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自由

 とうとうセレスの足を治す日が来た。

 彼女の魔力量は多くないので関節ごとに分けて再生していくのも検討していたのだが。

 これまでの研究で関節ごとに分けなくても再生には問題がないことが確認されたので、今日で右足を治してしまう。

 再生後に花茶で魔力回復させて行く予定だ。

 あとは様子を見て、何事もなければ3日後に左足も治す予定。

 リハビリは普通の医者に任せるべきなのかもしれないが、作成者権限で付き添いを許可してもらった。

 何かあったら困るからな。越権行為じゃないはず、うん。

 

 

 

 今日城館に出かけるのは言ってあるので、準備されていた上質な服を着る。

 アリスさんが用意してくれた服は装飾はそれほどないものの、手触りがよく縫い目も細やかでいい品だというのが分るものだった。

 ……今まで見たことがないデザインだけど。いつの間に用意されたんだろう?


 この一ヶ月ちょっとの間にすっかり身の回りのことをやってもらうのに慣れてしまったんだよなー。

 忙しかったのもあるが、俺がやろうとする前に準備万端にしてくれてるのでついつい甘えてしまったのがはじまり。

 食事は前からだが、今では着る服や靴もいつの間にか用意されてる。普段着から外出着までばっちりだ。

 先日は作業部屋まで用意されて、貴金属や宝石、果ては鉱石なんかも一通り揃えてあった。

 もちろん大量に用意してあったわけじゃないが、あの時は本当にびっくりしたよ。

 セレスに贈るためのお守りを作ろうと思ってネックレスとかをいろいろ弄ってたから気を回してくれたらしい。

 花の形にしようと思って小さい宝石を買ってきたりいろいろ悩んでたからなぁ。

 今のところ全滅中だが。

 どうもデザインがうまくいかない。誰かセンスを分けてください。



 そして今乗ってる馬車だが。これもわざわざ屋敷に用意されてしまった。

 自家用車(馬車だけど)ってわけだ。

 病院に出かけて様子を見たり、城館で話し合ったりといろいろ移動しなきゃならないから、あった方が楽なんだけどな。

 でもさすがに馬2頭は維持費も高くつきそうだ。

 執事のクリストファーには一応訴えたのだが、逆に徒歩の道中での危険を訴えられた上に収入から判断すれば全然贅沢じゃないと主張されてそのままになってしまった。

 確かに便利だし。人目をはばからなくていいから、揺れ軽減のためにクッションを山のように持ち込んだんだので居住性もアップしている。

 そして城館に向かうのにもいちいち騎士さん達が迎えに来ることがなくなったので精神的にかなり楽になった。

 御者がサムなのでうっかり寝てしまっても大丈夫だし。

 


 何もかも俺が過ごしやすいように手配してくれるから居心地がよすぎてちょっと困る。

 このままここでずっと暮らしたくなってきた。

 面倒なことに巻き込まれたり、利用されるようなら逃げればいいや、って軽く考えてたのになぁ。

 なによりセレスもいるし。

 彼女の足が完全に治ったら告白するつもりだ。

 治す前だと俺にその来はなくても、足を人質にした脅迫っぽく思われそうだし。

 ちゃんと治してからなら大丈夫だろう。恩を着せて、って気もしたがさすがにそれはどうしようもないし。

 彼女の気持ちを確認してから身分を手に入れるためにがんばることになるが。

 最初にポーションを作ったときにも領主さんは貴族に取り立ててもいいって言ってたんだよな。

 義肢の件も含めれば多分身分は手に入るんじゃないかと思う。

 釣り合うかどうかは疑問だが。

 平民と貴族って身分差よりはマシだと思うしかない。

 追々身分をあげられるようがんばればいいことだ。

 そんなに簡単に身分なんてあげられるものじゃない気もするが。

 クリストファーさん情報によると、恩を売って養子縁組で身分だけ手に入れて分家をたてるとか言う裏技もあると言うし何とかなるだろう。

 いや、何とかして見せよう。

 ………振られなければ。

 なにげにそれが一番問題なんだが、大丈夫だよな?

