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決意


焦げた元・煮込み肉は諦めて焼いただけのアルゴルゥグの肉で朝ご飯だ。

今日も一日歩くんだし、しっかり食わないと。

それにしても昨日は危なかった。

いくら混乱してたとはいえ、なんの備えもなく寝てたんだ。

夜行性のモンスターの晩ご飯になっててもおかしくなかったな。

これからは気をつけないと。


そういえば、モンスターも「世界」の可愛い子供なんじゃないかと地味に気になったのだが。

知らないものは知らないわけだし、どこで調べられるのかも分らないので悩んでたらなぜか分ってしまった。

理解しきれなかった情報も一応頭の中にはあるようだ。

必要として理解しようと努力すれば見つけさせる。探索機能っぽいな。

頭の中に図書館でも入ってるようで地味に便利だ。

これがあれば受験であんなに苦労しなくてもすんだのに……。

陸上部の設備が整ってるところに行こうと思ったらなぜか名門校だったんだよなー。

やっと入学したのに今はなぜか見渡す限りの草原の中で朝ご飯だ。

人生って分らない。




で、えーっと。

この世界はかなり豊かだ。

生命力に溢れてるとでも言うのか?

飢饉とか、滅多なことでは起こらない。干ばつとか冷害という意味では、だが。

モンスターに畑を蹂躙されて食べ物がなくなるとかはある。

……切ないな。

この生命力を生まれたときどれくらい持ってるかで寿命なんかは決まるらしい。

だが、生命力だけでは「生きている」だけ。

人が人として生きるには知性と言うか、理性なんかが必要となる。対人関係を理解するとか感情とかそういう諸々も。

それが魂と呼ばれるものらしい。

動物なんかも怯えたり、親子愛を持ってたりするように魂がある。

「世界」が愛してるのは正確にはその魂だという。

対して、モンスターと飛ばれるのは魂を持たない、ただ生きてるだけの生き物だという。

生命力が形になった存在で、繁殖もしない。ただ突然そこに成体として存在する。

理性も何もないが生存本能だけはあるという厄介さ。

「世界」としてもモンスターは困った存在というわけだ。

モンスターを排除するために生命力を減らせば、そのまま人間や動物が飢えるし、新しい命が生まれてこない。

強い生命力を与えて対抗出来る力を、と思ってもモンスターも強化される。

いたちごっこだ。

根本的解決は一回世界をリセットするくらいの覚悟がいるのでそれもやりたくないらしい。

これから生まれてくる命か、今ある命か。ジレンマだよなー。

どっちも愛しすぎて選べない。

愛し子に幸せになって欲しいだけなのに。

それが、「世界」の願い。

叶えたいよな。

こんなに愛されて、さらに願うのは人の幸せ。

それを無碍になんて出来るはずがない。

俺に出来ることなんてたがか知れてるけど、それでも出来る限りのことはしたい。

それをこの世界で俺が生きる理由にしようと決めた。

大それた願いだ、それも分ってる。

でもこの力と知識があれば目の前の人くらいは救えると信じたい。

そのために努力しよう。

与えられた愛に報いるために。






3日歩いて、ようやく草原に変化が見られた。

木の柵で囲まれた広い広い農地。小麦の青々とした穂が一面に広がる様はとても美しい。

これが金色になった風景は収穫の喜びも合わせてもっと美しく見えるんだろうな。

人の生活圏はこうやって生命力を消費しているので比較的モンスターは沸きにくい。

離れたところで沸いたのがやってくることもあるが、数は多くない。

人里から比較的近くに沸くのは弱いものだから木の柵程度でもそれなりに安全は確保出来るようだ。

離れるにしたがって強いものが増えていくわけだが、その辺は周囲のモンスターを食うので遠征してくることはほとんどない。

王都とかのように賑わい、人や食料が多いのに消費される生命力が少ない場所というのが一番危ないが、その分守りも堅くなることでバランスがとれているのだろう。

どちらも、些細な拍子に崩れる安全ではあるが。



たどり着いた村は畑を囲っていた柵よりももう少し立派な柵で覆われ、出入り口には簡易な見張り台と門まで備えていた。

門番はまだ若い青年とやや年配の男か。

これが一般的な村の様子のはずだし、特に警戒されている様子もない。

武器らしい武器がナイフひとつだからな……。

その上重い荷物を担ぐのは嫌なので大半が収納袋の中だ。

