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27話 希望

「これは二階に運んでくれ」


「あっ、これは私のですね」


 旅館前では、通常時より賑わいをみせていた。

 といってもお祭りとかそういった類のものではなく、伯父とアリッサが移住してくるにあたって依頼していた後続の荷物が大量に届いたのだ。


「……量が、桁違いですね」


「まあ、商売道具だからな」


 あっと言う間に旅館の一階部分の三部屋を埋め尽くした荷物の量に呆けてしまう。

 これから自分の商店が出来上がったらそこに第一段階のものを詰めていくらしいが、これはかなりの量じゃないだろうか? 武器や道具はともかく、食べ物などは乾物ばかりではないだろうし、これでは商店完成前に腐ってしまうものもある気がする。

 それを、伯父にどうするのかと聞いてみれば、


「アルと私の仲じゃないか」


「ええええ……」


 実にちゃっかりしていらっしゃる。

 つまり、遠回しに俺に時間停止機能もつけろと言っているのだ。

 通りで、数日しか保たないものは避けて、一ヶ月以上はなんとか保つギリギリのラインのものばかりあるはずだ。

 今までなら食べ物を運ぶ時は、王都からこの村までの距離や実際に売れなかった時の事を考えて塩まみれの保存食を運送してくるのが当たり前であったが、うちの保存庫や食糧庫を見てからは、商人らしい考えに落ち着いてしまったようだ。


「もちろん、秘密厳守で言い値を払うぞ」


 ……うん。 なんだろうね、その胡散臭い笑顔。


 まあそんなこともあるだろうなと予測していなかった訳でもないし、作ってあげるよ。

商人にとっちゃ、俺しか持ってない無限鞄や商品価値が下がらない時間停止機能なんかは夢のようなアイテムなんだろうしね。 無限鞄の存在はまだ知らせてないけど。


「はぁ。その商品を腐らせるのももったいないので引き受けますけど、値段は相場がわからないので父と相談してくださいね? あと、商店が出来るまではうちの隣の食糧庫に入れとけば大丈夫ですよ」


「助かる」


 ……全くこのおっさんは。

 軽い溜息が出てしまうが、これで借りもチャラにできたと思えばいいか。


「お前の事はアリッサにはまだ言ってないからな。 あの好奇心の塊にずっと隠し通すのも難しいだろうが、お前達で頃合いを決めてくれればいい」


「はい」


 声を潜めて伯父が言う。

 伯父が言うように、暇があれば村内を散歩しているアリッサにいつまで隠し通せるかある意味みものではある。


「あとは、先日の綿布団についてだが……」


「良い値で売れそうですか?」


 伯父とアリッサにも、旅館に泊まっているお客様だからということで、綿布団を二階の部屋で貸出をしていた。

 二人とも気に入ってくれたようで、これを売っていく事は出来ないかと持ちかけたところ、数日使ってみて判断したいと言われていたのだ。


「ああ、もちろん良い商売になる。 だが、できればやはり専門のお針子に裁縫を任せた方が綿布団の価値も上がるんだ」


「あ〜、確かに……」


 そりゃそうだわなと納得するしかない。

 今チクチクやってるの、専業主婦の母とお嬢様のエミリアと婆さん三人だからね。

 決してみんなが下手な訳ではないし、普通に上手い程度だけど、流石にプロには敵わないんだろう。


「見栄えさえ良くなれば、王族御用達も夢ではない」


「……今はまだ、お針子を雇う余裕がないです。 貰った布と糸も残り僅かですし」


「だろうな」


 さもありなん、と伯父は深く頷いた。

 今お針子を雇ったところで、ようやく改善されてきた領内の運営資金を再び圧迫しかねない。

 懸賞金などでちょっぴり潤ってはいるが、雇った兵士に支払う給金もあるし、優先させなければいけない事が他に沢山ある為、よっぽどでないことはどんどん後回しにされてしまうのだ。


