第ニ話 神ひかりあれと B-1 (2)
B-1 (2)
湾曲した二つの建物が向かい合わせに建っている。
内側に円型の中庭。中庭の中央には、噴水を有した人工池。
その池に、月が映っている。
中天の月の位置が、ちょうど中庭の上空に来ていた。
月を囲むように雲が渦を巻いている。
雲の中に光が浸み込み、月の光まで渦を巻いているようだ。
右手側に中庭。左手側に部屋のドアが続く。
ドアのひとつをノックした。
返事は無い。
インターホンも押したが、同様だった。
「おい。ジン。もう寝たのか」
レバーハンドルに手をかけると、下側に回転した。
「鍵をかけてないのか。――入るぞ」
開けて――
絶句した。
部屋が存在しなかった。
漆黒の闇が。
視界を塞ぐ。
明かりが消えている――というレベルではない。
深淵のように。
虚無のように。
何も存在しない――
天井も床も壁も。
開いたはずのドアも無く。
振り返れば、先ほどまで眼にしていた中庭も無かった。
(なっ――)
出そうとした声が出なかった。
喉に手をやろうとして、手の感触が無いことに気がついた。
やばい。
何が起きているかわからない。ただ。
本能が、最大級の危険を察知した。
足は何を踏んでいる――?
足の感覚が無い。身体の感覚も。
やばい。やばい。やばい。
存在が――
眼の端に光が見えた。
その瞬間、眼を意識した。
肺が空気を吸い、吐き出した。鼓動を感じる。足が、光に向かって踏み出した。
光の中にアンリがいた。
胎児のように丸くなっている。
闇に浮かんでいるような気がしたが、アンリの下にベッドが見えた。
ベッド脇のスタンドが、アンリを照らしていた。
月の光よりも淡い光が、部屋の輪郭を浮かび上がらせている。
黒檀のような壁と床。壁際に置かれたリビングボード。入口のドア。オート機構で閉じている。トイレのドア。シャワールームのドア。
「何の用だ」
低い声に視線を戻した。
ひとり掛けのソファにジンが坐っていた。
黒塗りの眼。深淵のような。虚無のような――。
直前の虚無を否でも連想する。
「今のは――幻覚か」
「……」
ジンは答えない。
虚無を見るような眼だった。




