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9話 防衛と話し合い

「アル坊っちゃん! この辺でいいのかー」


「うん、その辺りで大丈夫」


 俺は今、土魔法で村を取り囲む作業に没頭していた。

 まず最初に、村の内外から要らない土を掻き集めてもらってその土を用いて高さ三メートル程の防壁を造っていく。

 村の近辺には誰も住んでいないので、村を中心にして将来開拓の余地が充分あるように幅をもたせた。


 この村には以前は三百人弱のそれなりの人口がいたようだが、人災や飢饉で亡くなってしまった人が多く、現在は生き残った百五十人程度と本当に少ないのだ。

 それでも十九年前より大人になった子供達が結婚し、子を成し、少しずつ増えてはいるのだが。


「アルファン、何か私に手伝える事はないのか?」


「あ、伯父さん達も手伝ってくれるの?」


「他の護衛達はともかく、家人が忙しそうにしているのに、居候の私が暇を持て余しているのはどうにも居心地が悪い」


「私にも出来る事があればお申出ください」


 年を追う毎に増しているっぽい魔力量に飽かせて土に魔力を叩きつけてコンクリの防壁に造っていると、背後に伯父さんと護衛をしていた一人の女性から声が掛かった。

 といっても、本当は無属性魔法で土集めから壁の作製まで一人で出来るんだけど。村のおっちゃん達が何か手伝いたいと志願してくれたから土を集めて貰ってるくらいなんだよなあ。魔力と時間の節約にはなるし。


「防壁に関しては今のところ手は足りてるんだけど、これが終わったら、何をすべきなのか僕も正直よくわからないんだ」


 盗賊がいつ来るかなんてわからないが、防壁はあと一週間もすれば終わるだろう。

 戦力は、父と長兄が率いる志願兵を集めた十五人の部隊でブートキャンプ中。

 自衛の要になるであろう防壁は、絶賛作成中。

 武器は、次兄が量産出来そうなものはないか頭を悩ませて作ってくれている。

 後は……なんだろうか? 当たり前だけど戦争なんかした事がないからすぐには思いつかなかった。


「食糧だろうな」


「!」


 伯父に現状を伝えるとあっさりと答えが返って来た。

そりゃそうだ。防壁を造って非戦闘員が引きこもるなら長引いた場合の事を考えても食糧は必須だ。


「でもそれだと、アリッサはともかく私では手伝えないか」


 伯父に唯一ついてきた護衛の一人はアリッサさんと言うらしい。

 アリッサさんは護衛の仕事が出来る冒険者だから可能だが、伯父は護衛を必須とする極一般的な商人だ。 戦う必要なんかないので当然である。


「……伯父上は、商品で武器を扱った事はありますか?」


「ん? もちろんあるぞ」


「だったら、サフライ兄様にアドバイスをお願いします。 作製した武器を実際に使えるのか、試し撃ち出来る彼女にも」


「わかった。 他に私が出来そうな事があれば呼びなさい」


 アリッサが森で狩猟なり採集なりしてくれるのは正直魅力的だが、彼女はあくまで伯父が護衛として雇った冒険者だ。

 伯父の側を離れては護衛など出来ないし、彼女に万が一の事があっても責任がとれない以上俺が伯父の好意に甘えるのも違う気がする。

 伯父がアリッサを連れて自宅方面へ引き返すのを見送ると、俺は作業を続けた。




****





「カミル殿。 大変不躾な事を申しますが、あの少年は一体何者でしょうか?」


「……正真正銘私の甥っ子達だが?」


 数歩後ろを歩いて警護に務めていた女の声に、思わず足を止めた。

 カミルは、弟夫婦の三兄弟を産まれた時から知っている。

 長男のガハンスは弟夫婦がこの地に移住する直前に産まれた子で、自分にとっても初めての甥っ子だったから、五年ぶりに再会した時は記憶より大きくなったガハンスを見て感慨深かったのを覚えている。

