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結界

 目が覚めのは、まだ薄暗い時間だった。

 どうも夢見が良くなかったようだ。どんな夢かは覚えてないけど、嫌な気分で目が覚めた。

 二度寝する気にもならないので気を取り直して朝食までに鏡と、出来れば水晶球なんかを作っておこう。

 鏡は一回作ってるので簡単だが、水晶球はどうしようかな。

 いくつもの水晶を結合させ、大きくしていく。

 片手位のサイズになったところで買ってきた水晶がなくなった。

 ちょっと小さいかな?

 結晶の中央あたりで円形に切り出したが、出来た水晶球は直径5センチくらいの可愛らしいサイズだ。

 これにいろいろ字を書くのは難しそうな気がする。

 でもこれくらいのサイズに細かい字で書き込む方が、模様っぽく見えていいかもしれない。

 細かい装飾がされてるように見えれば置いておいても違和感がないだろうし。

 まぁ、あまり見た目に微妙なら紫水晶とかでコーティングして字を隠せばいいだけか。

 一応盗難対策に自爆装置を仕込もうかなー。

 自爆は浪漫だよな!

 とはいっても誤作動とかで爆発されても困るか。

 俺が30日間触らなかったら消滅、くらいかな?

 うっかり放置してて消えた時は諦めて作り直そう。一ヶ月も使わないようなら、なくてもいいくらいだろうし。

 機能は「許可のない者は侵入禁止」「防音強化」「覗き見防止」「攻撃魔法への耐性」「壁の物理的強化」

 これだけあれば大丈夫かな?

 銀を鉛筆状にして水晶に触れた部分が溶けて癒着。字を書けるようにする。

 そうして水晶に細かく書き込んでいく。

 スペース的な問題で球の全体に細々と書くことになったが、何とか書けた。途中から鉛筆状じゃなくて爪楊枝状にしたのが良かったのかもしれない。

 ぱっと見、字を知らなければ銀で装飾されるように見えるだろう。

 読める俺から見ると、なんだか微妙な出来なので紫水晶でコーティングしよう。

 水晶の残りを使って、紫色をイメージしながら球を覆うようにして、完成。

 これに魔力を通せば発光して効果発動。

 魔力が減るにつれて光が弱くなり、消えたら効果消滅。

 途中で効果を切る場合は停止、再起動は再起動と言えば良いだけ。

 これで安心して過ごせるな。

 野宿用にも効果を改造して結界アイテムを作れば一人旅も安心だ。

 当分旅はしないと思うが、一応作っておこう。

 探索者にも売れるだろうし。

 パーティで旅をしてても、夜間の見張りが楽になるのは歓迎されるだろう。

 

 

 野宿用結界アイテムを考えてるうちに朝食が出来たらしくアリスさんが呼びに来た。

 結構早起きしてたようだが、時間がたつのが早いなぁ。

 食堂に行く途中にリリィにポーションを渡してギルドに届けてくれるように頼んでおく。

 食後はマードックさんに繭の実験をしてもらって。

 マリィさんは病状の経過記録をつけてもらうように話してあるからそのままでいいだろう。

 サファトの方はマリィさんの看病をしてるだろうし、ほっといていいかな?

 お菓子を作る時間が出来たら、味見役に呼んでやろう。

 

 ちなみに朝ご飯はオートミールっていうのか?

 どろどろの粥っぽいなにかだった。味も薄味の粥っぽい。

 つまり、美味しくない。

 せめてドライフルーツとかがはいってればグラノーラっぽいとか思えたかもしれないのになぁ。

 いろいろと残念だった。

 




 残念な朝食を終えてマードックさんのところへ。

 繭はうまくできてるかな?

