第16話 鳥巣ラッキー
鳥巣市には佐世保迄の国道34号線と鹿児島迄の国道3号線が通っていて、鳥巣市の入口付近で3号線が34号線と分岐する。この辺りに一店、34号線に一店、鳥巣駅前に一店の三店、パチンコ屋がある。特に34号線沿いのラッキーパチンコはこの辺りでは一番の繁盛店で、久留米誠心会の息が掛かる。駐車場もだだっ広く、食いつめ者・パチプロ・チンピラ・不良高校生が屯する。10時の開店前、少しでも良い台を取ろうと、鵜の目鷹の目の危ない奴らで入り口前はごった返す。
四人の男女のバリバリの不良たちは私服に着替えて、坪口のGT750のリヤシートに真理子、浩樹のCB750のリヤシートに淳子が乗って、颯爽と34号線のラッキーにシノギに出掛けた。
坪口の面構えはとても高校生には見えない。他の三人はチンピラに率いられたゼイガクヤンキーとでもいう感じか。ここの店員に高校進学しなかった鳥巣中学時代の手下がいる。坪口と弘紀は時折、こいつを使嗾して玉を入れさせていた。
「実、今日は軍資金が結構必要なんじゃ頼むぜ」
坪口は女子二人を紹介して、「こいつらもよろしう頼むわ」
真理子に、「実は単車買うために働いて金貯めよんじゃ。リヤシートに乗せる女紹介してくれや」
「あたいに任せとき。かわいい子紹介したげるよ」
実の眼が俄然輝く。
「坪やん任せとき。バッチリ儲けさせたるけん」
実は走って店に戻って行く。
パチンコ屋の仕事は基本住み込みだ。金を貯めるため、借金を返すため、世間から身を隠すためには格好の職場だ。店を持つという夢を持った若い夫婦、久留米から遁走して来た中卒のワルガキなどもここで働いていた。
鳥巣市内に実家があるのに実も住み込みだ。鉄筋コンクリート建ての店の二階に、事務所部分と完全に切り離され入り口も別々で宿舎がある。10時に店が閉店する頃には食堂にちゃんと晩飯が用意されている。金を貯めるにはもってこいの環境だ。
四人は14列ある広いホールに適当に散らばる。真理子と淳子は髪を染めケバい化粧して大人びた格好をしていても、地がかわいいから、高校一年生の弾けるようなピチピチした若さは隠し切れない。淳子は妖艶に足を組んで銜え煙草で盤面を落ちる球を眼で追う。
隣の中年オヤジが、「姉ちゃん若ぇな。高校生か?良いのか?学校サボってパチンコなんか打ってよぉ」
淳子はオヤジをギロッと睨んで、「煩ぇ、この禿!」
「おう怖い姉ちゃんだなや」
「あたいは高校行ってないんや。パチンコで稼いで一人で生きてんだ」
勿論、口から出任せだ。
「ほうその若さでパチプロか。偉ぇな」
「どうでもいいじゃん。気が散って集中出来ないんだよ」と淳子は苛立たしそうに台の灰皿で煙草を揉み消す。
「姉ちゃん幾らや?こんくらいは出せんぞ。金欲しいんやろ?」とオヤジは指を二本立てた。
立ち上がった淳子は、「何言うとんのや、このエロジジイ!」
「あたいは売りはやってないんや。あんまり煩いと仲間呼んで袋にすんよ」
「おう怖!」
笑いながら親父は盤面に眼を戻す。
パチンコ台の中央に円盤があって、天穴から入った玉が円盤をぐるぐる廻って上手く真中に落ちれば、円盤の下の長方形の蓋が暫く開いたままになって玉が出放大だ。店員は呼び出しランプのついた台のガラス盤を鍵で開けて玉詰まりを直して回り、お詫びの意味で天穴に一個玉を入れてやる。
四人は実の立場などお構いなしに呼び捲る。その度に実は周りに目立たないように天穴に数個玉を入れてやる。その玉の内のどれかが真中の穴に落ちて大当たりという塩梅だ。所期の目標を超える成果に四人は意気揚々と景品カウンターに向かう。ドル箱二・三箱抱えた柄の悪い若い男女が並んで立てば、否が応でも満員の客の眼を引く。
「おい、あいつら高校生やないんか?」と客のヒソヒソ声。
女性店員は訝しむような風だったが、黙って玉を換算して景品を渡してくれた。鳥巣ラッキーの景品交換所はだだっ広い駐車場の端っこの一番分かり難い場所にある。
現金を手にした四人は輪になって、「坪見てんない。1万8千円やぜ」と浩紀。
真理子も、「あたいは1万3千円」
「あたしは1万5千円だよ」と淳子。
坪口が、「俺は2万2千円じゃ」
「しめて6万8千円やね」と淳子。
一同手にした現金を坪口に渡す。坪口は現金を広げて、「あのケチなババアもこんだけ渡しゃうんもすんもねぇやろ」
2018年11月20日・2019年5月17日修正




