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ちんばの総長  作者: クスクリ
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第23話 キャンパスライフ

 幹線道路から奥まったこの土井町の鉄道宿舎にも族のバリバリ音が漏れ聞こえてくる。達己は康太と美代子の生活に全く干渉しない。真知子が上京して以来、四畳半の康太の部屋には美代子以外、足を踏み入れないから、親の眼に留まったらマズい物でも堂々と置いておける。

「夏の夜は賑やかでええわ」

「ガキども、エネルギーが有り余っとろうけ、思いっきり発散するんも良かろうよ」


 宵の口、この蒸し蒸しする熱帯夜の中、相変わらずの国鉄の作業着姿の達己は何の気負いもなくA73ランサーに乗り込む。今宵は真知子との約束の初めての実行日だ。佐和子の希望は高良山だ。

「おじさんのランサーに乗るん一年ぶりだよね。また高良山の夜景が見てみたいなぁ」

「あぁええで」と達己は二つ返事でOKした。


 第一希望の大学に合格して自信を得、女子大生となった佐和子は見事な変貌を遂げていた。ダイエットも上手くいっている。推定Eカッブの巨乳は薄い純白のブラウスのボタンを弾き飛ばし兼ねない勢いでそそり立つ。樹齢を重ねた松が点々と植わる砂地のキャンパスを闊歩する佐和子の容姿に男子学生の眼は釘付けだ。

「そのうち、皆が振り返るような良い女になったお佐和は俺のごたるオヤジ、不潔っち相手にもしてくれんごつなるかもしれんしな」と笑う達己の言葉が現実味を帯びてきた。


 午前中の講義が終わって、英語専攻の友人と連れだって学食に向かう佐和子に、「キャー佐和子ぉ」と手を振りながら嬉しそうに駆け寄って来る者、仲良く鳥巣高校から西南に合格した里絵子だ。

「里絵子ぉ」と佐和子も手を振り返す。

 里絵子も友人連れだ。

 佐和子が、「里絵子も土曜日の講義、取ってたんだ」

 里絵子は口を突き出して、私の場合、佐和子や真知と違って、実力じゃなく、真知のおじさんの力で西南に合格したところあるやろ。だからしっかり講義受けておかないと、ほんとにみんなに付いていけなくて進級でき来なくなるかもしんないから」

 里絵子の友達の一人が真顔で、「おじさんの力って…裏口?」

 里絵子は慌てて眼前で手を振って、「西南に裏口入学なんてある訳ないじゃん。勉強を教わったってことなん」

「だよね。ビックリしたぁ」

「で佐和子、頼りにしてるからね」と里絵子は意味深に佐和子にニコッと微笑み掛ける。

「何を?」とわざとらしくキョトンとする佐和子に、「もう佐和子のノートだよぉ」

 ニッと笑った佐和子は、「さぁ里絵子の心掛け次第かなぁ」

「もう、佐和子のケチ!」と河豚のように頬を膨らませる里絵子に場が笑いの渦に包まれる。


 私学の西南学院大学は福岡市にある学生数八千人のこじんまりとした文科系総合大学だ。九州の私学に於いては学生数二万人を擁するマンモス大学・福岡大学と双璧を成す。鳥巣高校ではこんな言葉で大学の価値を表した。

 ――結婚するなら九大生、彼氏なら西南生、ボディーガードは福大生――

 九州7県でも地方国立大学七校があるが、西南と併願して二校とも合格したとすると、旧国立二期校だったら西南を選ぶ傾向もあった。

 大学の施設は二区画に別れる。佐和子たちは片側一車線の道路を横断して学食に入る。学食の裏に並んで一階に学生生協が入った五階建ての部室棟、左手にはグランドに続く広い通路を挟んで体育館。