「そこで、私の商店につける時間停止機能と、既に作られている試作品の綿布団は私が買おう。 お針子は無理でも布と糸だけなら当分は凌げるだろう?」


「僕はこの村を出た事がないので相場がわかりませんが、伯父上が言うならそうなのでしょう」


 二人の話し合いからも、この金策はものすごく地道に思えるが、これでも数年前よりだいぶ前進しているのだ。

 以前ならもっと無い無い尽くしだったのが、運良く懸賞金を手に入れ、タイミング良く布と糸を伯父から貰い、商売に関して一番頼りになる伯父がいつでも相談出来るこの村に来てくれた。

 明日食べる物の心配をしなくてよくて、運営資金に多少の余裕が出て来たからこそ、綿布団で領内の事業について考える事が出来るようになった。

 上を見ればキリがないが、昔と違って希望が持てるという事は、この村は恵まれているのだと思う。


「まあ、期待していなさい」


 フッ、と不敵に笑った伯父。

 一体幾らで売れるのか、楽しみにしたいところだ。





 ****





「お、ユウ!」


「……アルファン?」


 自宅の斜め後ろにある養鶏場から、ちょうど出て来た幼馴染のユウと出くわした。


「お前も、鶏の世話してくれてるんだな」


「うん。 鶏と牛の世話を手伝うだけで、今晩の食卓がガラッと変わるからね。今はもう子供も大人もみんなで争奪戦だよ」


「そうなのか?」


 前に、じーちゃんには子供ばかりが手伝ってくれていると聞いていたのだが。

 ユウに聞いたところ、初期には村の半分の子供が当番制にしていたが、そのうち村内全員の子供が希望する様になり、今では少しでも玉子や牛乳を食べる機会を増やしたいと仕事があるはずの大人まで当番に加わる様になったらしい。


「……あの、言いにくいんだけどさ」


「ん?」


「鶏や牛の数をもっと増やす事って出来ないかな?」


 今でも充分助かっているけど、玉子や牛乳が人気で二十日に一度じゃみんなに余り行き渡らないから。

 鶏や牛を乱獲して来たのは俺で、本来は凶暴過ぎて養鶏や酪農不可能なこいつらを裏技で飼育可能にしたのも俺だから、ユウはみんなから頼んで欲しいと頼まれたそうだ。

 捕まえるだけなら兵士達にだって出来るが、それは肉になるだけで、玉子や牛乳を出してはくれないからだと。


「何か特別な個体を狙ってるのか?」


「や、そういうわけでもないんだが……」


 俺は捕まえた後、野生動物だった鶏や牛に無属性魔法で先ず催眠をかけている。

 その後、これまた無属性魔法の鑑定で弱点を探し、鶏なら鶏冠(とさか)を一つだけ切り落とし、牛なら左右の角を半ばまで切り落とす。

 そうすれば弱点を突かれたこいつらは隷属化して嘘みたいに大人しくなるのだが、催眠をかけられない普通の人は切り落とす前に暴れられて自らの命を先に落とすか、ピンポイントに切り落とせなくて結局は肉になってしまうんだと思う。 そもそも弱点知らないだろうしね。


「む、無理そうならみんなに言っとくけど……?」


「いや、無理ではないな」


 俺にしたってこの作業はなかなかの重労働だし、余り大っぴらにするわけにはいかないので、そこそこの数を捕獲したらいいと言われたからそのままだったが、みんなに期待されちゃしないわけにはいかないよな。

 言いに来たユウだって、俺と同い年で仲がいいからみんなに期待されて頼まれたんだろうし。


「親とじーちゃんに相談してみて、許可が出たらまた捕まえてくるよ」


「ほんとに!? ありがとう!」


「……許可が出なくても恨むなよ?」


「良いんだ、みんなダメで元々だったから」


「そか」


 そしてこの会話から五日後、村の東に新たな農場と養鶏場の建設が始まった。



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