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ちんばの総長  作者: クスクリ
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第22話 真知子の気遣い

 娘をナビゲーターに林道をかっ飛べなくなるし、真知子が上京して淋しくない、と言ったら嘘になる達己だったが、上京を明日に控えた真知子が六畳の間から居間に出て来て、左手の肘枕でテレビに興じる国鉄の作業着姿の達己の背に向かって、「お父さん、今まで18年間大事に育てて貰った上に、東京に行きたいと言う真知の我儘、快く聞いてくれてありがとう」と神妙な顔で挨拶する。

 達己は向き直ることなく、「高が東京やねぇか。嫁に行く訳でもねぇのに肩苦しい挨拶は無用やで」

 真知子は言い出し難そうに、「で…佐和子のことなんやけど…」

「お佐和がどうかしたんか?」とここで達己は向き直る。

「真知はお父さんの娘で、娘の私がこんなこと頼むやなんて、世間の良識からズレてる気もするんやけど…」

 達己はニヤッと笑って、「何か真知、はっきり言えや」

「うん、真知が東京に行ってしまったら、佐和子が真知を介してお父さんに会える機会、なくなってしまうと思うん」

「ほんで…?」

「康ちゃんのことも心配やけど、佐和子のことも同じように心配なん」

「だから、一・二ヵ月に一回で良いから、お願いお父さん…非番のときに佐和子を誘ってあげて。そしたら佐和子、真知が側に居なくても元気で居れると思うん」

「さすがお佐和はお前の無二の親友やな。お前が居らんごとなってからのお佐和の毎日が気になって、おちおち上京もできんってか」と揶揄する。

 真知子は達己に甘えるように、「お願いお父さん」

「天下の東大生、真知子姫の頼みとあれば聞かない訳にゃいくまいよ」

「ありがとうお父さん!」

「ばって俺は気まぐれやから、確実にっちゅう訳にゃいかんぞ」

「それで良いお父さん、佐和子はお父さんのその約束があるだけで幸せで居れる筈だから」


  一緒に上京する真知子と井本を見送りに仲間が鳥巣駅に集まった。

「真知ぃ、夏休みには帰って来れるのぉ?」

 里絵子は今にも泣き出しそうに、「真知の居ない毎日、耐えられそうもないよぉ」

「里絵子ぉ夏休みにはちゃんと帰って来るから。第一希望の西南の英文科にも合格できたし、佐和子と一緒に通学できるやろ。それに何よりも里絵子には成沢君が付いててくれるんやから、真知が居なくても我慢できるでしょ」

 佐和子がクスクス笑いながら、「もう真知を困らせないの。ちっちゃい子供じゃないんやから」

「だって今までずっと三人一緒だったし、真知が東京行ってしまうなんて信じられないんやもん」

「ほんと里絵子は困ったちゃんなんやから」と佐和子が呆れる。

 真知子は、「成沢君、色々とご面倒をお掛けすると思いますが、私が居ない間、どうぞ、里絵子を宜しくお願いします」と慇懃に頭を下げる。

「藤田のお袋さんに頼まれとるごたるで、何か変な感じやけど、大船に乗ったつもりで任せてくれや」と成沢はドンと胸を叩く。

「ありがとう成沢くん」

「成、俺からも頼むぜ」と井本。


「それから康ちゃん、いいこと、真知がいないからって羽を伸ばし過ぎないこと」

 真知子はキッと康太に厳しい顔を向ける。

「俺も四月から高校生やで。そげんことわざわざ言われんでも分かっとるっちゃ」と口を尖らせる。

 真知子は顎をしゃくって、「なら、良いけど…」

「美代ちゃん、家のことお願いね」

 美代子は腕捲りの仕草で、「任せて真知姉さん、この半年みっちり仕込んで貰ったから」

 真知子は眼を細めて、「美代ちゃんの方が康ちゃんより頼もしいよ」

「じゃぁ明日から湯村家の主婦は美代ちゃんだよ。康ちゃんが美代ちゃん虐めたら遠慮なくお小遣い減らして良いからね」

 途端美代子は、「やったぁ」と飛び上がって、康太を悪戯っぽく横目に見て、「真知姉さんからお墨付き貰ったから覚悟してね」

 チェッと康太が舌打ちする。

 腕組みした真顔の井本の、「康太、完全に美代ちゃんの尻に敷かれてしまったなぁ」の感想に場がドッと沸く。

 真知子が、「佐和子ちょっといぃい」と声が聞こえないくらいみんなから離れたところに誘う。

 佐和子だけ、と里絵子が頬を膨らます。


 真知子はちょっともじもながら、「真知、佐和子に余計なことしちゃったかもしんない」

 佐和子は怪訝な顔で、「何?真知」

「長崎県の田舎から転校して来て不安で堪らなかった真知に、色んな面で力になってくれて、思い出深い楽しい高校生活にしてくれた佐和子に本当に感謝してんだ」

「何言ってんの。それは私が真知に言いたいことだよ」

「私、そんな無二の親友の佐和子のために東京に行く前にお父さんのことで何か一つしてあげたかったん」

「だから…?」

「お父さんに約束させちゃった…」

「どんな?」

 佐和子が食い付く。

「私が居なくなっても淋しくないように定期的に佐和子を誘ってあげてって」

 佐和子は途端、歓喜で声が裏返る。

「えっ!嘘!ほんと!」

 どうしたん?とみんなが寄って来る。


「里絵子聞いてっ」

「おじさんが私を誘うって約束してくれたって」

 いつもは冷静過ぎる観のある佐和子にしては身体いっぱいに喜びを表す。

「佐和子やったぁ」

 里絵子は佐和子の手を取って、まるで自分のことのように跳び跳ねて喜んでくれる。

 真知子は申し訳なさそうに、「お父さん約束はしてくれたけど…気紛れだから佐和子を待たせてしまうかもしれないけど…」

 佐和子はのんのんと眼前で人差し指を振って、「真知、ノープロブレムだよ」

「あのマイペースのおじさんがちゃんと約束してくれたって言う事実だけで、私、真知が居ない寂しさを忘れられるし、毎日を希望を持って楽しく過ごすことが出来るよ」

 佐和子は真知子の両手を取って、「真知、ほんとにほんとにありがとう」

 黙って佐和子の喜びようを眼を細めて見ていた井本がポンと肩を叩いて、「お佐和、良かったな」

 佐和子は瞳を輝かせて素直に、うん、と大きく頷く。


 2018年11月23日・6月13日修正

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