 里絵子がハーッと溜息を吐く。

 佐和子は笑いながら、「里絵子どしたん?念願のキャンバスライフ始まったばかりなんに」

「前期試験が始まるよぉ、憂鬱」

「でも、大学の試験は高校と違って持ち込みができるから要領さえ上手くやれば何とかなるやろ」

「他人事だよぉ。頭が良い佐和子やから言えるんだよ」と里絵子が口を尖らせる。

「鬼門は英語とキリスト教学だよ。特にキリスト教学は一年づつ必ず取っていかんといけんやろ。落としたら留年かぁ」

「大丈夫だよ里絵子」と佐和子はニコッと微笑んで、「なんてったって私たちは真知の親友なんやから」

 里絵子は怪訝な顔で、「だから何?」

「真知は東京に居るんだよ」

「真知がお願いしてくれたらおじさん嫌って言えないよ」

 元来楽天家の里絵子のこと、「だよね」

「おじさん、真知を何よりも大切に思ってるから、その真知が親友のピンチって泣きついてくれたら助けてくれるよね」


 二人を囲む友人の一人が、「藤田さんの話に出てくるおじさんって只者じゃない気がするんやけど、私たちも知ってる人?」

「芸能人?」

「佐和子ぉ、バラしても良ぃい?」

「別に良いんじゃない」

 お調子者の里絵子は勿体ぶって立ち上がり、人差し指を唇に、「シーッ」

「教えてあげるけど、決しておっきな声をあげちゃ駄目だよ」

 友人四人、里絵子を凝視する。

「その人は…今、日本中の話題独占中の幻の大ベストセラー作家…」

「木村大悟先生で~す」と里絵子は大袈裟に右手で弧を描く。

 里絵子の注意も何のその、友人たちは結構大きな声で、「エッエッ!木村大悟って本当に存在してたん?」

「私大ファンなん。会わせて」

 木村大悟という言葉に釣られて、佐和子たちの近くに居た学生たちがテーブルに寄って来る。

「お前ら本当に木村大悟知ってんのかよ?」

 テーブルがあっという間に人だかりになってしまう。

 男子学生の一人が、「木村大悟はマスコミに一回も登場したことがないんや。小さな写真が著作に二回載っただけなんや。存在するかどうかも怪しいんに、本当にその人が木村大悟っていう証拠あんのかよう?」と里絵子に詰め寄る。困った里絵子が佐和子に助け舟を求めるような視線を送る。


 去年、俺が鳥巣市で歓迎会をして貰った折、俺の大ファンだという松雪康子がカメラを持参していて、別れ際、皆で集合写真に納まっていた。彼女は今、九大目指して浪人中だ。運が良いことに数日前、大学からの帰り、油屋書店に立ち寄った佐和子は松雪康子と偶然会った。

「どう、松雪さん受験勉強捗ってる?」

「うん、大丈夫だよ」

「今年は失敗したけど、来年までまだ時間はあるから、自分のウイークポイントちゃんと強化して入試に臨むつもり」

「それに…」と康子はニコッと微笑んで、「私には大悟先生が付いているから」と言ったあと、「あっご免なさい」

「私あの時の写真、湯村さんたちに配るつもりやったんに忘れとった」

 松雪康子はハンドバックから大事そうに取り出した写真を、「北村さんこれあげるよ」

「うわー懐かしい!大悟先生だ」

「でも松雪さん、この写真肌身離さず持ってたんやないん、良いん?」

「大丈夫、家にちゃんと焼き増し分があるけん」


 佐和子はハンドバックから写真を取り出して、「はい、里絵子」

 写真を見た里絵子は、「あれっこの写真、去年大悟先生の歓迎会したときの写真じゃん。どうして佐和子が持ってんの?」

「数日前、偶然松雪さんに遭って、渡すの忘れてたって貰ったん。バックに入れたままにしといて良かったよ」と佐和子はニコッと微笑む。

「でも懐かしい、みんな写ってるぅ」

「大悟先生ったら、女の子に囲まれて幸せそうに鼻の下伸ばしてるよ」

「生協に大悟先生の凶悪志願があった筈や。ちょっと借りて来るわ」と先輩学生。

 巻末の写真と見比べて、「間違いない。正真正銘の木村大悟や」

 女子学生が、「これ間違いなくお宝だよ」

「マスコミにリークしたら、記者が我が西南に押し寄せてくること間違いないぜ」と男子学生。

「お前らの学部と名前教えてくれよ」

 里絵子が、「どうしよう?」と困惑した顔を佐和子に向ける。

 佐和子は、「別にどうってことないよ。私と里絵子は大悟先生の関係者なんやから、堂々としてれば良いよ」

「先輩たち、私は鳥巣高校出身、文学部外国語学科英語専攻、北村佐和子です」

「じゃぁ私は、鳥巣高校出身、文学部・英文科、藤田里絵子です」

「北村さんと藤田さんね」と文科系サークルの幹部らしき女子学生が手帳に二人の名前を書き留めて、「私は西南学文会副委員長で文芸部部長・近藤梢っていうの。北村さんと同じ英専の四回生だよ。以後、お見知りおきを」と二人に名刺を渡した。

「2人に大悟先生のことで聞きたいことがあったら訪ねて良ぃい?」

「はい。私たちでお力になれることがあったら」


 2018年11月23日・2019年6月17日修正

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