 自分で一回も試してないのは初めてなので少し緊張する。

 はじめに繭の効果と考えられる失敗を説明する。

 俺が考えてるのは再生自体が出来ないのと、繭の魔力が足りなくて指が足りないとか手のひらまでしか再生できないとか、そういう問題だ。あとは再生したけど動かないとか。

 十分以上の量の魔力を込めたつもりだが、俺の主観だからな。全然足りないという可能性は否定できない。

 あと、予想外の展開もあるかも知れないということも説明しておく。

 それでも協力してくれるという意思の確認後、実験を始めることになった。

 

「マードックさん、少しでも異常を感じたら言ってくださいね」

 大丈夫だとは思うが失敗の方向によっては酷いことになる可能性もあるのでちょっと怖い。

 マードックさんの手は手首の部分から失われている。

 傷は手のひらをざっくり切ったもので、それほど大きな傷ではなかったそうだが経過が良くなかったのだろう。

 どんどん化膿して手がつけられなくなり、切断に至ってしまたらしい。

 日本でなら消毒薬や抗生物質、化膿止めといった薬を使って治せたのかも知れない。

 だが、この世界ではちょっとした傷でも命取りになる。

 それをまざまざと思い知らされた。

 ポーションが売れる理由も分った気がする。


 手首の部分に繭を取り付けていく。

 手首+ギブスくらいの量をつけてからそのままでは外れそうなことに気づいたので、シーツを包帯のようにぐるぐると巻いて固定しておく。

 破いてしまったので怒られそうだ。

 マードックさんの目があるから元に戻すのも無理っぽいし。

 あとで謝ろう……。

 しばらく待ったが、マードックさんは繭に穴が空きそうなくらい注視してるだけで痛みなんかの訴えはない。

 手が完成したら繭が割れるはずだが、その気配もないしそろそろ待ちくたびれてきた。

 どれくらい掛かるんだろう、これ?

 狭い室内で男2人固唾をのんでぐるぐる巻きの手を眺めるという微妙な空間ができあがってしまった。

 所在ないというかなんというか。

「なにかかわったことはないですか?」

「いえ、なにも……」

 話を振ってみたが、一言で終わってしまう。

 俺にここでいきなり世間話を切り出すほどのスキルはない。

 かといって、放置してお菓子でも作って来ようってわけにはいかないしなぁ。

 居心地の悪い沈黙のせいで時間がなかなか過ぎないし悪循環だ。

 これ、もし数日かかるとかだったらどうしよう?

 そんなことまで悩みはじめたころ、ようやく動きがあった。

「え? すみません、ハヤト様。魔力が減っていくのですが……」

 あ、ちょっと顔色も悪くなってる。

「大丈夫ですか? 再生した部分の調整に本人の魔力を使うのは説明しましたよね。そのせいだと思うんですが」

 調節用の魔力が足りなかったらどうなるんだろう?

 マードックさんの様子を見る限り大量に消費するわけではないようだが、腕や脚なんかは関節ごとに数回に分けて再生する方がいいかもしれない。

「はい、もう大丈夫です」

「魔力はどれくらい消費しました?」

 人によっては手首からくらいでも数回に分ける方がいいかもしれない。

「1/5くらいでしょうか。すみません、魔力が多い方ではないので……」

 ってことはよほど少ない人じゃない限り関節ごとに再生すれば大丈夫かな。

 魔力が余ってたら続けて再生すればいいし、残存魔力が心配なら次の日にする。

 それで安全に出来そうだ。

 足りなかった場合どうなるかも気になるが、試すわけにはいかないだろうしなぁ。

 

 そして、包帯の隙間からゆっくりと繭が割れていくのが伺えた。

 本人の魔力で最終調整だからな、それが終わったのだろう。

 大体2時間くらいか? 主観では一日くらい掛かった気がするが、昼食もまだだしそれくらいだろう。

 マードックさんが信じられないものを見たような表情で慌てて包帯を剥いで、現れた手に触れている。

「動かせますか?」

 見たところ指は5本揃ってるし産毛や爪まで再現性はばっちりだ。ここまでは問題ないだろう。

「は、はいっ」

 手を確かめて呆然としてたマードックさんだが、声をかけると手を動かそうとがんばってくれた。

 が、どうもぎこちない。

 ゆっくりと閉じて、開く。

 かなり遅い、そして多分力も入ってない。

 動くだけマシだとは思うが状態は良くなさそうだ。

「動きますっ、ああ、俺の、俺の手が………っ!」

 感極まったように手を抱えて泣き出すマードックさん。

 失ってた手が戻ったことを喜んでくれるのは嬉しい。

 嬉しいが、出来れば完璧なものを再生したかった。

 高望みだとは思う。本来なら二度と戻らないものが戻ったのだ。多少不自由だろうが、喜ぶところだろう。

 でも、満足に動かない手では仕事は出来ないだろう。そう思うとどうしても残念に感じてしまう。

「どれくらい動きますか?」

 多少落ち着いたころを見計らって確認してもらう。

 数回握ってたがだんだんと動きは良くなってるようだ。

 長いこと使ってなかったからリハビリが必要とか、そんな感じだろうか。

「動かすにつれて慣れて来ました。魔力は大体8割消費しましたが」

 魔力使ってるのか。

 最終調整って現在進行形か?