 




 

「いらっしゃいませ、ハヤト様」


「ああ、こんにちは。体調はどうだ?」


 場所はいつもの病室だが、今日はさすがに緊張する。

 繭を使うのは俺じゃなくてここの医者なんだけどな。

 さすがに医者でもない男に足を見せるのは、ってことで使い方をきっちりみっちり覚えた医者がやることになった。

 俺は責任者として立ち会うだけだ。衝立の向こうに立ってるだけなので意味があるかどうかは謎だが。

 何かあったときにすぐ側にいた方がいいのは確かだろう。

 これまで医者の練習に付き合ってた患者にはなんの問題も出なかったけどな。


「夕べは緊張してなかなか眠れませんでしたけど、大丈夫です」


「そっか。無理しないでくれよ」


 隈とかは出来てないし、大丈夫かな?

 顔色も悪くはない。よくもないけど。


「終わったらアイスクリーム作って来たからさ、一緒に食べよう」


 アイスクリームはセレスが今のところ一番気に入ってるお菓子だ。

 今回のはバニラとストロベリーのマーブルという力作だったりする。

 両方とも好きだから、きっと喜んでくれるだろう。


「ありがとうございます」


 早速治療が始まり、衝立の裏で暇になってしまった。

 向こうも再生するまで暇だろうが、こっちも暇だ。

 護衛の騎士さん達も衝立のこっち側で所在なさげだし。

 この時間は苦手だ。大丈夫だと思ってても心配になるし、他のことをするわけにもいかないので手持ちぶさたになる。

 さすがに骨やら肉やら再生してるわけだから時間短縮ってのは無理だろうしなぁ。


 衝立の向こうは取りあえず落ち着いたみたいで、様子観察っぽい雰囲気だ。

 落ち着いたらなら布団でも掛けてしまえばこうやって衝立の向こうに隔離する必要なんかないと思うのだが、そこまで気が回らないようだ。

 こっちから声を掛けて言うのも考えたが、向かい合っても気まずい時間が過ぎそうなので大人しく待つことにする。

 足一本だと結構時間掛かるんだよなぁ……。




 途中で落ち着いた医師やメイドさんの計らいでお茶を飲んだりして過ごし。

 5時間近く経過してようやく足に変化が出た。

 衝立の裏に追い出されたが、無事に足が再生したようだ。


「お嬢様! 足が、足が………っ」


「これで……旦那様も……浮かばれるでしょう……」


「領主様に報告を!」


「痛みはありますか?」


 泣いてるのはセレスのメイドさんか。

 旦那様ってセレスの父親か? 何があったんだろう…。

 一人冷静な医者が浮いてるが、セレスが泣いてて返事できないみたいだしなぁ。

 大丈夫なんだろうか。


「セレス、足の調子はどうだ? どれくらい動く? 痛みは?」


 どうにか俺の存在を思い出してくれたメイドさんに衝立の裏からでる許可をもらい。

 泣いてるセレスのところへ行く。

 悲しくて泣いてるんじゃないとは思うのだが、足はすっかり掛け物に覆われてて見ることが出来ない。

 あんまり泣き崩れてるので肩を抱くようにしてのぞき込む。


「なあ、どうなんだ? 教えてくれ。もし何か問題があるなら、俺が絶対治すからさ」

 