あまりに荷物がないと怪しまれるのでかさばって見えるように毛布とか鍋を入れた鞄を背負っているが。

それに比べて二人は槍を持っている。その状態なら俺を恐れるはずもない。むしろあまりに軽装なのであきれ顔だ。

「見かけないやつだな、行商人でもないようだし。タルカ村に何の用だ?」

青年が問いかけてくる。

こう危険の多い世界では用もないのに旅をする人間は少ないだろうな。

モンスターを狩るなら探求者ギルドに入るのが普通だが俺はまだ入ってない。大きな街についたら入ろう。

「一旗揚げようって王都に行ったんだけどなー。通行税が払えなかったんでレイシャードまで行く途中なんだよ。今夜の宿と、食料が欲しい。あと出来たら肉とか買い取って貰えないかと思って」

これで説明がつくはずっ。

ちょっと呆れられたが、納得はして貰えたらしい。

苦笑がちだったが入れて貰えた。普通はそんなに警戒しないんだろうが武器も持たない謎の旅人ってことで怪しまれたらしい。

自然の脅威があるから山賊とか強盗団とかはほとんどいないはずなんだが。

食い詰めた難民には見えないだろうし……。見えないよな?

「宿は一件しかないぞー。そこで肉なんかも買い取ってくれるだろうが、相場より安くなるのは覚悟しろよ?」

「買い取って貰えるだけありがたいよ」

マジで。レイシャードの通行税っていくらだろう。

「運がよかったようだが、まだ旅を続けるんなら武器ももうちっといいのにせんとな」

男性も心配してくれたらしい。

駆け出しにしても残念装備すぎるか。ちょっとへこむ。

「食ってくのが先立ったもんで……」

納得されるのも微妙に悲しいものがあるな、これ。

「何ならここで働くか? 人生堅実が一番だぞ? まじめに働けば可愛い嫁さんもらって食ってく位出来るだろう、若いんだ」

まじめに心配されている。善意が胸を抉るってこのことか。

その日暮らしのフリーターを心配する親戚のおじさんってこんな感じか?

人生の酸いも甘いも噛み分けてそうな人に言われると心が抉られる……。

「若いうちの苦労は実になると思うし、がんばって見るよ。ダメだったらまた来るからそのときは雇ってくれ」

「おう! がんばれや!」

がはは、と笑うおっさん(もうおっさんでいいや)に背を向け、教えてもらった宿へ向かう。

肉は山ほどあるが、相場より安くなるなら全部は売らない方がいいかな?





宿はすぐに分った。

雑貨屋と食堂と酒場と、ついでに部屋も借りれますよ的な宿だ。

兼業でないとやっていけないんだろうな。

恰幅のいいおばちゃんに前金で宿代を払って借りた部屋の中で肉を取り出す。

2キロ分くらいでいいか? これくらいなら荷物の中に入っててもおかしくないサイズだし。

収納袋は便利だがこういうときは不便だな。使わないって選択はあり得ないが。


「おばちゃん、途中で狩ってきた肉があるんだけど、買い取ってくれない?」

どさっと生肉をカウンターにおいたらびびられた。紙かなんかで包んでおくべきだったか?

「アルゴルゥグの肉じゃないか! すごいね、あんた」

どっちかというと、一目で肉の素を見抜くおばちゃんの方がすごくないか?

俺は正直牛肉と豚肉、鶏肉くらいしか判別する自信ないぞ。ラムとかウサギになったらお手上げだ。

鴨と七面鳥と見分ける自信もないね! これっぽっちも威張れないが。

「運がよかったんだよ」

ろくな武器もないのでそうとしか言えない。俺はそれなりにガタイがいいから魔人には見えないだろうし。

「怪我がなくて何よりだよ。そうだねぇ、700ルトでどうだい?」

相場で1000ってとこなんだが……小さい村だし仕方ないか?

「うーん。正直ちょっと安すぎないか? 700なら今日、明日の飯くらいおまけしてくれよ」

食事代くらいだとせいぜい20ルトくらいだが、ないよりマシだろう。

せいぜい食いまくろう。

「ああ。今夜はアルゴルゥグの煮込みにするからね! たくさん食べな」

おっ、美味いって評判の煮込みが食べられるのはありがたい。焦げ肉にして結局食べてないんだよ。楽しみだ。





さて、これで通行税の心配もなくなったことだしレイシャードまでどんどん進もう。

……王都より通行税が高いなんてないよな?


モンスターの名前はフィーリングです。

もし偶然の一致とかがありましたら変更します。

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