はないちもんめ
走っていた。救いを求めて。反吐と油と香水と下卑た笑いに包まれた路地を、ボロを纏って、走っていた。伸ばした手は誰からも掴んではもらえなかった。それでも割れた爪を剥き出しにして、走るしかなかった。〝買って〟もらえなきゃ、ご飯が食べられない。死んでしまう。
「よお、おめぇ、洗えば綺麗になるんじゃねぇのか?」
やっと手を掴んでくれたその人は、金色に輝く頭に、指や耳たぶ、首回りに、宝石をいっぱい飾り付けた王様だった。
「おめぇ、いくつだ?」
「……十六」
「問題ねぇ。昔はおめぇ、十三やそこらで嫁に行ってたんだ。もっと若いのだっていたって話だ。おめぇは十分〝商品〟になるよ」
嬉しかった。もう放り出されてから一週間近くお風呂にも入っていない。臭うわたしを、ガリガリに痩せてあばら骨の浮いたわたしを、商品になるって。
「付いて来な。まずはキレイにしてやるよ」
わたしは彼に言われるままその後を付いて行った。根城にしていたこのネオン街の、嘘くさいピカピカを、本物の、希望の灯だと、初めて信じられた。
ショーウィンドウに並ぶ、いい服を着たマネキンたちが、笑顔でわたしを見送っていた。わたしはとてもうれしかった。この人と行く先に、ハッピーエンドがあるんだって、そう確信した。
「ところでおめぇ、名前は?」
「アキコ」
「凡庸だなそりゃ。今日からマリナにしよう」
マリナ。わたしの新しい名前。幸せになるための名前。
「うん」
マリナ、行ってらっしゃい。マリナ、無理はしないようにね。マリナ、ちゃんと言うこと聞くんだよ。マリナ、お幸せに。
マネキンたちの囃し立てる声。うん。大丈夫。ちゃんと、いい子にするから。ちゃんと、幸せになるから。
さようなら。さようなら、マリナ。
さようなら、マネキンさん。
さようなら―




