第17話 鳥巣権藤組
「コラお前ら!」と後方からドスの効いた声。
えっ!と振り向くと黒スーツの屈強な男が二人立っている。一目で筋者と分かる。二人は徐に坪口と浩紀に近寄ると右手で襟をもんずと掴んで引き寄せる。強力な膂力だ。うっ!と二人が怯む。
胸には久留米誠心会のバッジ。こいつらはその辺のチンピラとは訳が違う。抗争の修羅場を難度も潜り抜けて来た自信がその面構えに表れている。高校生レベルの喧嘩狂ではとても太刀打ち出来ない。抗うだけ無駄だ。
「坪、こいつら本物だぁ」と浩。
二人はニヤッと笑うと、「あぁ本職だよ」
一人が、「お前ら不敵な面構えしとるな。いっちょう俺らと遊んでみるか。良い経験になるち思うぜ」
坪口が殊勝に、「止めとくわ。今は本職に敵う訳ねぇ。俺らはまだまだ強くなるつもりやけ、そんとき遊んで貰うわ」
二人はケラケラ笑って、「こいつ面白いガキやぜ。その辺の不良ゼイガクたぁ違うみてぇやな」と掴んでいた襟を放す。
「それにしてもお前ら、ゼイガクの癖にイカサマやるたぁ良い度胸しとうぜ。ちょっと事務所まで面貸せや」
「カシラ自ら見回りに来て頂けるとは光栄です。近頃素性の知れない流れ者が多くてトラブルが絶えませんでしたんで」
この男、権藤剛は久留米誠心会ナンバー2、会長安藤の信任も厚く、懐刀だ。
「店長よ、この権藤組が守るシマにゃ、変な輩は一切近づけねぇよ。安心して生業に励めや」
「心強いお言葉痛み入ります」と店長は深く頭を下げる。
事務所の扉が開いて組員が姿を現した。
「カシラ、連れて来やした」
坪口たちを先に事務所に足を踏み入れさせる。逃亡しないように眼を光らせて後ろに付く組員。
店長がホールに電話を入れる。
「実ん奴を事務所まで連れて来いや」
権藤がギロッと四人を睥睨する。ただの組員とは貫禄が全く違う。もし、風体が一緒だったとしても、高校生の二人のワルにはその鋭い眼光で一目で誠心会の大幹部だと分かる。
店長がソファーから立ち上がって四人に近寄り、ぁあっという感じで坪口の顎を右手の親指と人差し指で持ち上げる。
「お前ら運が悪かったな。よりによってカシラが見廻りに来られたときにヤるたぁな」
昔はワルでナラしたつもりの店長だ。不意討ちに坪口の腹に力任せの膝蹴りを加える。だがその予想に反して、能面のままの坪口は微動だにしない。店長の膝に残る感覚はまるて硬質ゴムにでも弾かれたようだ。ホ~ッと権藤が坪口にちょっと興味を示す。
悔し紛れの店長は、「おら、有り金全部出せや」ともう一度、坪口の腹に右のブローを浴びせた。
グキッ…
坪口の腹筋に跳ね返されて手首が折れ曲がる。
――この野郎、なんちゅう腹筋してやがる。
「おらっ来いや」
幹部従業員が顔を腫らした実を引っ張って来た。下で従業員数人で暴行を加えたようだ。幹部従業員は実を店長の前に跪かせる。
店長は屈んで、「実、お前よう、中卒で雇ってやった恩も忘れて仇で返すちゃ、人の道に外れてやせんかい?」
店長は実の頬を数発平手で張って、「ほら実、言えや。イカサマやりましたとな」
「俺はやってません。呼ばれて、普段通り玉を一個天穴に入れてやっただけです」
幹部従業員が、「実の奴しぶといっす。下でも相当痛め付けてやったんすが、認めません」
店長は忌々しそうに、「うちの常連がチクってきたんじゃ。認めるまで痛め付けちゃれや」
とても高校一年とは思えない痘痕の不敵な面構え。坪口に比べれば、一般の高校生の眼にはもろヤンキーの浩紀でさえかわいく見える。
店長は今度は浩紀を的にする。
「お前ぇ、こいつの手下か?」と左手の親指で坪口を指す。
浩紀はニヤッと笑うと、「おっさん、何勘違いしとん?俺と坪は対等や」
店長はムッとして、「近頃のガキぁ、口の利き方も知らねぇぜ」
「土下座して、イカサマやりました許して下さいち泣くまで痛め付けたるわ」
店長は権藤に、お願いしても良いですか、と許しを請う。
権藤が顎を杓る。二人の組員が坪口と浩紀の前に立ち塞がって、あとはメタクソに殴り捲る。さすが本職、鈍ら店長とは比べ物にならない。あっという間に二人の顔はパンパンに腫れ上がって血だらけで床に転がった。
なおも蹴り捲ろうとする組員に堪えられなくなった淳子と真理子が割って入る。
「おっさんたち、無抵抗の高校生暴行するなんて大人気無いよ」
「警察に突き出せばいいじゃんか?」
組員の一人がクスッと笑って、「おっさんちゃ、君たち女の子の癖にに口悪ぃなや」
「おいたが過ぎるぞ。俺はまだ20代なんやから」
今気付いたとばかりに淳子の顎をクイッと斜め上に持ち上げると、「大人に見せようちケバイ化粧はしとるが、良く見ると結構かわいい顔しとんやねぇか」
「なぁ島田」とそいつは相棒に同意を求める。
「あぁ俺もまだ20代や。ちょっとムカついたぜ」
その組員が淳子にビンタを加えようとしたところで、「止めぇ!」と権藤が徐にソファーから立ち上がる。
「オッスカシラ!」と組員が直立して固まる。
「お前ぇ調子に乗り過ぎや」と言うなり、右の拳をその組員に叩き付けた。その威力たるや、屈強な組員が壁際まで吹っ飛ぶ。淳子と真理子は呆気にとられる。一つ間違えば自分も、と店長が青ざめる。
そこはさすが誠心会組員、サッと立ち上がるなり頭を下げて、「オッスカシラ、ありがとうございます」
2019年5月30日修正




