第26話 二度目のドライブ
「お佐和に会うのは半年ぶりか」
達己は喫い終わった煙草を殆ど流れのない大木川に指で弾いて棄てる。ピチピチの女子大生に会うのが嬉しく無いと言えば嘘になる。40になったとは謂え、達己も普通に女好きな独身男だ。
「おじさ~ん」
佐和子はこの瞬間が待ちきれなかったかのように手を振って駆けてくる。
長身の達己の目前にチョコンと立って挑発的な笑みを浮かべながら、「おじさん、私に会いたくて堪らなかったでしょ?」
ここは佐和子を放っておいた罪滅ぼしも兼ねて、「あぁお佐和に会いとうて夢まで見たぞ」
佐和子は急にしおらしくなって、「おじさん嬉しい!」
「眩しいぜお佐和」
ボッボッボッと荒々しく息づく傍らのA73に眼をやった佐和子は、「ハッハッハッて、なんかこの車、おじさんの忠犬みたい」と笑う。
「あぁ確かにこいつは俺の言うことなら何でも聞く忠犬や。ハッハッハッちゃお佐和、相変わらず上手いこと言うわ」
「どうお?私女子大生してるでしょ」
佐和子は華麗に1回転してみせる。
達己は眼を細めて、「あぁ良い女や。これだけの良い女、世の男どもが放っておかんぜ」
佐和子は口を尖らせて、「おじさん以外の男なんて興味無いもん。私はおじさんだけの良い女で居たいもん」
「ありがとうよお佐和、こげなオヤジに舞い上がるごたること言うてくれてよ」
佐和子はニッと笑って、「お・じ・さん」
「女子大生になった私を拝んで、どれくらい好きになったぁ?」
「これくらいかな」
達己は左手の人差し指と親指を目一杯広げてやった。
佐和子は不満顔で、「まだ指のレベルなのぅ。つまんない」
「まだまだ良い女になっておじさんの前に立ったら、今度は腕で愛情の深さ示してね」とニコッと微笑む。
嬉々としてA73の助手席に乗り込んだ佐和子に、「お佐和、まだ宵の口っちゅうんに今日の街はおかしいんじゃ。夜勤やったけ、昼前に寝てさっき起きたんや。ちゃんと単車の音もしよったんにここまで来る間、一般車はおろか人っ子一人居ねぇんじゃ」
「おかしい」とクスクス笑う佐和子。
――鳥巣市じゃ今一番の関心事なのにおじさん知らないんだ。て言うか、おじさんにとって暴走族なんて別に取り立てて意識するほどのものでも無いのかもしんないな。何たって鳥巣の伝説だもんね。
達己は怪訝な顔で、「何かおかしなこと言うたかいな?」
「おじさんは市政便り見ないの?」
達己は当然のように、「見たこと無ぇな」
「あのね、今鳥巣市では暴走族が悩みの種なの。みんな高校生みたいなんだけど暴れ放題なの。商店を荒らしたり車や人を襲ったり。あの子達が暴れるのは決まって第二土曜日の夜だから市政便りで外出を控えるようにって」
達己はフーンって感じであまり気に留めて無い。
「今日は里絵子と帰って来たんだ。第二土曜日だけど大丈夫って私のこと心配してくれた」
「私里絵子に言ったよ。おじさんと一緒なのに危険ってこと有り得るって?」と佐和子が笑う。
四十路に入ったというのにいつまでもガキの心を失わない中年暴走族・達己。面白いオモチャを見つけたかのように、「そうか、族か」とニヤッとほくそ笑む。
佐和子も、「おじさん、今何か良からぬこと考えてるでしょ」と面白がる。
「佐和子、遊んで良いか?」
佐和子は二つ返事で、「良いよ。楽しいことなら」
元来気が強い佐和子のこと、達己と一緒ということでますます気が大きくなる。
「おじさん、飛ばして」
達己は意気揚々と、「承知」
鳥巣ストア前の市道の交差点をタイヤを軋ませながら右折した達己は34号線との交差点を左折して市役所の方に向かう。34号線は佐世保に至る鳥巣市のメインストリート、奴らが居ない筈は無い。
数百メートル先に族の姿。一般車が居ないことを良いことに奴らはやりたい放題だ。片側一車線の国道34号線いっぱいに広がってジグザグ走りを繰り返す。
――おじさん、あの子達、からかうつもりなんだ。
遅い癖に耳障りな爆音を撒き散らすシャコタン車の箱乗りで、けたたましいラッパホーンを鳴らしながらただ夜中に騒ぐのが愉快なだけの頭の弱いヤンキーの族とは違い、狂気を絵に書いたような坪口や浩紀を頭に戴くTBRの構成員なら、からかわれたらムキになって潰しに来ること必定だ。達己にとっては良い遊び相手だ。
達己のA73、タコメーターの針が高速回転域に飛び込むとその独特の排気音は超音波の如く耳を劈く。急激に接近してくると生半可な族は恐怖心を呼び起こされ無意識に回避行動を取ってしまう。




