ばあちゃん、まいご
「さとるー、おばあちゃんのこと、さがしてきてくれない?」
「またかよぉ」
ランドセルを机に置いて、さあこれから友だちと外であそぶぞぉってときなのに。ママはいっつもぼくに、用事をいいつけるんだ。それも、きょうはよりによって、ばあちゃんさがしかよ。かんべんしてくれよ。
「おねえちゃんにたのんでよ。ぼく、いそがしいんだ」
「おねえちゃん、きょうは塾なのよ」
へへ~んってんだ。おねえちゃんは、ぜ~んぜん上達しない、ピアノのおけいこですかあ~。それじゃあ、しょうがないですねえ~~だ。
ばあちゃん、どこにいっちゃったのかなあ。こまっちゃうなあ。
きのうは、大雨のなか、ハスの葉を傘代わりにして帰ってきたよな。そのまえは、工場の中をてくてくあるいているところを、守衛さんにみつけられて、知り合いの工場長さんの自動車に乗っけられて帰ってきたよな。そのまえは、お墓のおまんじゅうをたべているところを、おしょうさんにみつけられて、電話されて、パパがむかえにいったよな。それから、吉岡商店でおかねを払わずに酢イカをたべちゃったり、線路ぞいの枯れ草でたき火をして電車を止めちゃったり、ぜんぜん関係ない小学校の母親参観に出席したり……。まいるよなあ。
パパにいわせれば、「ほんとー、せわがやける」ばあちゃんだよ。
でも、ばあちゃんは、ボケるまえ、ぼくにいろいろなことをおしえてくれた。戦争中に防空壕に入ってお手玉したこと。うちのまえの道を、りくぐんしょうこうさんが馬に乗って行進したこと。たけやりで、B29をつっつこうとしたこと。パパを背負って、戦火のまちを逃げまわったこと。ほかにも、笑っちゃうこと、泣けちゃうこと、くびをかしげること……、いっぱい、いーっぱい。
でも、ぼくがいちばん知りたかったことは、じいちゃんとの出会い──なれそめっていうのかな──だったんだけど、おしえてくれるまえに、ボケちゃったんだよな。
「ばあちゃ~ん、ばあちゃ~ん」
このあき地かな。
「ばあちゃ~ん、ばあちゃ~ん」
あっ、いた! あんなところに、しゃがんじゃって、なにやってんのかな。
「ばあちゃん、ばあちゃん」
「ああ、ゲンちゃん、みつかっちゃったね」
「ぼくだよ、さとるだよ」
「こんどは、わたしがオニだよ」
「ばあちゃん、ぼくだよ、ぼく。さーとーる。だれだい、ゲンちゃんって?」
「ゲンちゃん、かくれないのかい?」
「ほら、かえるよ」
「かえるのかい? じゃあ、おんぶしておくれよ」
「いいよ。ほら。よいっしょっと」
あ、けっこう重いんだな、ばあちゃんって。
「ゲンちゃん」
だーかーらー。だれだよ、ゲンちゃんって?
あっ、ゲンちゃんって、去年死んだゲンゾウじいちゃんのことだね。
「ゲンちゃん、あしたもあそびましょ」
ばあちゃん。
幼なじみのじいちゃんと、いっしょになれたんだね。
よかったね、ばあちゃん。
「ああ、ゲンちゃんの背中、あったかいよ」




