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魔法

夜は完全に明けたが、宿を取るには早すぎる時間。

仕方ないので、のんびりと街を見て歩き露天が並びはじめた広場で食い物を物色する。

夕べは食べ損ねたからなー。

貴族様の食事、ってのにもちょっと興味はあったんだが。


威勢のいい掛け声で品物を売るおっちゃんやおばちゃん、にこにこ愛想のいい若い女性。

相場は分らないが、この辺は小銅貨数枚程度で売ってるものが多い。

銅貨一枚で腹一杯食えそうだ。

「そこの兄ちゃん! うちのサンドはうまいぞ! 朝飯にどうだ?」

のぞき込んだ店ではパンに野菜や肉を挟んだ物があった。

種類があるが、どれがうまいかわかんないんだよな。

「んー。ちょうど腹減ってるしな。1個もらおうか。お勧めはどれ?」

こういうときは聞くに限る。味覚が合うとは限らないが。

「これでいいか? 5ルトだ」

勧められたのは一番具が詰まっててでっかいやつ。

力人みたいな力自慢の見るからに大食いそうな相手用っぽい、サイズだ。いくら空腹でも食いきれるか怪しいが。

でも某ファーストフードなら1000円くらい取りそうなのが半額か、安いな。お勧めだけあって美味そうだし。

「じゃ、それで」

「まいど!」

ぽいっと手渡されたサンドと引き替えに銅貨を渡し、釣りをもらう。


はぐはぐと行儀悪くかじりながら飲み物の店を探す。

サンドと違って入れ物を返さなきゃいけないのでそこで飲み食いする方がいい。

すぐ隣にあったあたり互いに協力してるのか?

パンには飲み物がいるよな。

周りを見ると、筋骨隆々とした力人らしい男が次から次へと十個近く食っていた。

やっぱり身体が大きいと、それだけ食べないと持たないんだろうな。

肉体労働者っぽいしなぁ。

うっかり凝視してしまったことに相手も気付いたのだろう。目が合う。

「すみません、美味そうだったもんで、つい」

軽く会釈していうと笑ってくれた。いい人でよかった。実はちょっと怖かったんだが。

「ドムの親父のサンドもうまいが、あっちのリジーばあさんのもなかなかだぞ」

ふむふむ。

「ありがとうございます」

お礼代わりにあげた茶を飲み終わるまでにもいくつか安くて美味い店を教えてくれた。

品名で中身が予想出来ないのが問題だが。

ガドゥさん、ありがとう。



それからは着替えを買ったり日用品を扱ってる店で細々としたものを仕入れておく。

もちろん武器屋とか逃走に必要なものを扱ってそうな店は避けた。

おかげで見つかった様子はない。

このまま無事に過ごせればいいんだが。


今朝会ったガドゥさんの教えてくれた安宿の一室。

日が落ちかけてる時間なのでかなり薄暗い。

ちなみに明かりは有料だ。たいていの人間はつけられるが、無理なら宿の人に頼むという形式らしい。

ここは明かりの魔法からチャレンジしてみよう。

これで使えないとかなったら笑えないのだが……。


以前見た夢の中のように、右手に意識を集中させる。

「………光」

呪文なんて思いつかなかったので、端的な言葉を呟いてイメージする。

それだけであっさり光が灯った。

が、一瞬で消えてしまう。

うーん、イメージの仕方の問題か?

「ライト」

今度はもっと具体的に効果を希望しつつ、がんばって見る。

蛍光灯みたいで、熱くなくて白い光。

そう念じるとあっさり出来た。

イメージが大事というのは確からしい。

蛍光灯なので、消そうと思えば消えるのもポイントか?

紐をつけるのはどうかと持ったので、手を一回叩くと消えるようにしてみた。

夢の中では感じていた、魔法を使ったとき特有の疲れも全くといっていいほど無い。

この分なら魔力量はかなりありそうだ。


早速買ってきた瓶を取り出す。

中に水を入れ、魔法を使う。

髪の色を変えたいんだが、自分の髪の色が変わってるというイメージは難しい。

そこで瓶の中の水をカラーリング剤とイメージして染める気分でやってみようかと。

色は思いつかなかったので、よく見る茶色にしておく。

染め粉など売ってなかったのでそれで十分ごまかせるだろう。

「ムラ無く綺麗に染まる、異世界印の特別製カラーリング剤。色落ちもありません」

瓶を持ってぶつぶつ言ってる姿はかなり怪しいな。

やってる本人も結構恥ずかしい。コマーシャルっぽく言うあまりなぜか敬語になってたし。誰もいなくてよかった。

これで染まらなかったら笑えないが、うまくいったようだ。

茶色く染まった仮定:カラーリング剤を髪につけてみる。

そして気づく。浴室もないのにどうやって洗い落とすんだ?

今更洗い流さなくて良いカラーリング剤に変更は出来ないし……。

しばらく固まってしまたが結局空中に水球を固定してその中に頭を突っ込むという訳の分らない洗髪方法になってしまった。

傍で見るとかなりシュールだよなー。

ここまでやってからカツラを作れば良かったことに気づいたし。ちょっと切なくなってしまった。



でもこの調子でいくとゲームとかで良くある魔法の回復薬、ポーションとか作れそうだよな。

瓶にもう一度水を入れて……傷が治って体力回復すると言うと何色だろう?

