第一話 あかつきのひかりに B-2 (2)
B-2 (2)
赤みがかった猫っ毛。ショートヘア。
胡桃のような眼に、スクリーンの光が映っている。
瞬きをする瞼に、睫毛の一本一本が見えた。
喋った時に、明らかに動いた薄桃色の唇。
小さな手は、スカートの皺を伸ばそうとするかのように裾のあたりを撫でている。
「すげえ。精巧。どーゆーギミックだ?」
「え。あ。まっ――」
掴んで持ち上げると、手の中で人形が身をよじった。
「あの。苦しいです」
「圧力センサーがついてんのか。どこに――」
「え? え? えぇ――」
「なにやってんのよ。コウ」
凍てついた声が響いた。振り返ると、青い眼が氷よりも冷ややかだった。
「ミツルギ」
「まさか。人形のスカートめくりが趣味だとは思わなかったわ」
「誤解だ。これは純粋に機械工学的興味からであってなあ――」
「ふうん」
「信じろ。いや。信じてください」
「いいわ。とりあえずあたしに寄こして。絵的にやだから」
「へいへい。仰せのままに」
「……あたたかいのね。生きてるみたい」
「リアルな感触だろ。まあ。あたたかいのはおれが握っていたからだと思うが」
「暑いですぅ。喉が渇きました。何か飲ませてくれませんか」
「喋るの? しかも。喉が渇くって」
「優秀な論理システムだな。あたたかい→暑い→喉が渇く――って繋げたんだろうな」
「飲むって言ってるけど?」
「真似ごとだろ。乗ってやろうぜ。――何が飲みたい?」
「そのピンクのが欲しいです」
人形の指が、ティーサーバーのひとつを指差した。
「カラー解像レンズ搭載は普通だとしても、認識処理にタイムラグが無いのは凄いな」
テーブルの上に紙コップを置いた。ミツルギがその前に人形を坐らせる。
「で。どうする? 貌を突っ込むか?」
「わたしの口許でコップを傾けてくれますか」
「こうか?」
「わぁ。炭酸、しゅわしゅわ~――くしゅんっ」
「わっ」
手が滑った。傾けていたコップは当然の帰結として、中身を人形に向けてぶちまけた。
ころころと紙コップが転がる。
「なにやってんのよ。コウ」
「ふえぇ。びたびたですぅ」
「わりぃ。って人形になに謝ってんだ。くしゃみするとは思わんだろ」
「とにかく。あんたはテーブルを拭いて。この子はあたしが拭くから」
「へいへい」
「服は洗って乾かすとして……。―― ! 」
「ミツルギ?」
「コウはこっちを見ちゃだめ」
「は? なんで?」
「いいから。――なんでこんなリアルに。これって。犯罪じゃないの?」
「何をしている」
低い声が響いた。