 俺が作ったものが失敗してて泣かせてたとして。それを俺が治すなんて約束しても滑稽かもしれないが。

 セレスに泣かれるのは辛い。

 大声で泣きわめいて罵るとかだとさっくり見捨てられるのだが、セレスは消え入りそうな雰囲気で静かに静かに泣くから。

 このまま消えてしまいそうな怖さがある。

 その分、笑ってくれると春の日だまりみたいで。

 泣かせたくない、笑っててほしいと心底思う。


「だ、いじょうぶ、です。 足が…うごくの、うれ、しくて」


 やっとそれだけ言って泣きながらだけど、微笑んでくれる。

 そしてそのまま俺の胸に凭れるようにしてしがみついてきた。

 うれし泣きでも俺的には居たたまれないんだが、それでも悲しくて泣いてるわけじゃないなら我慢しよう。


「そっか」


 

 長い髪をゆっくり撫でる。

 緑が掛かった青色の髪。

 日本では、まずあり得ない色だ。せいぜい茶髪程度。金とか赤に染めてるような人とは関わりがなかったし。

 正直に言えば、見慣れない派手な色彩の髪には違和感を感じる。

 それでも俺はこの髪を綺麗だと思う。

 セレスによく似合う、と。

 多分惚れた欲目なんだろうけど。

 ずっと、こうして抱きしめていられるなら。

 そのためならなんでも出来ると。

 そう、思った。








 落ち着いたセレスを駆け込んできたアナスタシアに任せ。

 俺は今、領主さんと対峙してる。


「セレス嬢の足は現在片足だけですが治りました。3日後には左も治す予定です」


「そうか。君には感謝している。望みのものがあったら言ってくれたまえ。可能な限り叶えよう」


 鷹揚に頷き、俺に話を促す。

 多分、俺が何を望むかなんてお見通しなんだろうな。

 最近セレスと二人きりになる機会を与えてたのもそのせいなんだろう。


 身内に取り込んで利用する、って気ならそれに乗らせてもらう。

 この人は俺が使える限り味方でいるだろうから。

 

「では、遠慮なく。……セレス嬢に見合う、身分をください」


 俺の言葉に薄く笑う領主。思いっきり予想内の言葉だったんだろうな。

 手のひらの上で踊らされてる気がするが、仕方ない。


 セレスを口説いて駆け落ち、とかもちょっと考えたのだが。

 彼女を親しい人すべてから引き離すような真似などしたくないし。

 セレスは生活に苦労なんてしたこともないだろう。そんな彼女に逃亡生活をさせたくない。

 情けないが、そもそも駆け落ちに賛同してくれそうにないなーって思ったのは秘密だ。

 そこまで好かれてる自信はない。

 これからだ、これから。


「身分でいいのかね? セレスをくれと言われるかと思っていたのだが」


 それももちろん考えたが、品物のようにくれと言うのは抵抗がある。

 

「彼女に釣り合う人間になって、正面から求婚します」


「そうか」


 くつくつと笑う領主さん。初めて見た。


「ならば、王家に功績をたてた冒険者として紹介しよう。これだけの実績があるのだ、根回しなどなくとも叙勲されるだろうが、その辺は任せたまえ」


「王家、ですか」


 王家で叙勲されたらグルテルグ家に顔を合わせそうなんだが。

 まさか髪の色とかを変えていくわけにも行かないだろう。

 他人のそら似で押し通すにもコンスタンシアに会ってしまえば面倒なことになりそうだ。


「グルテルグ家は私の縁者としての経歴があれば手出しは出来まい」


 俺が敵意を持ってることは分ってるだろうしな。

 レイシャード家の後ろ盾があると思えばちょっかいは掛けられないか?

 厄介ごとは起きそうだが……領主さんも身分もない相手にセレスとの結婚を許すことはないだろう。

 そう思えば、全面的に協力してもらえるこの機会を逃すわけにはいかないか。


「よろしくお願いします」


 なんだかどんどん墓穴を掘ってる気がするが……。

 望んで掘ってるのだ、諦めよう。



 限られた自由しかなくても、利用されてたとしても。

 それでも彼女がいれば幸せだと思えるのだから。

 

セレスの髪の色は浅黄色です。緑味のやや薄い青。

結構派手な色だと思います。



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