緑…何となく薬草っぽいか? でも毒っぽい気もするので毒消しを緑にしよう。

白…悪くないけど傷には効かない気がする。牛乳っぽいし、病気用かな。

赤…なんか活性化されそうな気がする。カプサイシン的に。傷用は赤でいいか。

色を決めて、早速作成開始。

「赤いポーションは体力回復、傷も綺麗に治ります♪」

あ、コマーシャル風(今度は歌バージョン)が癖になったか?

カレーでも作るように歌ってしまってた。

でもこれが一番自己暗示というかイメージしやすいんだよな。

宣伝してる効能と品物ってセットで思い込むからなー。カレーとして宣伝してた物がイチゴ味なんて誰も思わない、そういうものだ。

ちょっと違うか。まぁ、風邪薬として宣伝してたら風邪が治る物だと思うし、風邪薬を飲んで怪我が治るとは思わないよな。

少なくても俺は思わない。この場合、それで十分だ。

じわじわと赤く染まり、全体が赤くなったところで完成。瓶は1個しかなかったので他のは今度試そう。


このポーションの効果を確認したいが、あいにくというか幸いにも怪我はしていない。

わざと怪我をするのは嫌だがいざというときに使えないのでは困る。

覚悟を決めるしかないか?

まぁ、魔法で傷を治せばいいので今試すのが一番安全だが。



………魔法があるのに薬を作る必要がどこにあったのか。

……もう寝よう…。





一晩寝て、気を取り直した。

魔法を使い果たしたときに満身創痍だった場合とかに使えるよな!

使い果たすのか、とか。その状態でポーション飲む元気があるのかとか思ったがその辺は忘れよう!

無理矢理テンションを上げていく。

せっかく作ったのが無駄になるのが嫌だったとか、一人コマーシャルとか恥ずかしいことをやったのが無駄になるのが嫌だったとかいうわけでは決してない。

上がったテンションに任せて、ごくごく軽い傷を左腕につける。

ざっくりやらないと効能がはっきり分らないような気がしたが、徐々に確かめていけばいいか。

もちろん痛覚は消しておくし止血もしておくが。


そしてポーションを飲んだ俺は。そのまま一目散にトイレに駆け込み吐きだしていた。

ま、まずい。そして、辛い。

あれか、赤いからうっかり唐辛子を連想したとかその辺が味に出てるのか?

泣けるほど辛い。こみ上げてくる刺激に涙が止まらない。


かなりの時間トイレを占領しげぼげぼやってると心配した店のおばちゃんがやってきて水をくれた。

優しい人でよかった…。迷惑だっていわれるのかと思ったよ。

胃に優しそうなパン粥っぽい何かを部屋まで運んでくれたのでありがたく食べる。

優しい甘みが荒んだ胃を慰めてくれる。喉も生き返るようだ。

腕の傷はいつの間にか綺麗に消えていたが唐辛子一気飲みの衝撃の方が激しすぎていつ治ったのかも良く分らない。

ポーションはほとんど吐きだしたけど、飲み込んだ少しの量で治ったのだろうか。

そうだとすると結構な重傷でも治せるだけの効果はあると思うが、まずは飲めるレベルにするのが先だよな。

今回は不意打ちですごい味だったから飲めなかったが、今のままでも覚悟を決めれば飲めないってことはないだろう。

けれど美味しくできるならその方がいいに決まってる。

怪我で瀕死の状態だと味のダメージで死ねそうだし。



「赤いポーションは体力回復、どんな傷もあっという間に治ります♪ リンゴの風味で美味しく完成!」

呪文(?)に変更を加えて今度こそ完成。恥ずかしい呪文だが、もう気にしない。

俺が分かりやすく失敗しないというのが一番大事なんだ、うん。

……慣れたらもっと短くしよう。

いろんな失敗の末に美味しく効果抜群のポーションが出来た。

効果の高さは色の濃さに出るようにしてるので売る場合もばっちりだ。

途中で挫折しかけたポーションを作り続けたのは売り物になるかな?ってのが大きい。

何せ治癒魔法ってのは平均的な魔力量ではかすり傷程度しか治せないらしい。

もちろんポーションなんて存在してなかった。

宿のおばちゃん曰く。

「魔力がそこそこ高いからって無茶するね~。発想は面白いけど傷を治す薬なんて作れたら一生遊んで暮らせるよ!」

らしい。

ポーション作成で失敗したといったらポーションとはなにか、から説明することになって、夢物語を語る変人を見るような目で見られた。

慌てて普通の薬の効果を魔法で上げようとしてるのだと説明したので笑われるだけですんだが。


そこでいくつか試行錯誤し、普通の薬の効能を引き上げたものを使いそこから効果だけ抽出された液体を作成。それを瓶に詰めてポーション作成をやってみたところ水から作るより魔力を使わないで作れるようになった。正直水から作っても俺は魔力を消費した気はしないんだが、これなら魔力量の高い人なら作成可能だろう。魔人とかの魔力特化の種族もいることだし。

俺にしか作れないとかなると目立つが、これなら売っても大丈夫だろう。作成方法も売るのが前提だが。


他にもいろいろ作ってみたい物はあるんだが、やっぱり他の街に行ってからだろう。

ポーションもこの街では売れないしなぁ。

そろそろ出発の準備をしようか。


やっとチートらしさが出てきました。


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