11:日輪の架け橋
これだけでは終わらない。ランデはさらなる敵を探ろうと周辺を見渡した。
ガラスに五キロ先に敵機ありと表示される。彼の思うままにその方角へ機械獣は飛翔していく。速度も申し分ない。
そして直ぐに敵影を発見した。味方の機械獣と交戦している様子だった。
「喰らえ!」
砲台が火を吹き、敵の戦闘機を蠅かの様に撃ち落としていった。
ランデ自身は助けたつもりであったが、突如現れた巨大機械獣は、味方にとっても警戒の対象だ。機械獣部隊は隊列を組み、漆黒の機械獣の出方を見る。
それを理解したランデはハッチを開け自分の姿を晒す。その姿は、機械獣の部隊にいた全員に大きな衝撃をもたらす。その中にいたララも同様であった。
ララの機械獣はランデに近寄り、ハッチを開けた。
「ランデ!?」
「ララ!無事だったんだ!良かった……」
「そんなことより、その機械獣は何!?いいえ、そもそもどうしてランデが!?」
「それは……」
自分にもよくわかっていないことを説明できるはずもない。ララは口籠ってしまう。すると、彼女は耳に装着していたインカムを抑える。
「は、はい!了解致しました!」
ララはインカムに話し終えると、軍服の中から予備のインカムを取り出し、ランデに手渡した。
「合流して私たちを指揮してくれていた、フレアドール少佐からお話があるって」
「……わかった」
コービー・フレアドール奏士軍少佐。
軍規に厳しいことで有名な、真面目な将校である。緊張しつつ、ランデはインカムを装着した。
「こちら、ネフティー兵士軍准尉、ランデ・ベルーゼであります!」
『コービー・フレアドール少佐だ。いくつか質問がある。まず、それはなんだ?機械獣か?』
「はっ!動作や形状などが類似していることから、機械獣であると愚考します!」
『戦闘中だ。兵士がなぜ機械獣を奏でているのか、という点について現時点では問いただしはしない。だが、その機械獣はどこで手に入れた?そんなモデルは見たこともない、前代未聞だ』
「これは、教会の地下から現れたものでした。何らかの事情で隠してあったものだと思われます!」
『こんなものを……まぁ良い。では最も重要なことを聞こう。その機械獣、使えるか?』
「必ずや、ネフティの勝利に貢献し得る兵器であると!」
『ならば一時的に、貴様を奏士として認めよう!そして、これより私の指揮下に入れ!これより我々奏士の部隊はこの場を兵士に任せ、激戦が行われているであろう政府、及び軍司令本部付近、中枢エリアへ援軍に向かう!貴様はその機械獣と共に、我々と同行!戦闘に参加せよ!私の機械獣は貴様から二時の方向にいる、赤い機体である!』
「はっ!了解であります!」
インカムからの音声は途絶えた。彼女は訝しげな顔をしたが、時間の猶予がないことを考え、疑問を飲み込んだ。
「後で、話聞かせてよ?身体もボロボロだし」
「ああ、わかった」
ララはそれだけ告げ、機械獣に戻っていった。即座に移動を開始する。赤い機体は最前列を走り、その少し後ろ、右翼にララ。左翼にはランデの知らない同期の奏士がいる。
ランデの機械獣だけやたら巨体だが、陣形としてはひし形となる。それぞれのカバーが大切になる陣形だ。
しかしランデは機械獣の操縦は初めてであり、連携には不安が残る。
(でも、この機体なら、いける!)
そう思わせるほどの力を感じていた。
負担は確かに大きいが、真に自分の身体であるように動いてくれる。戦闘機のモノとは飛行原理からそもそも違う翼も、非常に有効に機能している。
背部に取り付けられた砲台もそれぞれが意のままに動き、四方八方何処へでも砲撃が可能だ。
また、フレアドールの機械獣が全速力で飛行しているにも関わらず、ランデはまだ速度をあげられると感じていた。
そして何より、胴体部分に圧倒的な熱量を感じた。紫電砲のエネルギー源である。
それらすべてを、なぜ腕を動かせるのか知らずとも腕を動かせるように、機械獣の知識は浅くとも、ランデには使いこなす自信があった。
「見えた!」
視界のずっと先に、爆煙が上がっていた。交戦中のようだ。数は目視で追いつかないほど多いが、このままなら挟撃できる。
ついに接敵。フレアドールが現地で戦っていた者にランデのことを話しておいたおかげで戦場は混乱せず、スムーズに協力態勢へ移行する。
「いけえええっ!!」
砲台は襲撃してくる帝国軍戦闘機を次々に葬っていく。謎の巨大機械獣を前に、帝国軍も動揺していた。
だが、流石に主力部隊。倒せども倒せども無数に湧いてくる。
また、防衛戦を続けてきた機械獣部隊にも疲労の色が見えた。上に空いた穴の向こう、宇宙空間での戦闘もあり、数も多くない。決して圧倒的優勢とは言えなかった。
「うっ……ぐああっ……」
またランデ自身、限界を既に何度も突破し、気力で意識を紡いでいる状態だ。長時間の戦闘はできない。
(僕の力が、尽きる前に……っ!)
