第ニ話 神ひかりあれと B-3(1)
B-3(1)
ぎゃああああああ――
磨り潰したような鳥の声が響いた。
壁に貼られた無数の写真の中で、カンシタの撮ったという鳥の写真が動いていた。
幾つもの眼がぎょろりと動き。
幾つもの嘴が限界まで開いた。
羽毛が散乱する。
写真から脱け出して実体化した無数の鳥が。
ばさばさと空気を叩き、旋回を始めたのだ。
写真部の部室。旧視聴覚準備室。
鳥の群れが旋回できるようなスペースがあるはずはない。なのに。
鳥の群れは対数螺旋を描きながら、四方に広がっていく。
カンシタの背後。
板で閉ざされた窓の向こう側に、見えるはずのない現実の空が視界に入った。
逆さまになった巨大な山が浮かんでいる。
――窓の向こうには本物の世界が広がっているんだ。
ぐらり、と現実が歪むような感覚。
写真が現実と化せば、現実は――どうなる。
背中に触れているミツルギの手。
重心を移動し、背中でミツルギを突き飛ばした。
室内はパネルのビル群のようにモノトーンに沈み、どこに何があるのかわからない状態だったが、背後は入口だったはずだ。
ドアを閉めた覚えは無い。
記憶の通りに開いたままのドアに手が触れた。
後ろ手に閉める。
「コウ――っ」
ドアの外から、ミツルギがドアを叩いてくる。
「ジンに知らせろ」
背中でドアを押さえて叫んだ。
「ジンさん? なに。助けが欲しいの? ならあたしが助けてあげるわ。ここを開けて」
ミツルギの言葉に口許を緩める。
この状況で、助けてあげる――と言える女はそうはいない。
「おれはいい。学校と生徒を護るように言ってくれ」
「――」
ミツルギが口を閉ざした。生徒を放ってはおけないことはミツルギにもわかっている。
「頼む」
「……すぐ戻ってくる。チャンネル、オープンにしててよ」
ミツルギの気配が遠ざかる。
カンシタに眼を向けた。足下に立てかけたパネルに手をかけて、首を斜めに傾けている。
人形のように虚ろな眼は、意識があるのかどうかわからない。
しかし。立ってはいる。
「カンシタ――」
名前を呼んだ。
きっちりとボタンが留められた学生服。その上に乗った男にしては線の細い貌。
もともと白い貌はさらに血の気を失くし、パネルの中の雪肌のように青白い。
ぴく、と瞼が動き。
白目と化していた眼が、鳥の眼のように動いた。