表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちんばの総長  作者: クスクリ
1/47

第1話 蠢動

 元小説のストーリー構成がしっかりしていれば、派生小説を何作でも生み出すことができる。まさに小説の玉手箱だ。

「夢界の創造主」が長くなり過ぎたなと思うようになったとき、ふと書きたい作品が浮かんできた。20年前の少女雑誌に、ティーンに絶大な人気を誇った族の漫画があったなんて知らなかったが、その「ホットロード」が今回やっと実写化されることになった。映画館・ネットの予告編を見て、歳に似合わず、忍んで映画館に行こうかなと思ったりもしたが、ネットで視聴できそうだったので止めた。でも、実際見てみると、がっかりだ。

 作者が映画化の条件とした能念のヒロインには、俺も好きだから文句をつけるつもりはないが、映画の前半で、ヒロインが思いを寄せる族の前でまるで幼児が漠然とした不安に母親を求めるが如く、寝言で「ママ…」と声に出したところで幻滅して見るのを止めた。

 実際、反社会的集団の暴走族の映画で、まだ免許も取れない乳臭い中坊のヒロインなんて俺には無理だ。それにヒーローの属する族が広域暴力団並みの組織力を誇るにしては描写が稚拙だった。特に喧嘩のシーンなど。

 俺は物語ではリアリティーを一番大切にする。こうすればこうなる、こうならばこうのような。例えば、もし月がなかったら地球はこうなるみたいな。

 俺の描く族の喧嘩に素手はあり得ない。卑怯も糞もない。ライオン・虎・熊じゃあるまいし、人間は道具を使って戦う猛獣だ。で、ヒロインが美代子でヒーローが康太だったらどんな族の物語になるのか早く書いてみたいとわくわくしてしまった。

 族の立ち上げに一番積極的だったのは美代子だ。

「真知姉さんが日出兄に貰ったのとおんなじ真っ赤なフルフェイスのヘルメットを被って、レディースの特攻服でビシッと決めて、手下に号令かけるんだ」

「総長の康ちゃんだぞ。お前ら頭が高いってね」

 真夏の土曜日深夜、街はまるで戒厳令が敷かれたかのようにひっそりと静まり返る。商店は略奪を避けるため、シャッターを下ろして軒先を固く閉ざす。通りには人っ子一人居ない。もちろん道路を走る車両も見えない。その静寂を突き破るが如く耳をつんざく爆音、ここ鳥巣市は族が跳梁する無法地帯と化していた。

 国道34号線、3号線を我が物顔で暴走する改造バイク、長距離トラックも鳥巣市内の通過をできるだけ避ける。デカイ図体にものを言わせて、前方を後続車の走行を邪魔するが如く低速でジグザグに暴走するバイクを煽って抜こうものなら、奴らは巨像を倒す蟻の如く群がって来て攻撃してくる。


 火炎ビンを投げつけられて炎上したトラックも数台、警察が出動して来ようが歯牙にも掛けない。平気で突進してくる。鉄パイプでバトカーをボコボコにしてスクラップにするのを手始めに、襲われて病院送りにされた警官も。逮捕補導された仲間を助けに警察署を襲撃した事もある。

 まさにやりたい放題、奴らは未成年の特権を最大限に意識した行動を取る。暴走バイクにはお決りのアップハンドル。マフラーはインナーを取っ払って直管にし、出口には缶ジュースの空き缶を装着している。

 二ケツの暴走バイクの後ろに乗る族が掲げる三角旗に染め抜かれたアルファベットはTBR、今年人口5万人の鳥巣市に突如跋扈した族に警察は及び腰だ。


 市民には第二土曜日の深夜には出歩かない様に市政便りで呼び掛ける。あれだけ世間を騒がせ、福岡都市圏までその勢力範囲を広げようとしていた久留米狂走連合も、今は勢力を弱めていつTBRに呑み込まれてもおかしくない状態だ。久留米狂走連合は誠心会の下部組織、組員には狂走連合出身者が多数を占める。TBRはお構いなしに狂走連合の幹部・構成員を次々に狩っていく。

 TBRには構成員を心酔させるような強力なカリスマヘットが存在するようだったが、厳重な箝口令が敷かれているのか、その名を口にする者は居なかった。もし、主要な幹部以外でその名を知り得た者が居たとしたら、その口はあらゆる手段を講じても封じられる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