表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

第ニ話  神ひかりあれと B-3(1)

 

 B-3(1)


 ぎゃああああああ――

 磨り潰したような鳥の声が響いた。

 壁に貼られた無数の写真の中で、カンシタの撮ったという鳥の写真が動いていた。

 幾つもの眼がぎょろりと動き。

 幾つもの嘴が限界まで開いた。

 羽毛が散乱する。

 写真から脱け出して実体化した無数の鳥が。

 ばさばさと空気を叩き、旋回を始めたのだ。

 写真部の部室。旧視聴覚準備室。

 鳥の群れが旋回できるようなスペースがあるはずはない。なのに。

 鳥の群れは対数螺旋を描きながら、四方に広がっていく。

 カンシタの背後。

 板で閉ざされた窓の向こう側に、見えるはずのない現実の空が視界に入った。

 逆さまになった巨大な山が浮かんでいる。


 ――窓の向こうには本物の世界が広がっているんだ。


 ぐらり、と現実が歪むような感覚。


 写真が現実と化せば、現実は――どうなる。


 背中に触れているミツルギの手。

 重心を移動し、背中でミツルギを突き飛ばした。

 室内はパネルのビル群のようにモノトーンに沈み、どこに何があるのかわからない状態だったが、背後は入口だったはずだ。

 ドアを閉めた覚えは無い。

 記憶の通りに開いたままのドアに手が触れた。

 後ろ手に閉める。

「コウ――っ」

 ドアの外から、ミツルギがドアを叩いてくる。

「ジンに知らせろ」

 背中でドアを押さえて叫んだ。

「ジンさん? なに。助けが欲しいの? ならあたしが助けてあげるわ。ここを開けて」

 ミツルギの言葉に口許を緩める。

 この状況で、助けてあげる――と言える女はそうはいない。

「おれはいい。学校と生徒を護るように言ってくれ」

「――」

 ミツルギが口を閉ざした。生徒を放ってはおけないことはミツルギにもわかっている。

「頼む」

「……すぐ戻ってくる。チャンネル、オープンにしててよ」

 ミツルギの気配が遠ざかる。

 カンシタに眼を向けた。足下に立てかけたパネルに手をかけて、首を斜めに傾けている。

 人形のように虚ろな眼は、意識があるのかどうかわからない。

 しかし。立ってはいる。

「カンシタ――」

 名前を呼んだ。

 きっちりとボタンが留められた学生服。その上に乗った男にしては線の細い貌。

 もともと白い貌はさらに血の気を失くし、パネルの中の雪肌のように青白い。

 ぴく、と瞼が動き。

 白目と化していた眼が、鳥の眼のように動いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