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5話 自問自答

「行ってきまーす」


 父様男泣き事件から早一ヶ月。


 書斎以外の家具も不恰好ながら完成……というか、力仕事や細かい作業はサフライ兄様のが断然得意分野だったので、後は任せた状態になった俺はやる事がなくなり今やヤスリがけ専門屋となってしまった。 いわゆる左遷? 世間はキビシィ!


「ブンブンブーン 蜂が飛ぶぅ〜」


 もはや、枝片手に領内を散歩しながら歌っちゃうくらい暇なのだ。


 しかしながら、まだまだうちは貧乏領主であり、備蓄もしれている。

 再び災害が起これば食うに困る生活に逆戻りになるだろう。何か俺にできることはないのか?


 両親や兄達は天然酵母の発見や、フキのレシピ移譲、自宅ビフォーアフターでもう充分だからあとは五歳児らしく遊べと言うが、俺はそんなの楽しくないっ!  精神年齢三十過ぎたオッサンが、今更五歳児の心境に戻れる訳ないだろう!? もっとオラに刺激をををーー!


「あっ、あるふぁー?」


「ん?」


 両手で刺激玉を集めていた俺に声を掛けて来たのはユウ。村で唯一の同い年のマイペースな男の子だ。


「今日はどっかいくの?」


「いんや。何かしたいけどなにも思い浮かばなくてな」


「あるふぁーはいっつも忙しそうだね〜」


 きゃはは、と笑うユウの穢れなき笑顔が眩しい。


「何か困ってる事はないか?」


「んーん。 あるふぁーが、お家の壁や屋根の穴を塞いでくれるからみんな助かってるって母ちゃんも言ってた。 領主様も、魔物狩りでみんなを助けてくれるから安心して眠れるって! ありがとー」


「……どういたしまして」


 満面の笑みが、その時ばかりは何故かほろ苦かった。


 十五年前、荒れ果てたこの領内と比べると、麦などの作物もほどほどに実り、家屋も修繕され、外敵から領内を守る丸太から出来た頑丈な柵も設けられたそうだ。

 ただそれは、盗賊に襲われる前と同じか少々マシな程度だろうに。


 人間は、もっと上を目指せるはず。


 もっともっと便利で、自由な世界で生きるべきだ。


 俺がそう思ってしまうのは前世の記憶を持っているが故の弊害なんだろうか。


「アル坊ちゃん! これ持って行きな!」


「えっ、いいの?」


「いいのいいの。坊ちゃんや領主様にはお世話になってるからね。いつもありがとうね」


 河原沿いを歩いていると赤子を背負って遠くの川にでも洗濯に行くのか、貴重な野いちごをくれる馴染みのおばちゃん。


「おい、アル! 天然なんとかっていうパン、すっげぇ美味かったぞ! ありがとな!」


 一生懸命畑を耕している汗だくなおっちゃん。


 それ以外にも、色んな人とすれちがってみんなが口を揃えたように笑顔で、俺に、ありがとうって言った。



ギィ


「……ただいま」


「あらアル、帰ったの?」


「おばちゃんに野いちご貰っちゃった」


「あら、また? ふふふ。アルは人気者ね。早速お夕飯にみんなで頂きましょう」


「……ちょっと疲れたから、部屋で休んでるね」


「わかったわ」







「はぁ…」


 俺は藁の上にシーツを掛けただけの簡易ベッドの上に寝転がっていた。


 なんだろう、すごくモヤモヤする。


 散歩に出るまではそんなことなかったのに。 じゃあ、いつ? 家を出てから? いや、嫌な事なんてなにもなかった。

 むしろ、ありがとうっていっぱい言ってもらえて、滅多に食べられない野いちごまでプレゼントしてもらえてラッキーだったくらいだ。


「…………」


 なのになんで、自分はこんなに悔しいのか。


 みんなを馬鹿にしてるわけじゃない。だけど、自分ならもっとみんなを助けて上げられる筈なのにって、思ってしまう。


 今の俺は所詮、五歳児だ。


 五大魔法や六大魔法が使えようが、初級レベルしか使えない自分が領内みんなを養って行くことなんて出来ない。

 出来る範囲でやったところで不公平も生まれるかもしれない。みんなが誇りを持ってやっている仕事を奪ってしまう結果になるかもしれない。


 みんなが好きだから、が。


 ただの独りよがりになってしまう日が来るかもしれない事に、気がついてしまった。


 この先、身体も魔法も成長して、例えば日本知識なんかを広めたとしてもそれは俺の自己満足じゃないのか?


 だから両親や兄達は、これ以上なにもするなと俺に釘を刺したのではないか。



 …………あぁ、もう。頭こんがらがってきた。






 コンコンコン


「アルファン? 夕飯食べないのか?」


「……父様?」


 ベッドに突っ伏して寝ていたのをムクリと身体を起こすと、同時に父が入ってきた。


「……どうした、珍しい」


 余程酷い顔をしてしまっていたのか、そんな自分を見て父は目を瞠っていた。


「僕……余計な事ばかりしたんでしょうか」


「何?」


「僕はいつか、父様みたいに、僕の得意な魔法を使って一杯練習して、領内のみんなを助けたいって思ってました」


「あぁ、知ってるさ」


「でも、魔法でなにもかもが出来てしまったら、僕がなんでもやってしまったら、それまで一生懸命畑を耕している人や、木こりのおじさんはどうなるの? みんな、自分の作物が一番だって誇りを持っているのに、全部僕が奪ってしまっ、」


「……アルファン」


「!」


 父はいつの間にか近くに来ていて、俺を抱き上げてた。


「お前はお調子者だが、 臆病者だからな」


「え?」


 そうなのか? 今世(いま)はやりたい様にやって来たつもりだったが。


「お前は賢い。 どこで勉強してきたのか頭もいいし、人が嫌がることは絶対にしない。 それは、この人はどんな人で、自分とどう違うのか。 お前は人間をよく観察して、見極めてる。 家族や領民のみんなに対してだってそうだろ?」


 ……まぁ、そうなのかな。


 だってそれは日本では当たり前の事だったから。


 父の脈絡のない言葉に戸惑いながらも、俺はこくんと頷いた。


「アルファン、もっと自分に自信を持て! 怯える必要なんかない! たとえ間違う事があっても、俺がなんとかしてやる。だから迷うな!」


 太く逞しい腕に抱き上げられ、子供だからといって適当に流さずに真摯に向き合ってくれる父。


「男なら、自分のやりたいようにやってみろ!」


「……ッ!」


 眼前にある真剣な瞳を見てしまえば、ここまで言わせてしまったのなら、もう覚悟を決めるしかない。


 ここ最近ずっと、考えていたこと。


「……父様、お願いがあります」


「ん?」


「僕に、中級以上の五大魔法を教えて下さい」


 俺にしか出来ないことを。




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