第ニ話 神ひかりあれと B-1 (1)
B-1 (1)
――このような写真は本来有り得ない。
――なんで? 綺麗に撮れてるぜ。
――綺麗過ぎる。上空に浮かぶ蜃気楼までの距離は100や200じゃないはずだ。望遠でもぼやける距離なのに。これは広角で焦点が合った。
――あ~。よくわかんねえんだが。
――普通じゃないってことだよ。そもそも蜃気楼の原理からして、有り得ない。
――原理知らねえんだが。
――小学校の理科で習わなかった?
――小学校は……。
――え?
――いや。そんなの覚えてねえよ。
――簡単に言えば、光の屈折現象なんだけど。物体の虚像がそのまま、あるいは反転して見えたりする。
――それ。小学校か?
――中学だったかな。どちらにせよ。ビルの上空にビルが浮かんで見えるというならまだしも、全く別の物体が現れるなんてことは絶対に無い。これをどこかにUPしたら、合成だと言われるだろうね。
まあ、UPする気はないけどね――とカンシタは笑った。
「普通じゃ撮れない写真」
天井を見つめながら呟いた。
白い壁。白い天井。
殺風景な部屋に、ベッドとスタンド。テーブルだけが置かれている。
脳裏に浮かぶのは、カンシタが見せてくれた画像だった。
蜃気楼にしてはあまりにも鮮やかな画像は、言われてみれば、確かに不自然であった。
そもそも、あれはどこの風景だ――
ビルの後ろに山があれば、まだ考えられなくもない――とカンシタが言い、一緒に地図を検索したが、地平線までの距離の2倍まで範囲を広げても、それらしいものは見つからなかった。
現実の風景でないなら。
考えられるのは。
『ロゴス』――か。
ベッドの上で身体を起こした。
――ああ。そう言えば。ドローンが飛んでいたよ。
――ドローンが?
――蜂みたいなやつ。誰が飛ばしたものかわからないけど。たくさん。
――……
――あのタイプはカメラ搭載型だから、他にもあれを撮った人がいるんじゃないかな。
「LEMU――」
《なんでしょう。コウ・カミクラ》
Logos Environmental erosion Monitoring Unitがタイムラグ無しに反応する。
「今朝――」
ドローンを飛ばしたか――と言いかけて、口を閉ざした。
監視室の目的は『ロゴス』よりも『ロゴス』の具現者だ。
カンシタの撮った蜃気楼が『ロゴス』であったのなら、今頃監視室は具現者を探しているに違いない。
下手に訊けば、カンシタのことを探られる。
『ロゴス』の近くにいたというだけでも疑われるだろう。
いや。すでに。カンシタの姿が撮られていたら。
監視対象のリストに名前が載った可能性もある。
《どうしました。コウ?》
「いや。なんでもない」
耳から端末を抜いた。
視線を感じて、天井に眼を向けた。
監視カメラが焦点を合わせる気配。
自分も監視対象だ。
学校にいる間は、端末からの位置情報と『ロゴス』の反応を監視される。
盗聴まではされていないはずだが。
されていたとしたら。
自分は今日何を話した。監視室がカンシタに眼をつけるような情報を口にしたか。
ち、と舌を鳴らす。
したかもしれない。
少なくとも、カンシタは『蜃気楼』のことを口にしていた。
(どうする?)
ミツルギ――に相談することはできない。
同じく監視対象だ。
――おれを監視することは許さない。
(ジン――)
黒塗りの眼が脳裏に浮かんだ。