ここを、守り抜かねばならない。
「フレアドール少佐!紫電砲発射の許可を!」
『ならん!セイレーン内での紫電砲発射は禁じられている!』
「しかし、この場を早く納めなければ、今もなお宇宙空間にて戦っている味方の援護に向かえません!」
『だが、紫電砲は機械獣最後の切り札。故に、一度使えば動きは圧倒的に鈍くなる!並の調和強度では最悪死に至るぞ!』
「死にません!今、調和強度一四〇〇台の私が、この超大型機械獣を奏でているのです!どうか、ご決断を!」
『ぐっ……ええい、今この場を戦う総員に連絡!これよりランデ・ベルーゼ准尉は紫電砲を発射する!射程から離れよ!繰り返す!射程から離れよ!!』
「感謝します!」
『議事堂と本部には掠めもするな!正確に、こちらが伝えるタイミングで放て!これより一〇秒数える!それと同時に発射せよ!!』
「了解!!」
機械獣は大きくその口を開き、超高密度な光が集まっていく。それだけで、地面が大きく揺らいだ。
フレアドールのカウントが九、八、七、と近づき、その度に光はより大きく、より密度を増していく。
天の怒りが如く、轟音が鳴り響く。
尋常ではない気配を察知し、帝国軍戦闘機も慌ててその場を逃れようとするが、もう遅い。ランデの目に映る射程圏には、敵機のほとんどが入っていた。
「三、二、一……〇!!」
圧縮され尽くしたエネルギーは、逃げ場を求め暴れ出す!!
「人類に、日輪の裁きあれッッッッ!!!!!!」
極光――――それは天に架かる橋のように。地獄に垂らされた糸のように。
あまりに美しく、神々しい。
だがそれは、驕りに傲った人類が、神に与えられた誅罰である。
一閃の下に帝国軍は形跡すら残さず消失。存在ごと偽とする、まさしく神の御技。
その衝撃はセイレーンの装甲を内側から突き抜け、宇宙の暗闇に光の柱を顕現させた。
だが、それだけの力だ。ランデの体力はとうとう切れ、その場で意識を失った。
――――宇宙空間。
これ以上の侵入を許すまいと、帝国軍との激しい防衛戦を強いられていたネフティ軍。
奏士軍一個大隊を率いたカラムは、ガラスに表示される熱源反応を確認し、即座に散開、その場から離れるように指示を出した。
(この熱量は、紫電砲か?だが、それにしては数値が高すぎる!)
だがその熱に気づくことのない帝国軍がそれを妨害し、攻撃を加えてきた。
「くそっ、邪魔だっ!!」
カラムの機械獣が戦闘機と交差。同時に爪が戦闘機の装甲を引き裂いた。敵機の爆発を尻目に射程を抜ける。隊員が全員射程を外れたその瞬間、紫電砲が暗闇を裂いた。
「なんだこの太さは……本当に紫電砲なのか……?」
幾度となく死線を超えたカラムですら戦慄した。自軍への被害を確認、各員へ指示をしなくてはならない。しかし、動くことが出来ない。
「これは、あの時の……」
思い出される一〇年前。セイレーンに乗って逃亡するネフティを守り切った、謎の『化物』が放った光に似ていたのだ。だが、それを知らない世代の戦士は、人類を一気に消し去った紫電砲の火力を目の当たりにし、奮い立った。
――――自分たちには、これだけの力がある!!
人類との歴史は、敗北の歴史だ。
彼らにとってこの一撃は、ネフティの未来を切り開く為に神が与えた架け橋にも等しかったのだ。
「ああ……夢じゃないのか、これは……」
そして人類は戦闘機にて、先ほどまで通信していた仲間が一瞬で消失した様を目の当たりにし、恐怖した。
人類にはない、圧倒的な力を、ネフティは持っている。
今度大戦が起これば、宇宙空間に放り出されるのは自分たちなのではないか。
否、セイレーンでの敗走すら叶わなくなったとしたら。人類滅亡の可能性は確実にあるのだと、あまりに巨大な紫電砲は、彼らに叩きつけたのだ。
「ここで、終わらせなくては……っ!」
帝国軍の兵士が操縦桿を握る手に力を込めた時だった。
『全帝国軍に告ぐ!帰還せよ!繰り返す、帰還せよ!』
「なっ!?」
だが、司令部から入った伝令は兵士たちの意に反するものであった。
「どうしてですか!?」
『……傍受の可能性もある。ここでは話せん。予想外に奴らの科学力は発達しているようだからな』
「……了解、しました……っ」
上からの命令には逆らえない。こうして、帝国軍は撤退を始めたのであった。
――――セイレーン内。とある一室。
「至天の巫女よ、こちらの揺れは一体……?」
「静かになさい」
川のせせらぎの如く優美な、あまりに透き通った声を発し、女中を制する。
御簾の向こう、『至天の巫女』と呼ばれる高貴な女性は、夜色の長髪を指先で摘まみ、息を飲む。
その視線の先には、宇宙へ向かって伸びる紫電砲の煌き。
「嗚呼、嗚呼!なんということか!神の御使いを!夜の権化を!下賎なるネフティが使役したと!」
高貴な女性は立ち上がる。普段から彼女の世話をしている女中三人は、その尋常でない様子に萎縮し、頭を垂れる。
その様子から返って冷静さを取り戻した彼女は一度呼吸を整え、命令を下す。
「今すぐ降る準備をなさい」
静かに放たれたその一言により、女中は大きく動揺した。三人の内一人が前に出て、跪いた。
「なりませぬ。至天の御方が下賎なる民の前にその身を晒すなど」
「其方たちが行かぬと申すのならば、妾一人であろうと出向きましょう」
「い、いけません!降られるにしても、まずは至天の御方々からの承認を得ませんと」
「ならばその至天の御方々とやらに伝えるといい。妾は、自らの役目を果たしに出る、とな」
「巫女様!」
荒々しく御簾を除け、現れた女性。
彼女の名は、『イェルトゥーム・メラモトゥーノ』。
ネフティが至天民と崇める、日輪教の頂点に君臨する者の一人である。




