格好よくなりたかった少年はもういない
『祖国戦争』とこの戦役の名前がついたのはいつだったろうか。忘れてしまった。大元帥たる帝国指導者閣下が編制し指揮したまう親衛軍に志願した頃だから四年ほど前か。あの時は自分は若かった。十五になるかならないかの紅顔の少年であった。当時村の高札場にたてられた高札、そこにあった募兵の話に飛び付いたのだ。
小さい頃から戦場に立つ勇士の話を聞いてきた。そしてそのような勇士になることを夢見ていた。これは男子ならば大抵そうだろう。種族によっては女子であろうともそうだという。そしてはじめはどこぞの騎士団から声がかからないかと思っていたが、そもそもつてがないのだからかかるはずがなかった。そんなときに募兵の高札であるから、喜んで飛び付いた。
村の仲間も何人か一緒に志願した。そして村一番の娘に、『格好よくなって帰ってくる』と誓ったものだ。英雄であれば格好よいのは当たり前だと思っていた。
そんな期待は入営四日目にうち壊されてしまった。穴ぼこを掘ってその底で敵の攻撃をやり過ごす術を教わり、相手を殺すすべはほとんど教わることがなかった。教官の下士官のいわく、生き残れればいいと言った。とくにこの時期の新兵は初陣で六割が死ぬとも言い切っていた。それに反発してなんやかんやと言い返したこともあった。あのときに言い返した同郷の友は確かに初陣で過半数が死んでしまった。右往左往している合間に、だ。それ以降は格好悪くても生き残る重要性を知った。そして英雄願望も消し飛んでしまった。英雄なんてのは死ぬやつかいかれたやつしか為れないのだ。
柄にもなくそんなことを思い出して自嘲していたのは、新しく配属になった新兵たちを中隊に迎えたからだ。彼らは四年前の自分と同じだった。格好よくありたいと信じてこの場所に来たのだ。歩兵として今後に見る地獄を知らずに。