第1話
ジェネレート王国とのダンジョン内での戦いに勝利し、帝国首都に戻ると、精霊石が彩られた勲章と新たに城から近い場所にある屋敷を与えられることになった。
……しかも家精霊付という褒美なのか押し付けられたともいうか微妙な気持ちになる。
正直、家精霊はフェリスがいれば問題はない。屋敷についても二つもあっても仕方ない。かといって皇帝から拝領した屋敷を売り飛ばすわけにもいかない。
目の前に広がる以前よりも豪華な屋敷を眺めながら思わずため息が出る。
皇帝からは「何かあったらすぐに駆け付けられるように」と言われもらった屋敷だが、俺一人で住むには広すぎる。
従者を雇うことになっていることとはいえ、以前住んでいた屋敷の倍以上の大きさがある。
ちなみにサヤをはじめルミーナや子供たちは以前住んでいた屋敷に仮住まいとして滞在させている。
本当なら一緒に住むことも考えていたが、貴族街に従者以外の平民は住むことは原則として禁止されていた。
特例として一定期間だけ滞在することを許可されたが、そのうち平民街に移動しなければならない。
豪商など貴族街に許可を得て店を構えている者は別として、安全を考慮して仕方ないことだろう。
貴族としてまだ日が浅い俺は、日々皇帝から紹介してもらった家令たちに教わることも多い。
「……それにしてもこの屋敷どうするかな。なぁコクヨウ?」
ヒヒィンと返事をしてくれるだけで早く敷地に入れとばかりに鼻で背中を押してくる。
「わかったよ。とりあえず家精霊と会ってみないことにはな」
無人だった期間が長いのか少しだけ錆びた門を開けて中へと入る。中庭も広く中央には噴水の名残まである。
家精霊は認められた主人がいる場合は敷地内の管理を行ってくれるが、主人がいない場合、屋敷の維持という最低限のことしかできない。
どういう原理でそうなっているのかは不明であるが、言葉を発することのない家精霊に聞いても答えは返ってこないだろう。
ただ、例外がいる。それがフェリスだ。しかしフェリスに聞いてみても「わからない」と言うだけ。
俺の纏っている魔力が美味しいというが、魔力を吸われているわけでもないし、ゲームにあったシステムでもないので不明である。
そんなことを考えながら俺は扉に手をかけた。
ゆっくりと扉を開けると、中は綺麗に維持されている。
ホールを進んでいくと目の前に白い渦が巻き起こり、そして家精霊の――幼女が現れた。
まだ一〇歳にも満たないように見え、フェリスと同じ腰まで伸びた白い髪。蒼い目に同じ色の蝶の髪留めをしている。
じっと俺のことを見つめ、不思議そうに首を傾げる。
「この屋敷の主人となったトウヤだ。初めまして」
丁寧にあいさつをして満面の笑みを浮かべる。幼女の家精霊はまた反対側に首を傾げる。
「フェリスだったら話が通じるのかな……。フェリス出てこれる?」
俺の言葉に首から下げている精霊石のネックレスが光り、そこからフェリスが現れる。
突然現れたフェリスに幼女の家精霊は――満面の笑みを浮かべた。
同じようにフェリスは笑みを浮かべ両手を差し出すと、幼女の家精霊はフェリスに抱き着いた。
――あれ? 家精霊って表情に出さないのでは? いや、フェリスは出すようになったけどある程度の時間が必要だった気がする。
幼女の家精霊は一度フェリスから離れると、改めて俺を見て大きくうなずいた。
どうやらこの屋敷でも主人として認められたらしい。
案内してくれた文官は驚いたような表情をし、口が開いている。
「ありえない……同じ屋敷に家精霊が二人も同居をすることができるなんて……。
そういえば、昔聞いた気がするけど、前例がないことばかりだし俺にとってはどうでもいい。
フェリスと仲良くしてくれるのが一番ありがたいからな。
こうして屋敷を無事に受領した俺は新しい場所での生活を送ることになった。