげな奴なん?」


 鶏冠頭が話を続ける。

「でよ、今度の第二土曜日にその影の総長が集会に姿現すらしいんや」

 別の奴が、「ならTBRの結束は今まで以上に強うなるんやねぇか?」

「今TBRと事構えたらほんとにヤバいぜ。見せしめに兵隊400人連れて本気でうち潰しに来るぞ?」

「俺ら幹部、全員片輪にされんぞ」

「私たちみんな回されるん?」

「おとなしゅう松島に貢いだほうが得策や」

「そうやろ輝?」

「あ、あぁ…そうやな」

 鶏冠頭がふと、「俺ぁ大塚と坪口に鳥巣駅で袋にされたんやけど何か府に落ちんとこがあるんよね」

「何やそりゃ?」と総番。

「俺ら電車通学組は、自分たちはエリートやち俺らば馬鹿にしとるごたる鳥巣高生が無茶気に障るやん。やけ、取り澄ましたあいつらみるとムカつくし無性にちょっかい出しとうなるんや」

「そいで、制服のスカート丈ば短うした滅茶かわいい彼女連れた鳥巣高生が気に障ったけ因縁吹っ掛けてやったんじゃ」

「ほんだらよぉ、突然大塚と坪口が乗り込んで来て、2人がかりで俺ばボコボコにしやがってマジ殺されるっち観念したわ」

「そいのどこが腑に落ちんのや?」

「俺は救急車が来るまで駅員室で意識朦朧ちしとったばってん、あの狂犬2人とそのアベックが滅茶仲良さそうに駄弁りよんじゃ」

「で、その鳥巣高生に豪い下出に出よるごと見えたんよ」

「確かに…」

「ガンつけただけで半殺しにされるっち不良どもがビビり捲っとるあの狂犬2人が鳥巣高生と友達ちゃ解せんな」

「工業生も商業生も、俺らは頭がええんじゃっち偉そうにしとる鳥巣高生にゃ良い感情持っとらんち聞いたこつあるわ」

「そいに噂じゃ、TBRは鳥巣高生は的にせんっち言うぜ」


「今思い出したらあのアベック妙に変なんよな」

「どげな風にか?」

「あぁ、あの時間帯の鳥巣駅ぁ俺らみてぇな不良の溜まり場じゃ。鳥巣高生であの時間に鳥巣駅に来る者は居らんわ。ビビっちまっとるけんな。そいがあの女、俺が因縁吹っ掛けてもまったくビビらん上に俺に面と向かってゴキブリっち言いやがったわ」

「ゴキブリちゃ鍋島の松木も嘗められたもんやな」と堪え切れずにみながプッと吹きだす。

 松木は構わず、「あげなかわいい女、見たこと無かったけ最初は眼が点になっちまったが、今はかわいさ余って憎さ百倍じゃ」

「あの糞アマが」と吐き捨てる。

「うぅ…ほいでもあの女、隣りの鳥巣高生の彼氏に絶対の自信があったんか?」

「そうじゃねぇと俺たちにあそこまで言えんやろ」

「そいに相手の男、俺が脅してもニヤニヤするだけなんや。気味が悪ぃわ」

「もしかしてそいつが影の総長か?」と別の奴が冗談めかす。

「馬鹿言え。何が楽しゅうてガリ勉野郎の鳥巣高生の下につかないかんのか」

「そうやな」

「有り得ねぇ」

「有り得ねぇ」

 不良連中は下卑た笑いを部室に響かせる。


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