第33話 紛れ込み
「兄貴」と山本は驚きの色を隠せない。
公園内は立錐の余地もないくらいに集まった族と改造単車で埋め尽くされている。
権藤もヘルメットの中で声を籠らせて、「ここまで脹れあがっとったんか」と溜息を吐く。
「こりゃ狂走連合がTBRに取って変わられるんも道理やな」
山本は去年族を引退したばかりだから素顔を曝しても年齢的には問題ないが、この中には狂走連合から鞍替えした奴らもかなり居る。勢力は衰えたとはいうものの、警察の広域指定暴走族、久留米狂走連合の総長を勤めていた山本だ。この中に自分を知った奴が居ないとも限らないがまさかこんなところに出没しているとは思わないだろうから。
対して、権藤は素顔を曝すにはさすがにヤバい。歳でバレてしまう。
ともに久留米から駆け付けた族の一人が怪訝な顔で、「確かお前ら、俺らと一緒に筑後川越えてきたよな?」
「お前らも狂走連合やったんか?」
「あぁ」と生返事の山本に、「見たことねぇ面やな」
途端、山本はそいつの特攻服の襟首を掴んで、「俺を見たことねぇだとぅ」
「嘗めんじゃねぇぞこらっ」
「俺たちは去年まで山本総長直属の親衛隊やったんじゃ。お前らのごたる下っ端たぁ格が違うんじゃ」
山本の迫力と剣幕に小物だったのだろうそいつは縮こまって、「疑ってすまん」と謝るしかない。こいつらとは所詮箔の付き方が違う。
山本は掴んだ手を乱暴に離して、「おう分かればええんじゃ」
別の一人が、「あんたの相棒はこの糞暑ぃんに何でメット脱がねぇん?」
「あぁこん方は俺の兄貴分たるお人や。坪口とタイマン張って惜しくも負けてしもうて奴にライターで顔焼かれたんじゃ」と口から出任せの山本。
周りの奴らが、オー!と。
「あの狂犬とまさか互角のタイマン」
不敵にニッと笑った山本は、「兄貴はお強いんや。坪口追い詰めやったんやでぇ」
「負けはしたが奴の配下に収まるんば拒んだせいで顔焼かれてしもうたんじゃ」
「まぁ結局はTBRの構成員にはなってはしまったがよう」
「そいから兄貴は集会じゃメットは絶対脱がれねぇんじゃ」
達己と佐和子は浩紀を先頭に特攻隊の連中に囲まれて公園内を移動する。
TBR特攻隊の旗持ちが、「オラッどけや。特攻隊のお通りじゃ」
屯する族らが海が割れるがごとく通路を開ける。佐和子には痛快だ。特攻隊の十数人は達己の意向に沿って、お披露目の舞台代わりの公園上段から見えるか見えないかの適度な距離を保てる場所に陣取った。
特攻隊の輪の中央に匿って貰うが如く達己と佐和子。2人とも顔は隠していない。達己は堂々と国鉄の作業着のまま、佐和子もおめかししたスカート姿だ。
特攻隊はTBRのエリート集団だ。場に合わない2人に違和感を感じた族が居たとしても特攻隊に囲まれていたとしたら何も言えないし不問だ。
「おじさん、こんな経験私2回目だよ」と元来気の強い佐和子のこと、ワクワク感は隠せない。
と同時に、改めて筑後地区一円のワルが集まった感のある周囲を見渡して、「おじさんの言う通り、やっぱり真知には秘密にしておかないと無茶ヤバそう」
TBRレディースは池側の一角に固まっている。総勢80人くらいは居るだろうか。皆思い思いのレディース族ファッションに身を包み、ざんばら髪を赤・茶・金髪に染め、肩には木刀と竹刀、顔はマスクで隠し、トロンとした眼は焦点を定めない。特攻服の前を肌蹴て胸を真っ白な晒で巻く。正に危ない連中、ちょっとしたヤンチャ坊でも彼女らに近づくのには二の足を踏みそうだ。染め抜かれた文字はTBRレディース。
率いるのは今のところは総長代理に収まっている淳子だ。轟支部から離れて真理子も合流した。レディース見習い希望の中坊3人はヤバそうな会場の中を真理子の金魚の糞みたくくっついて恐々と付いて来る。
「淳子ぉ」
「オス真理子」
2人は右手同士をパチンと頭上で打ち鳴らす。
「やっと待ちに待った正真正銘、あたいらの総長のお目見えだよ」と淳子。
フッと真理子は肩を落として、「結局あたいは美代子に会えないままだよ」
「真理子のことは美代子には伝えといたからお披露目が終わったら改めて康太に紹介したげるよ」
「ほんと淳子、恩に着るよ」
美香が、「ねえ、ねえ、真理姉」と真理子の袖を引っ張る。
真理子は左横に一旦視線を向けて、「淳子、この子たちがこの前言ってた入隊希望の中坊だよ」
「ほらあんたたち、総長に挨拶しな」
真理子が3人を前に押しやる。
「美香です」
「法子です」
「真由美です」
途端厳しい顔になった淳子がウンコ座りで屯している仲間に向かって顎をしゃくる。見るからにヤバそうな2人が竹刀を肩に徐に立ち上がる。
何事かと3人は子犬のように震え出した。ヤバそうな2人はズンズンと3人に近づく。
気合い一発。
ヤバそうな2人の内の一人が、「オラッ!」という掛け声とともに力一杯、竹刀を背凭れのないコンクリートベンチに叩き付けた。3人は瞬間、ビクッと身体を硬直させる。
なんやなんや、と屯っていた族の一部がレディースを取り巻いた。
「新入りか?」
「あいつら中坊やねぇんか?」
「うちのレディースは半端ねぇけんな。耐えきるかいな?」
「見物やな」とにやにやニヤける。
声を荒げて、「あたいらは伊達や酔狂でチーム張ってんじゃないんだよ。嘴の青い中坊が格好付けのために入れて下さいはいどうぞって訳にはいかないんだよ」
言い終わってもう一度パシッと竹刀を叩き付けた。3人はもう一度ビクッと身体を硬直させる。
ヤバそうなもう一人が3人を脅し上げる。
「今日はお披露目が終わったら久留米と抗争や。怪我しないうちにとっとと帰んな」
「みんな気が立ってるんや。この会場に居るだけでも何があってもおかしくないんだかんね」
「チーム員でもないあんたらを助ける義理はないんだよ」
怖くて泣き出しそうな気持ちをグッと堪えて美香が一歩進み出る。
「もう後には退けないよ。あたいらを馬鹿にした奴らに目にもの見せてやるんだ」
「お願いします」
「チームに入れて下さい」と深く頭を下げる。
残りの2人も強張る足を気力で動かすかのようにヤバそうな2人の竹刀の届く距離までグッと進み出た。
「チームに入れて下さい」
淳子は破顔一笑、「へぇ…この2人を前に中坊にしては根性あんじゃん」
真理子が、「ヘタレを総長に紹介なんかしないよ」
淳子が大音声で、「みんなぁ、この3人チームに入れても良いかい?」
「意義なぁし」と口々に返事が返ってくる。
「良かったじゃん。これであんたらは正式にTBRレディースだよ」
ヤバそうな2人と真理子が3人の頭を撫でてやると、「良かったぁ」とヘナヘナとその場にヘタリ込んだ。その様子にチーム全員が大爆笑する。




