第17話 三人の悪だくみ
「やっと帰ってこれました……」
二週間以上に亘り、森の中でひたすらレベル上げを行った。
基本的には見守っているだけだったが、稀に出没する高ランクの魔物は三人で討伐していった。
そしてある程度のレベルが上がったことで、屋敷に戻ることにした。
屋敷に戻る前にナタリーの店に寄り、帰ってきたことを告げる。
二人の姿を見たナタリーは唾を飲み込む。
「二人とも……この二週間で、かなり……」
ナタリーも驚くほどに二人は疲れ果てた表情をしているが、それでも強者の自信が垣間見えた。
「えぇ……ずっと……」
「頑張りました……」
二人が返事をすると、ナタリーは頷く。
「まぁ良い、今日からまた屋敷に泊まりにいくから、美味いものを食わせるのじゃ」
「あぁ、わかったよ。何か作っておく」
俺は軽く手で挨拶をし、屋敷へと戻った。
「フェリス、ただいま」
屋敷に戻り、ホールで挨拶をすると、フェリスはすぐに姿を現わす。
「……おかえり、トーヤ。遅かった」
「ごめんごめん、二人のレベル上げに夢中になってね。しばらくの間は長期で出掛ける事はないよ」
俺の返事に満足したようで、少しだけ笑みを浮かべてフェリスは消えていく。
二人は部屋に戻り、俺も台所に立ち、夕食のメニューを考える。
「とりあえず、肉が大量にあるから、ステーキでも焼くか……」
メニューが決まれば、あとは調理していくだけだ。
ナタリーが帰る時間を見計らって料理を作っていく。
◇◇◇
「それじゃ、無事に特訓を終えた事で乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
グラスを掲げ、エールを流し込んでいく。
「美味いっ! ずっと飲まなかったから久々のエールは美味いな」
俺以外は誰も酒を飲まず、果実ジュースを飲んでいる。
勧めたのだが「今日は飲んだら寝てしまうから」と言って断られた。
まぁ、一人で飲んでも、このメンバーに囲まれていれば、酒は美味いんだけどな。
「それにしても、この短期間でそこまでレベルを……」
シャルとアルのレベルを聞いたナタリーは顔をひきつらせる。
「全て、トーヤ様のお陰です。トーヤ様から頂いた――」
うっとりとして自分の左手の薬指につけた指輪を見て、シャルは頬を染める。
……あくまで経験値倍増アイテムだからね?
そう、思っていても流石に言葉に出す事はしない。二人には指輪の効果を伝えてはいるが、広まるのは好ましくない。
「私も、高ランクの魔物まで二人でビシバシとやっつけてやりました!」
陽気に特訓内容を話すアル。
……君、途中、「もう嫌ぁぁぁぁ」って泣いてたけどね……。
二人の興奮した説明に俺は苦笑しながら、エールを飲む。
食事が終わるまで、興奮した二人の説明は延々と続いていくのだった。
食事が済み、風呂に入った後、ダイニングで紅茶を飲む。
三人はまだ話したいことがあるというので、俺はさっさと寝室に戻りベッドへと潜り込んで眠りについた。
◇◇◇
「……それで進展はあったのかのぉ?」
ナタリーの言葉に、二人は首を横に振る。
「トーヤ様はこの二週間寝泊まりを共にしましたが、何もしてくる事はございませんでした」
「私も……ちょっとバスタオル姿で、トーヤさんの前に出たら、顔を赤くして「ごめん」って言って出て行きましたし」
二人の説明にナタリーはため息をつく。
「やはり、まだ小娘どもではダメかのぉ。わしが大人の魅力でメロメロにするしか……」
否定をしたい二人であったが、流石に口に出すことはない。
ナタリーの言葉に苦笑しながらも、話を聞いていく。
「それで、お主たちから見てトーヤの実力はどうじゃったのじゃ?」
ナタリーの言葉に、二人は肩を落とす。
「私たちはレベルは信じられないほどに上がりました。……それでも、トーヤ様と対人戦のために模擬戦を行いましたが、二人掛かりでも……相手になりませんでした」
森にいる間、トウヤは今後、国を取り戻す為に、必ず対人戦は必要と言い、レベル上げの他に、毎日模擬戦を行なっていた。しかし、回復術師と自称するトーヤに全く歯が立たなかったのだ。
「そのレベルに上がっても全く歯が立たぬとは……。トーヤはそこまでの力を持っている、と。こうなったら、わしが“賢者の媚薬”を作るしかないかのぉ」
「「賢者の媚薬!?」
二人はナタリーの言葉に目を見開く。
そして、ナタリーは説明を続けた。
「そうじゃ、賢者の媚薬と言ってのぉ、またの名を“惚れ薬”とも言う。これをトーヤに飲ませれば、一発でわしの魅力にイチコロなはずじゃ」
(それを飲ませれば、私もトーヤ様と結ばれる可能性が……)
(それで、トーヤさんと番になれると……)
三人とも本心を隠しながら、にやりと笑みを浮かべ頷く。
「三日もあればできるじゃろ。これは男にしか効かないから、わしらが飲んでも問題はない。できたら決行するのじゃ!」
三人は今までで一番強く頷いたのだった。
そして数日が経ち、決行の日となった。
いつもありがとうございます。
あともうちょっとだけお付き合いください。




