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第11話


「……うむ、それで良いでしょう。一応ダンジョンの中では不干渉としましょう。先日まで戦争を行っていたとはいえ、現在は停戦中ですからね。いくらダンジョンの中では関係ないとはいえ、足を引っ張られても癪#しゃく#ですからね」


 俺と副団長が立ち上がり、互いに握手をする。

 役職的にはシャルが皇女として一番身分は高いが、今回の責任者は俺だ。

 シャルは少し納得いかない様子だったが、俺の言葉に口を出すつもりはないらしい。


 天幕を出てから無言で自分たちの兵士たちがいる場所に戻る。兵士達は周りに木を切り倒し、魔法で整地をし天幕を張っていく。事前に俺たちに関しては奥にスペースだけ空けておくように伝えていた。

 ちょうどジェネレート王国からは見えない位置にスペースが出来たことに満足し、俺は次元収納(ストレージ)からギルドハウス()を取り出した。


「この家……懐かしいですね」

「うん、本当に……。あのときは……」


 シャルとアルは懐かしそうな表情をする。目立たないためにテントでも良かったが、テントだとフェリスを出すことができない。しかも風呂も入れないしな。そのままギルドハウス()を出しておけば、リーゼも困らないだろう。


 リーゼたちもこの前一泊したから特に気にした様子もなく俺と一緒にギルドハウス()に入る。

 ダイニングテーブルを俺とシャル、アル、ナタリー、リーゼ、マイラの六人で囲んだ。

 リーゼはシャルたちがいることに慣れない様子でそわそわしている。


「とりあえず明日からだ。この家は残しておくつもりだからリーゼとマイラで使ってくれて構わない。フェリスは同行する予定だから自分たちでやらないといけないが、問題はないだろう」

「……一緒に行かせて欲しいですけど、ダメですか……?」


 やはりリーゼは一緒に同行したいか……。正直、五人までは経験値の恩恵に預かれる。マイラと二人を同行させたら六人になってしまうと経験値的にうまくなくなる。

 さらに俺たちとのレベル差がありすぎて、足を引っ張ることになる予感しかない。


「しかしなぁ……。本当はここの駐屯地の指揮をしてもらいたかったんだよな……。誰も貴族がいない訳にもいかないだろ?」


「それについては問題ないと思いますよ」


 アルが軽く手を挙げて口を挟んできた。


「問題ない? いいのか? 誰も残らなくて?」

「えぇ、リーゼロッテ嬢はあくまで領主代理でしょう。逆に貴族の子息なら今回同行している兵士たちにもいますから。その者に指揮を任せることができます。私も元々指揮など……できませんし……」


 今後、跡を継いで近衛騎士団長にならないといけないのに、それはダメだと思うがまだ若いし仕方ないか。


「うーん、わかった。リーゼたちも同行して構わない。ただ、あまり前には出るなよ」

「はいっ! ダンジョンは何度も入ったことがあります。最下層までは行ったことはないですけど、その近くまでは行ったことがあります」


 そういえば、俺もこの世界では初めてのダンジョンだった。リーゼたちの方が先輩なんだよな。

 ゲームと同じだったなら俺も覚えているが、違っていたらどうにもならない。ここは先輩であるリーゼの話を聞くのは正解かもしれない。


「リーゼ、ダンジョンの内部の事を教えてもらっていいか?」

「もちろんですっ! マイラも何かあったら補足して」

「はい、わかりましたっ」

「まずはダンジョンの内部ですが――――」


 リーゼが説明を始め、マイラが補足をしていく。

 ダンジョンは全一五階層になっているとのこと。五階と一〇階には守護者がいてそれを倒してからでないと次の階層へと潜ることはできない。


 リーゼたちもパーティーで一二階層までは潜ったことがあるが、魔物が強くなって対応できなくなったことで引き上げたそうだ。

 ダンジョンには核があり、そこから魔物を生み出すと言われている。最下階まで攻略されて核を壊されたとしても、一週間ほどでまた新しい核が生まれる。ダンジョンランクは低くなり、出現する魔物の強さも弱体化する。そして一年も放置していると核は元の大きさに戻り、いつも通りの魔物がいるダンジョンになるとのことだ。


 最下層の守護者を倒して核を持ち去っても延々にダンジョンはなくなることがない。

 あまりに長年放置されているダンジョンでは稀に氾濫が起きる場合があり、だからこそ冒険者という職業が成り立つとも言えた。

 戦争によって冒険者が街を去り、両国からも放置されたことによって今回の氾濫が起きたのかもしれない。


「――――そんな感じです」


 リーゼとマイラの説明に「ありがとう」と礼を言う。

 本格的な攻略は明日からとなるが、俺には秘策がある。まだ確定ではないがもしかしたら使えるかもしれない。

 ここのダンジョンがゲームと一緒の構造だったらの話だが……。


 

 各自部屋でゆっくり休んで次の日を迎えた。

 リビングには食事を済ませ、装備を整えたメンバーが揃う。

 深夜だが、シャルがこっそりと俺の部屋に忍び込もうとしていた。もちろんフェリスがそんな事を見過ごすはずはない。

 きっちりと部屋の鍵を閉めて侵入をしのいでいた。もちろん俺は熟睡していて気づきもしなかった。朝、その話を聞いて思わず吹き出しそうになったが、フェリスがいてくれて本当に良かったと思う。

