第2話 ありきたりじゃない始まり
1
彼女のあの瞳が頭から離れない。俺の目をまっすぐ見つめるつぶらな瞳。誰よりも眩しく輝いていた瞳。右目の少し下にあるほくろ。全て忘れることができない。俺は彼女に少し惹かれているのかもしれない。
「流石にそれはねぇだろ...」
初対面の俺に、いやまぁクラスでは会ってたはずなんだが、そんな俺に友達いないだろ?って言ったあの女だぞ?しかも俺は昨日振られたばっかりなんだぞ?俺はそんな節操なしになるつもりはねぇ。でも思い出そうとすれば容易に思い出せる。あの綺麗な声、髪、唇、そして瞳。なんで今まで気づかなかったのかわからないくらいに彼女は輝いていた。俺の、なりたくて、なれないものだった。俺は今ずっと寝転がっていたベッドから起き上がり机に向かう。明日の予習をしていてもやはり彼女のことを忘れることはできない。
「あーもうやめだやめ!」
途中かけの予習を無視してペンを放り投げてまたベッドに寝転がる。そしてそのまま目を瞑る。彼女のことを考えるのは何だか癪だったから音楽を聴きながら寝た。そして朝。いつも通り起きて顔を洗う。鏡に写る俺の顔はどことなくにやけていた。
「気持ちわり...」
こんな顔は見ていたくなかったからすぐに洗面所を離れて学校の準備をし、家を出て自転車に乗る。
案の定予習は忘れた。
2
「いやー、助かった!マジ感謝!」
予習のノートを借りた。「お前は何か忘れないと気がすまんのか?あ?」と言う言葉と呆れた視線もセットで。しっかりそっちも後々返すとしよう。だが今はそれよりも大事なことがある。
「......」
教室の隅からそんな上部だけの関係が楽しい?とでも言わんばかりの視線を飛ばすあの美少女だ。どうもあいつを気にするとやりづらいのだが。
「おい?聞いてんのか?」
「あ、あぁ。マジサンキュな!」
「明日は何も忘れずに来いよー」
適当に返事をする。うむ。どうも調子が狂う。あいつはまだ見てくる。というかなんで西野のこと今までなんとも思っていなかったのだろうか。あれだけの美少女なのに。性格はふざけているが。
「うーむ、わからん」
「なにがだ?」
先生が眉間に皺を寄せて俺に言ってくる。考えてるうちに始業時間を過ぎていたらしい。
「えーと、強いて言うなれば、人生ですかね?」
頭をテキストで小突かれた。禿げるからやめろこのハゲ。仲間を増やそうとするんじゃない。
3
難なく、とはいかず、ずっと考え事をしていた俺はどの授業でも先生に当てられた。当然わからないのでそのまま怒られた。その度にあいつはつまらなそうな顔をしているからそっちを見ていると「人の話を聞くときは人の目を見んかい!」とまた怒られた。まぁ何はともあれ授業は終わった。放課後だ。正直なところ俺はコートに行くか行かまいか結構迷った。結論としてはコートには行き、入部を直接断ることにした。ため息をつきながら荷物をまとめる。教室に彼女の姿はもうなかった。昇降口を出て、駐輪場をこえたところにコートはあった。俺の姿を見ると既に運動着に着替えていた彼女は一瞬だけ嬉しそうな顔をしたがすぐにいつもの無感情な顔に戻る。
「来たんだ」
「お前が呼んだんだろ」
「来てくれると思ってなかった......ありがとう」
そういう唐突な一言はダメだ。破壊力が高い。お前は自分が美少女である事を自覚しろ。それよりも気になることがある。
「お前、他の部員は今日は来てないのか?」
「......」
そう言うと彼女は分かりやすく落ち込む。俺は聡明だからなんとなく察しがついた。これはあれだ。部員いないやつだ。もしくはずっと来てないやつだ。
「嫌なら言わなくていい」
「いや、やっぱり誘った手前言わないわけにはいかないわよね。この部活はね、今部活の存続の最低条件すら満たしていない。マネージャーの私一人と不登校になってしまった三年生の先輩一人、それと暴力事件を起こした二年生の先輩が三人しかいないの。だから実質今ここに来れるのは私だけ」
想定してたよりハードな感じな人数不足の原因だった。
「だからあなたが来てくれたことは本当に嬉しいの。なんて言うか、ただの人数合わせじゃなくて、えと、えーとね?......やっぱりいい」
出た。めちゃくちゃ気になるし男の子を勘違いさせるやつ。
「とにかく!これから私に協力してくれるかしら?」
この話を聞いてから、いや、ある意味俺の答えはここに来る前から決まっていたのかもしれない。俺は一呼吸置いてからしっかり息を吸い込んで、言う。
「俺がここに来ただけで部活に入ると思ったか?自意識過剰か?」
4
「え?」
彼女はすごく驚いた様子だ。それもそうだ。あんな事を言われたのだから。でも俺はちょっと今楽しい。この後言うセリフも決めているしそのセリフに対する彼女の反応が見たいからだ。そして、俺は驚いている彼女をよそにさらに続けて言う。
「まぁ、入るんだけどな」
「......っ!!!」
おぉ、プルプルしてるプルプルしてる。やべぇ、すげぇ楽しい。昨日の仕返しだ!ざまぁみろ!
「バカ」
そう言いながら彼女は俺の腹をポスポスと殴る。全く痛くないからとても可愛らしく見える。
「バカ......だけど、よろしくね、柏木くん!」
「......っ!!!」
ずりぃよ。それはずりぃ。なんだって急に今まで一度も見せたことのない笑顔を見せるんだよ。ほんとずりぃよ。
「ま、任せとけ!」
俺はそっぽを向きながら言う。笑顔の彼女をもっと見ていたかったが、何故だか見れなかったんだ。でもとりあえず俺はこいつの力になりたいと思った。ちらっと見たこいつの顔にはまだ笑みが浮かんでいて。慌ててまた俺は目をそらす。
「頼りない仲間が一人できたわね」
「なんて事を言うんだ」
こいつは雰囲気というものをわかっていないな、ほんとに。
「......とっても頼りにしてるわよ」
「ん?なんか言ったか?」
「な、なんでもない!もう暗いから今日は帰るわよ!送って行きなさい!」
「はいはーいお嬢様」
まぁ、俺は鈍感系主人公じゃないから聞こえてるんだけどな。
続きです。ちょっとラブコメしてます。今回でようやくスタートラインに立ったわけですが、これから悠紀たちがどうしていくのか!それは僕にもわかりません(笑)