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ちんばの総長  作者: クスクリ
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第20話 念願の大型免許

 佐賀県の運転免許試験場は佐賀市の川久保にある。川久保は佐賀平野の北辺、筑紫山脈の南の裾野に広がる地区だ。はっきり言ってド田舎。試験場の前を走る県道・川久保線から続く道は国道34号線・35号線・204号線の裏道で、小城・多久・伊万里・松浦を抜けて故郷の猪町に至る。達己は里帰りにこのワインディングロードをA73で嬉々としてかっ飛んだ。


 学科試験に一発で合格した康太は実技試験に臨むに当たって、じっくりとコースを覚え、これも一発合格する。

「康ちゃん凄い!凄い!」と美代子は大喜びだ。

 当時は運転免許試験に合格しても試験場での即日公布ではなく、後日地元の警察署に免許証が届く。何とも待ち遠しい数日間だ。

 ノーマルが無性に嫌いな達己はDT400の改造を三好に頼んだ。単気筒400CCをXT500のピストンで500CCにボアアップし、各部のバランスを取ってヘット面研、ポート研磨にサス強化、とんでもないモンスターマシンに仕上げていた。

「ちゃんよ、鳥巣警察署で免許受け取ったら、そん足で三好に行けや。じゃじゃ馬DT400がお前ば待っとるやろうや」

「手懐けきったらお前の腕認めたるよ。まぁ怪我せんようにせいぜい頑張れや」とほとんど他人事だ。


 康太の眼には金色に輝く免許証、署内で暫し見惚れる。

 一人で悦に浸る康太に、「ねぇ康ちゃん私にも見せてよぉ」と美代子が隙を見て奪い取る。

「康ちゃん写真写りが悪いぃ」

「煩ぇ三浦。放っとけや。返せ」

 初めて運転免許を取った男の子とかわいい彼女の微笑ましい光景に、警察官たちの眼差しは優しい。

 鳥巣警察署から三好自動車までは歩いて5分だ。警察署を出た康太と美代子は道路を横切って右に進路を取り、電電公社の隙間をすり抜けて裏通りに出、三好自動車の敷地に入る。工場に愛しのDT400を見つけた二人は引き寄せられるように足が向く。


 真知子から引き継いだ赤いフルフェイスのヘルメットを右手に持った美代子は感無量だ。

「やっと康ちゃんの後ろに乗って道路走れるんやね」

 久しぶりにDT400に跨がった康太は付けっぱなしのキーを捻って思いっ切りキック、ポンポンポンと小気味良い排気音、来客に気付いた三好が事務所から出て来た。

「おう康太君、やっと免許取れたか」

「達つぁんに言われてカリカリにチューンしてやっとったけんな」と二ッと笑う三好。

「三好おじさん、どんくらいパワー出とん?」と訝る康太に、「ちょっと乗ってみればすぐ分かる筈や。とにかく凄いパワーやけ、ビビってアクセル抜いたら前転するぞ。気付けぇよ」

 三好の不安を煽る言葉に若干気後れしたが、そこは負けん気の強い康太のこと、「心配ないよ。750じゃあるまいし高が400くらいでビビりよったら父ちゃんに笑われるけん」

「そうか、頼もしかばってんパワーは750並みやどぉ」と三好がニヤッと笑う。

「じゃぁ試し乗りしてみるよ」と言う康太に、「ああそいが良いな」


 隠れて乗っていたときのように普通にクラッチを繋いだつもりが、DTはぐんと前輪を軽く持ち上げる。転倒しないようにすぐさまバランスを取って一輪立ちのまま、「凄ぇ!」

 美代子も、「康ちゃん凄い!凄い! 」とはしゃぐ。

 念願叶った美代子は、赤いヘルメットを康太に被せて貰う間、終始大満足のニコニコ顔だ。勿論、康太はノーヘル。

「三浦しっかり掴まっとけよ。こんじゃじゃ馬に振り落とされるぞ」と声を掛けると、康太は前足を持ち上げて抗う悍馬のごときDT400を力で捩じ伏せる。

 瞬間、ギュッと美代子が胸を康太の背中に押し付け、康太に抱き付く腕に力を込める。

 これや!

『三浦とのこの感触を味わってみたかったんや』

 康太は、「ヤッホー!」と声を張り上げた。

 美代子も右手を突き上げて、「行っけぇ!」

「張り切り過ぎて怪我すんなよ」

 三好が叫ぶ。

「三好おじさん分かっとるって」


 2018年11月22日・2019年6月7日修正

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