4話 完成しました
「父様母様! ついに壁が完成しました!」
今日は壁が完成したぞ!
壁の修繕中、なんだかんだ色々拘ってやっていたら四日で終了の予定だったのを大幅に超えて、十日も掛かってしまった。
ガラスは高価なので無理だが、台所にちょっとした窓が欲しいなと思って小さな窓枠を作ってみたり、玄関は思い切って作り直して大きくしよう!と思って玄関口を大きく、今まで扉は板を立て掛けるだけだったものを出血大サービスで木から切り出した扉と玄関の枠の所にモルタルで設置、土魔法で作ってみた金属っぽいネジと蝶番で開け締め出来るようにした!蝶番とネジは歪だけど、大満足の出来だ! はははは!!
ついでに、今は四部屋しかないけどいずれは一人部屋が欲しいな〜と思って、ふた回りくらい壁を後ろに、我が家を大きくしときました。
結果的には十部屋くらいにはなったかな? 使用人のじーちゃんと婆さんが泊まってもいいし、今まで無かった客室が出来たね! テヘペロ☆
あっ、因みに玄関と台所とリビングも増築して……
「「「もういいもういいもういいーー!!」」」
説明の途中で止められてしまった。
「どうしたのです?」
あれ? 父様と兄様達の顔が青いよ?
「アルファン……お前と言う奴は」
父様は片手で顔を覆い、天を仰いでいる。
「アルは、大工にもなれそうだな……」
長兄・ガハンスは今にも魂が抜けてしまいそうだ。
「アルてめぇ、昔から普通じゃねーとは思ってたが」
初登場の次兄・サフライは口元を引くつかせていた。
家族で唯一喜んでくれたのが母様。
母様はキラキラと目を輝かせて「んまぁーー! どうしましょ、どうしましょ!」と狂喜乱舞だった。
特に台所がお気に召したらしい。後日、料理長も同じようなテンションだった。正直ちょっと怖かった。
「ま、まぁまぁ!父様と兄様達も入って入って!」
親戚が結婚式とかで、家族が五日程家を空けたのをいい事に、ちょっとやりすぎてしまったかもしれない。
なにしろ部屋が二倍以上あるのだ。
怒られそうだったので少なく見積もって言ってみたが二回りどころではない。
玄関と台所とリビングも増築してしまったので、ぶっちゃけ最早原型はなく前の家の四倍はくだらなかった。
こ、この辺り一帯はうちの敷地内だったよね?
他人の領域は犯してないもんねっ?
材料費はその辺の土と森の木と魔力だから経費は使ってないし大丈夫だよね?ねっ? ガクガクブルブル。
結果、母様が庇ってくれたのと父も兄も疲れ切った顔をしていたのでそれ程怒られなくて済んだ。アイラブママン。
なんやかんや、父と兄も家の中を案内するツアーに参加したあとは興奮しきりで、兄達は扉付きの一人部屋が持てる事に感動し、父は寝室とは別に六畳程の書斎スペースが持てる事に涙目だった。……憧れていたのかな?
「アル、ここはなんのスペースなの?」
一足先に家を探検していた母が、俺が念願だった部屋を見つけたようだ。
「排水口があるでしょ?」
「ええ、そうね」
「ゆくゆくはお風呂場にしたいんだけど、今湯船になりそうな材料がないから木でつくるか、違う材料を調達してからになる場所だよ。それまでは今まで通りたらいにお湯を溜める感じだね。日中は洗濯物を洗う場所にしてもいいし、母様ならお湯を出せるでしょ?」
「そうね!冬場は外に出なくてもいいなら助かるわ!」
壁どころか家中勢い余ってリフォームしてしまったが、家族にはなんとか受け入れられてよかった。
ただ、家そのものは兎も角家具は前のままなので、木で出来る家具は早急に作らないといけない。
リビングにもうちょっと大きいテーブルに、それに合わせた椅子。それぞれの部屋のベッドの枠組に、父様の書斎のデスク、椅子、本棚。
俺たちの部屋に勉強机、その椅子、小さめの本棚。 使用人の婆さんとじーちゃん用に、適度な間隔でベンチもおいておきたいな。
翌日、早速父のデスク作りから始めることにした。
まず近くの森から木を二本程伐採して、家の横あたりに転がしておく。
ん?どうやって運んだかって?そうだね、五歳児の俺が持てる筈ないからね。
実は五大魔法全てを使える人にだけ、無属性って六つ目の魔法が使えるみたいなんだ。
それはまさになんでもありで、木を運んだような超能力染みたものや、これは前世のゲームや小説から代用した知識だけど、無限鞄なるものや時間停止の機能を鞄やら入れ物につけられる能力だ。俺ってば有能?
両親や兄に打ち明けたところ、また顎を外しそうになってたけど、そんな話は聞いた事がないんだってさ。
まさにチート能力かもしれない。
ただ、国や貴族に知られたら誘拐されてもおかしくないから黙っていなさいという結果に落ち着いた。
後から考えたけど、俺、この両親じゃなかったら売られてもおかしくないよね。
もちろん折角便利な能力だから、我が家限定で活用はしてるよ。
母の聖域・台所の保存室とか遠征の際の食料入れておくバックとか。
母は…………嬉しすぎたのか泣いてた。怖い。なぜか俺も泣きたくなった。
閑話休題。
父が静かに喜んでいたのがグッと来たので、一番先に書斎を作ろうと思い、前世で社長や校長が座ってそうなどデカイのをイメージして、それに合う椅子。
出来れば先に豪華に彫刻で飾りつけたかったので、口は悪いが意外と器用な次兄、サフライに施してもらった。
「……黒く出来ればなぁ」
風魔法でヤスリがけも終わり、もっとカッコよくしたかった俺はペンキがあればいいのにとボヤいた。
しかし、うちは未だ貧乏領主。くわえて俺は五歳児。ペンキ自体は存在するらしいが先立つものがない。
「うーむ」
「アル、お困りか?」
「ガハンス兄様!」
「おお、凄いなこれは」
我が家の裏側、俺の家庭菜園の横で唸っていたら、救世主が現れた!キタコレ!?そうだ、兄様なら騎士団に勤めていた頃の給金がペンキ代くらいなら残っているかもしれないぞ!
「ペンキくらいならいいぞ」
「本当!?」
「ああ、サフライも頑張っていたようだからな。私にも何か手伝わせてくれ」
やだ、男前!さすがは兄様!!
かくして、俺たち兄弟からのプレゼントとなった父の仕事机と椅子を運び込み、遠慮する兄達を従えて父を迎えに行った。
自分達兄弟からの初めての贈り物、喜んでくれるといいな。
「お、お前達これは……?」
「まぁ!」
「父様、いつもお仕事お疲れ様です。この家具は僕達からのプレゼントです」
どうせならと思って、書斎の大型の本棚も作成し、余ったペンキを塗って一応完成形にしてみたのだ。
「木の伐採と切り出しは僕が、彫刻はサフライ兄様が、黒のペンキはガハンス兄様が調達してくれました」
「…………っ」
「あの、父様?」
「なぁ、マリア」
「はい。あなた」
「俺は幸せ者だな」
「そうね、身に余るくらいね?」
この時の父の泣き笑いを、俺は一生忘れない。