第一話 あかつきのひかりに B-2 (1)
B-2 (1)
休憩室の照明は落とされていたが。
壁のひとつは映写モードになっていた。
海の映像が、床や天井に青い光を揺らめかせている。
サイレントの海中を。巨大なマンタが優雅に浮遊している。
時おり響く保冷庫のモーター音。
空調は効いている。
点在するカフェテーブルや椅子。衝立て。リクライニングチェア。ソファ。
そのひとつ。奥の方に置かれた三人掛けのソファに。
男がひとり。寝ていた。
肘掛に頭を乗せ、身体を横にしている。腕は胸の前で組んでいる。
両足は反対側の肘掛をはみ出していた。
立てば、180センチを余裕で超えるだろう。
熟睡しているのか。近づいても反応しない。
ストレートの黒髪。彫りの深い貌。十八、九だろうか。
肩幅は広いが、身体つきは細身だ。
ストライプ入りの黒いシャツに黒のスーツ。黒い靴。
眼の下に影があった。
スクリーンの青い光に照らされているせいか、貌色が悪く見える。
起こしてまで話を聞く――という気は失せた。
(出直すか)
男のソファに背を向けようとして、
「ひゃあ」
(ひゃあ?)
小さな声に足を止めた。
「何だ? 今の声――」
「下ですぅ」
「下? ――は? なっ?」
「気をつけてくださいね」
にこり――と笑ったのは。
体長30センチ足らずの。
十五、六歳に見える――
少女の――
人形だった。