 次男、三男坊も、定期的に商人として訪れる度大きくなっていく過程をこの目で見ているのだ。


「いえ、そうではなく。あのアルファンと言う少年は子供とは思えないほど大人びていませんか?」


「……」


 カミルはただ黙って肯定も否定もしなかった。いや、否定出来る材料が無かったと言うべきか。


「だったら何だと言うのだ」


 やはり彼女にも領主の館で待機してもらうべきだったか。

 彼女は自分がアルファンを探している時に自分に付いてくると頑なに言って引き下がらなかった為、これから見聞きした事は他言無用と念を押していたはずなのだが。


「……え? いや、違いますよっ? 私はただ、あんな少年を見たことがなかったのでどうしても気になっただけで」


「……」


 上から見下ろされる冷たい視線に気付いたアリッサは、並んで歩いている雇い主に慌てて否定する。

 だが口では何とでも言えるのだ。アリッサに本当に他意はない事など証明しようがない。


「ん〜、参ったなぁ……」


 頬をぽりぽりと掻き、余計な事を言ってしまったばかりに雇い主にすっかり不信感を持たれてしまったと困り顔になる。

 アリッサにとって、この雇い主との付き合いは年月から言えばそう浅くない。

 彼が商人として独立した当初からの付き合いだ。

 しかも近年は商売が軌道に乗って来たらしく、仕事があぶれ易い冒険者稼業にとって定期的に護衛として自身を指名してくれる彼は有難い存在であった。

 つまるところ、こんな事で仕事を失いたくはなかったのだ。


「……」


「ッ、カミル殿! 私は、この村や領主様一家に何かをしようなどと大それた事は考えておりません!」


 そんな自身を放って、再び、ザリッと音を立てて歩き出したカミルに置いて行かれそうになり、慌てたアリッサは前に回り込んで必死に引き留めた。

 しかし、彼の顔には相変わらず表情が浮かんでいない。


「本当です! わ、私は昔から少々……いや、かなり人の噂を集める事が好きで、十代の頃はあちこちかなりフラフラと街から町へ、村々へと歩き回っていたのです! それは、カミル殿もご存知でしょう?」


「…………ああ」


 カミルは確かに、その覚えがあった。

 自身が商人として独立したての頃、アリッサと出会い、売り込まれ、押し切られるままに護衛依頼を指名したのだ。


「確か『私はどこに行っても少々顔がきくから』と言って、私に売り込みに来たのだったな」


 カミルが漸く足を止めると、アリッサはほっと一息吐く。


「そうです。 どうやら私は昔から変わり者のようで、生まれ育った街で収集出来る程度の噂話では直ぐに満足いかなくなりました。 成人後は、家族の反対を押し切って半ば家出状態で街を飛び出し、その日暮らしの冒険者となりました。 その中でも、趣味と実益を兼ねた仕事にありつける護衛依頼が私にとって一番だったのです」


「それで私に売り込みに来たと?」


 わかるような、わからないような。

 彼女を完全に信じたわけではないが、だがそれなら当時独立したばかりの自分ではなく、もっと大店の商人に売り込めばよかったのではないかと思う。

 現に、軌道に乗るまで自分が商人として続けて来れたのは行く先々で彼女のコネクションに助けられたのが大きい。だからこそ先程の同行を許したし、護衛依頼は彼女を一番に指名し続けたのだから。


「……どんなに大きな店でも、潰えてしまう可能性は0ではありません。 なら、自分の目で見て確かめた、将来性のある商人の間近で、成功するストーリーを見てみたいと思うのは当然の事ではありませんか?」


 彼女は自分の考えを見透かしたように、悪戯まじりに微笑んだ。


「成程。 だが、その意見は一般的ではないので、他には通用しない事を覚えておきなさい」


「存じております」


 雇い主と護衛。付き合いは永くとも、浅くも深くもない奇妙な関係性である。

 昔から人と出逢っては別れを繰り返していた彼女だが、そんな付き合い方も存外悪くない心地がした。


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