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Te Amo  作者: きりゆたんぽ
1/5

第1話 結局はありきたりな出会い

1


よく晴れた日の夕暮れ。放課後の教室から見る部活動をする生徒たちの姿は俺には眩し過ぎて。俺にはそれを遠くで眺めることしかできなくて。俺には到底、放てそうにない輝きで。でも眺めることだけなら許されるだろうかと思っていた俺に生徒たちの中で一際光を放つ彼女は俺に言ったんだ。


「ヘタレ」


2


目覚ましが鳴る前に自然と目が覚める。布団から出て顔を洗う。鏡を見る。自分の虚ろげな顔を見て昨日のことを思い出す。「すごい嬉しいんだけど...なんていうかな?友達としか思えなくて。ごめんね?」彼女はそう言った。彼女は俺のことを当然好きでもなければ嫌いでもなかった。ただただ興味がなかったのだ。それはある意味では一番自分にとっては辛いことで。嫌われるよりも辛いことで。そのことを思い出すだけですぐに顔がしわくちゃになっていく自分を見ているとまた自分が情けなく見える。

「しょーもね」

器の小さい俺はあんなやつは別に好きでもなかった。一時の気の迷いだったんだと自分に言い聞かせて、自分を騙した。そんなはずはないのに。自分でも思う。俺はどれだけ心が弱いのだろうと。自分は頭も良くないし運動もできるわけではない。顔も良くない。だったら他の人に勝とうと思ったら心しかないというのに。俺はそれすら並以下だ。ただそれで卑屈になっても仕方ないから学校でなんとなく友達を作って、何となく周りに合わせるんだ。薄っぺらいことは承知の上で。ふと時計を見ると顔を洗って鏡を見ていただけで十分も経過していたことに気づいた。

「やっべ」

急いで学校の支度をする。予習してあったっけ。今日は体育があるから体操服が必要だな。あと財布とスマホは持ったか?よし、あるな。確認をする。

「...行ってきます」

俺以外誰もいない家に向かって言うただの口癖でしかない言葉。俺はすぐに自転車に乗り走った。距離にして3キロ程度しか無いところにある学校だ。そして自転車を漕ぎながら俺は気づく。

「筆箱忘れた」

3

「いやー、助かった!マジ感謝!」

結局筆記用具は借りた。まぁ「お前...小学生でも忘れねぇぞ...」と言う言葉と冷たい視線もセットでだが。あくまで借りただけだからいつかあいつには冷たい言葉と視線も返してやろう。

授業中は特に何も考えない。別に授業が退屈だからとかではないが何かを考えることをしたくないからだ。

「じゃあ、この問題、柏木、わかるか?」

「うぇ?」

気の抜けた返事が出る。さっきまでぼーっと外を眺めていたんだ。答えなどわかるはずがない。「わかんないです」と俺が無愛想に言い、また外を眺めると先生は手に持ったテキストで俺の頭を小突く。教室が笑いに包まれる。俺も周りに合わせて笑う。でも一人笑ってない人がいた。教室の隅で。一人で。正直自分の中ではあんな女の子このクラスにいたっけ?と言う気持ちが強かったが、そんなことを口にしようものなら周りの女子から「名前も覚えてないの?サイテー」と罵られる未来しか見えないから当然口には出さなかった。その場では考えても無駄だと思ったから俺は周りに合わせて笑うのを続けた。だがその女の子はこっちをただただ見つめてくるのだった。冷たい目で。

「で、柏木。この問題わかるか?」

さっきわかんないって言っただろこのハゲ。

4

難なく、かはわからないが今日の授業も終わり、みんなは部活動の準備をする。俺は部活動をやっていないから帰りに前から読みたかった本を入荷したらしい図書室によって帰る。

「相変わらず埃臭いな、ここ」

「悪かったな。図書委員の誰かさんがしっかり掃除してくれりゃいいんだけどねぇ?」

「あ、いたんすか」

図書室の番人をしてる先生だ。名字が薄野、と言うことは知っているが名前は何故か頑なに教えてくれない。ちなみに図書委員の誰かさんとは俺のことだ。俺は長いこと図書委員をやっている。陰キャ極めてた一学期の頃は足蹴なく図書室に通ったものだが二学期になり、クラスに溶け込むに連れ俺はここには出向かなくなっていった。

「で?幽霊図書委員さん?今日のお目当はこれかい?」

「お、やっぱわかってますね、セ、ン、セ?」

先生は俺の目的の本を俺に手渡す。

「で?もう今日は帰るの?」

正直帰る予定ではあったが、昨日振られたばかりの俺にはこの静かな空間が思ったよりも心地よく感じた。

「いや、ちょっとここで読んできます」

「そうか。早く読んで返せよ?俺も読みたいから」

適当な窓際の席に座って本を開く。この本は俺の大好きな作者のもので、この人の本で俺が読んだことのない本はない。一ページ目。ただ情景描写が綴られている。夕暮れの教室。部活動をする生徒たちの声。輝かしい青春。今の状況に近い、と思った。違うのは図書室か教室か、ということくらいだ。この本ではきっとここからこの教室で黄昏れている冴えない主人公がひょんなことから美少女に声をかけられて恋に落ちていくのだろう。そんなどこでも見るような話。でも俺はそれが好きだった。こんなことが起こればいいのにな、と思うから。到底叶うはずもない些細な願望。いや、ただの妄想なのかもしれない。それを考えてる時間が、俺は好きだった。そしてふと自分をこの本に入り込ませたくなった。