 リビングで装備を整えていたシャルは少し不満げであったが気にしないことにする。


「シャル、どうしたの? 朝からそんな不機嫌で……」

「いえ、何でもありませんっ。ちょっと緊張で眠れなかっただけですから」


 シャルも素直に教えるつもりはないようだ。


「家は仕舞っておくな。フェリス、戻ってくれ」


 俺の言葉に頷いたフェリスは首元のネックレスへと吸い込まれるように消えていく。

 装備を確認し、全員でギルドハウス()を出ると、兵士たちが整列して待っていた。

 全員が出たのを確認し、ギルドハウス()次元収納(ストレージ)へと仕舞う。兵士たちから驚きの声があがるが今更気にしはしない。


「俺たちはこれからダンジョンの攻略を始める。もしかしたらダンジョンから魔物が出てくるかもしれない。その対応は任せた」


 俺の言葉に先頭に立ち、隊長だと思われる男が大きく頷いた。



 ダンジョンの入り口は駐屯地から徒歩数分の場所にある。ダンジョンを挟んで反対側にはジェネレート王国の駐屯地があり、兵士たちはダンジョンの入り口を監視しているようだった。

 ちょうどジェネレート王国側もこれからダンジョンに入るらしい。ラルクスたちが装備を整えてゆっくりとこちらへ向かってきた。

 ラルクス以外からは敵対心を感じるが、ラルクス自身は特に気にしてないようだ。


「そちら側もこれからダンジョンかい? 悪いがジェネレート王国の威信を賭けて先に攻略させてもらう」


 ジェネレート王国側は冒険者二人、兵士二人、そしてラルクスの五人だ。

 それに比べて俺たちは、俺以外が全員女性。しかもナタリーはちびっこだ。

 兵士二人はいやらしい目つきで俺たちのメンバーを見比べてクスッと笑った。


「いくら人手不足だからって、そのメンバーはないよな……」

「たしかに、相当だろうな。男一人に女五人のパーティーとは。見ろよ、一人はまだ子供だぜ?」

「本気かよ。ルネット帝国もヤキが回ったんじゃねーか」


 俺たちの事を下に見ている兵士たちの声を聞いて、全員の機嫌が悪くなる。


「のぉ、トウヤよ。あいつら全員燃やしてやって良いかの? わしが誰だかわかっておらんようじゃしの」


 ナタリーは右手の手のひらに魔力を込めていく。正直、今のナタリーのレベルを考えたら勇者以外瞬殺になると思う。

 さすがに戦争が終わってまだ間もないのに再戦になることは避けたい。だからといってジェネレート王国に舐められるのは好ましくない。

 横目で兵士達を一瞥してからナタリーを宥めることにする。


「ナタリー止めておけ。……雑魚の遠吠えなど流しておけばいいだろ?」 


 俺が兵士達をわざと侮蔑したような言葉を選んだのは訳がある。


「……っ!! こいつらっ!!」


 兵士が怒りから剣に手を掛けようとしたところで横から手が伸び、その手を止めた。


「……止めておくんだ。今はそれどころではないし、ルネット帝国とは停戦中だ。ここには皇女もいる。問題を起こすつもりか?」


 冒険者の一人が兵士を止めた。それなりの実力者なんだろう。兵士が歯を食いしばりながらも静かに頷いた。


「俺たちは依頼としてきているんだ。国同士で揉めるのには手を貸すつもりはない」


 もう一人の冒険者も事情をわかっているのだろう。


「ふんっ……」


 兵士達は舌打ちをしながらラルクスの方へ歩いて行く。残った冒険者はこちらに対して敵対心はない。同じ冒険者として攻略を競う相手ではあるが、直積的に手を出すのはギルドの規約として禁止されている。

 いくら国が違っていても、基本的な母体は一緒なのだ。俺たちが訴え出てしまえばギルド員剥奪さえありえる。こちらには皇女殿下までいるのだ。その正当性はこちらに分がある。


「すまなかったな。貴族とはいえ同じ冒険者だろう? 国が違っても目的は一緒のはずだ。まぁ負けるつもりはないけどな」


 笑みを浮かべる冒険者に習って俺も表情を崩す。


「あぁ、お互い頑張ろう。もちろん先に攻略するのはルネット帝国#俺たち#だけどな」


 ジェネレート王国側の冒険者二人と右手の拳を合わせてから背を向ける。

 シャル達を手招きすると全員が近づいてくる。


「よし、俺たちはジェネレート王国の後にダンジョンに入る。少しの間休憩だ」


「「「「「えっ!?」」」」」


 俺以外の全員が納得いかない表情をしている。


「納得いかない表情だな……。でもこれには理由がある。詳しく話すことはできないけど、確実にジェネレート王国の連中より先に進むことができるんだ」

「それ、本当ですかっ!?」


 リーゼは驚きの声を上げる。ジェネレート王国のメンバーがダンジョン内で道を間違ったら先に進めることは可能だとわかるだろう。

 しかし、ここのダンジョンは最下階まではいかないまでも、ある程度攻略されて地図も出回っている。

 そして俺はその地図を確認して――確信した。



 ――――ゲームと全く同じダンジョンだと。


 自分の記憶と照らし合わせ、パソコンの画面で見ていた地図と全く同じ造り。

 だからこそジェネレート王国のメンバーを出し抜ける。これは俺たちが先行してしまうと露呈してしまう可能性があった。

 後から追うことにすることによってそのルートを隠すつもりだ。


「……後で説明をしてくださいね。トウヤ様の事は信じていますから」


 シャルの言葉に頷いてから、全員が天幕で休憩をする。

 兵士達にダンジョンの入り口を監視して貰い、すでにラルクス達がダンジョンに入ったのは報告を受けている。

 そして一時間が経過していた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 直積的に手を出すのはギルドの規約として禁止されている。 →直接手を出すのは、ギルドの規約として禁止されている。
[一言] 兵士達は周りに木を切り倒し、  →兵士達は周りの木を切り倒し、
[一言] 直積的に手を出す ↓ 直接に手を出す
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