「センセ、俺やっぱ教室で読みますわ」

「お、珍しいね。教室で黄昏ながら美少女に声をかけられるのを待つのかい?」

「ま、そんなとこっすよ」

図書室を後にする。教室に向かう途中にも部活動をする生徒たちの声は聞こえてくるし、各教室で楽器ごとの練習をしてる吹奏楽部の音楽も聞こえる。心地よい音色の中にたまに外れた音がするのも高校らしくていいなとも思う。そしてこのまま俺はこんな日常が好きだ、とか思って見るも都合よく俺にぶつかってくる美少女はいない。俺に日常系ラブコメの主人公は向いていないらしい。そのままやはり何事もなく教室に着く。窓からは図書室よりもグラウンドがよく見えて部活動をする生徒たちもよく見える。みんな輝いている。俺にはそれが眩しすぎる。いつから俺はこんなに根暗になったのだろう。小学生の頃は運動部に所属していたし中学生の頃も最初の方は運動部にいた。やめてしまったけれど。俺に話しかけてくる美少女はいなくとも、この光景を見るのは案外好きらしい。そう自分では思っていた。だがガラス窓に写る俺はやはり虚ろげな顔をしていた。

「ヘタレ」

どこかから聞こえた聞いたことのない女の子特有の高く透き通る声。幻聴を聞くくらい俺の心は参っていたらしい。仕方なく帰ろうと思い後ろを見るとこれまたお決まりの展開だが美少女が一人立っていた。今日の授業で全力でフラグ建てまくってたあの笑わない女の子が。

「柏木悠紀」

「何故名前を知ってるんですか?」

「クラス同じでしょうが」

それもそうだ。

「まぁあんたは私の名前、知らないでしょうけどね」

「そ、そんなことはないよ?えとー東雲さん?」

「私、西野だけど。絶望的に名前真逆なのだけれど」

そう言う彼女は俺のことをゴミを見るような目で見る。うん。やっぱり女子って怖い。

「そ、そうとも言うよね。それより西野さん。俺に何か用でもあるの?」

「教室に来た女子が自分に用があるって思い込むだなんてどれだけ自意識過剰なのかしら」

「あ、はは、ごめんね?まぁ俺はすぐに帰るから...」

「まぁ私が用があるのはあなたなのだけれどね」

こいつ殴りてぇ。俺が眉間をヒクヒクさせていると彼女は俺に本題を切り出した。

「あなた、友達いないでしょ」

彼女は俺の横に並び、窓の外の部活動に勤しむ生徒たちを見ながら言う。

「は?西野さんこそいつも教室でぼっちじゃないか。俺には学校で駄弁れるくらいの友達ならいくらでも...」

俺がムキになって言うと西野は表情一つ変えずに俺の言葉を遮って言う。

「あなた、一緒にいて楽しい、友達いないでしょ」

「な、なにを...」

西野が言ってることは事実だ。俺は周りに適当に合わせてるだけ。それを西野は見抜いていたのだろう。だからあの場で笑わなかったのだろう。一人だけ。

「あなた今所属してる部活ないわよね?中学の時にやっていた部活は?」

「ソフトテニスだよ。途中でやめちゃったけど」

「そう。ならちょうどいいわ。ねぇ柏木くん」

彼女は一呼吸置いてこっちにくるりと振り向きながら言った。

「私と一緒に輝いてみない?」

5

「私と一緒に輝いてみない?」

彼女はそう艶やかな長い黒髪をなびかせながら言った。

「一体、それはどういう...」

「部活の勧誘よ、柏木くん。ソフトテニス部に入らない?」

無理だ。そう思った。俺にはあんなにも眩しく部活動をする中に入っていくことはできない。それほどの体力もないしましてや度胸もない。

「あなたはどこかで部活をやりたい、輝きたいと思っているはずよ。柏木くん。あなたはね、確実に輝ける。私が保証する」

「なんでそんなことが言えるんだよ。俺と話したのはさっきが初めてだっていうのに」

「あなたの目は、輝いていたから」

西野のつぶらな瞳が俺の目をじっと見つめる。その瞳はとても輝いて見えて。その輝きは外で部活動をしている生徒たちよりも一際眩しくて。俺はその言葉になにを返していいかがわからなくなった。西野は続けて言う。

「明日の放課後、コートで待ってるから」

「おい、俺はまだ行くとは...」

「待ってる、から」

女子ってほんとずるい。これで行かないわけにはいかないだろ。しかも彼女のあの小柄な姿はもう教室には見えない。

「しかたねぇ。明日しっかり断るか」

俺は教室を出るのであった。

帰りに一部始終を聞かれていた薄野先生に冷やかされたのはまた別の話。


今回はラブコメに挑戦してみましたが僕自身が正直恋愛経験がほぼないものですから色々おかしな点があるかもしれません(笑)まぁそんな時はまた勘違いしてるよこのクソDTとか思って流してください。まぁ正直今回はまだラブコメどころか振られただけですがこれからもっと発展させていく予定ですので!よろしければ見ていただけると幸いです。まぁ、完全に不定期なんですけどね。僕の前回の作品半年前から放置ですしね。

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