 馴染むまでは魔力を消費していくんだろうな。

 魔力が足りないと動かない、と。

 魔力が多ければ一日でリハビリ完了。少なくても数日あれば大丈夫か。

 ちょっと意外だったが、成功して良かった。

「じゃあ、完全に動くようになるまでもう少し滞在してもらえますか? 一晩寝て、明日になればもっと馴染むでしょうし」

「わかりました。あの、もう諦めていたのに……こんな素晴らしい魔法を使って治していただいて、お礼の言葉もありません。この恩はいつか必ずお返しします。ありがとうございます!」

 床につきそうなくらい深々と頭を下げられた。俺の親くらいの年の人にそこまでされると逆に申し訳ない。

「気にしないでください。俺も協力してもらえて助かりましたから」

 ぱたぱたと意味もなく手を振ってしまう。

 どうもこういう場面は落ち着かない。

「何かあったら教えてください」

 それだけ言って部屋を出てきたが、マードックさんは俺を拝みそうな勢いで礼を繰り返してた。

 ちょっと気恥ずかしかったが、成功してよかった。





 昼食を簡単に済ませてから念願のお菓子作りにに挑む。

 とはいってもレシピなんて知らないから魔法頼りだが。

 一応言い訳は考えてある。

 ’遠方から駆け落ちしてきた母親が作ってくれたおやつ’だ。

 俺が小さいときに亡くなってしまったので詳しいことは分らないが、何となくの材料は覚えてるし、味も覚えてる。

 これで作り方も材料も知らないのに完成型は知ってる理由になるだろう。

 旅の途中で食べた、とかいう言い訳も考えたがそれだとどこの料理なのか、って聞かれそうだし。

 母親が遠くから駆け落ちしてきたってことにすれば追跡はまず不可能だろう。

 俺自身は遠方のカールネって半年ほど前にモンスターの襲撃で壊滅した村の生き残りという設定だ。

 カールネの生き残りは多くないし比較的新しい開拓村で、出身も様々な人間が集まって出来てた村のことだ。たまたま知らないだけだと言い張れる。

 ポーションの研究をしてて引きこもりがちだったと言う設定もつけられるし。

 ポーションを長年究したのに傷跡を消す薬なんかはすぐ完成してるのがおかしいが、原型はその頃に作ってあったと言おう。実際、キュアディジーズポーションやキュアポイズンポーションはヒールポーションとほぼ同じ製法だし。

 半年の足取りが追えないのが問題かな。大きな街なら一介の旅人なんて忘れられて当然だが、通過したであろう村に痕跡がないし。

 過去のことは話したくないって押し通すかなー。

 話したくない、思い出したくないと言っておいて、それでも追求されたらカールネの生き残りってことを漏らせばそれ以上追求しにくいだろう。

 まぁ、半年くらいなら金がなかったので野宿を繰り返して移動してたと言えば何とか誤魔化せるかも知れないが。

 ……無理かな?

 嘘を積み重ねるとばれたときに困る。話したくないで通せる限りはそうしよう。




 今から作るのはクッキー。これくらいなら魔法抜きでも作れそうな気がするが、どうも粉とバターの量とかが思い出せないので結局魔法便り。

「これが完成形。小麦粉とバターと砂糖で作れるはずなんだけど。試してみてくれるか?」

 サリューさんに頼んでおく。ちなみに砂糖は例のサトウキビっぽい植物から魔法で精製。

 味の方は俺の記憶通りさくさくしてバターの風味が効いてる。そして当然甘い。

 サリューさんもサファトも夢中で食べてくれた。

「はい。ポテチといい、こんなに美味しいものがあるんですね。がんばりますっ」

 うんうん。クッキーは簡単だって聞いた気もするから完成を楽しみにしてるよ。

 そしてサファト。クッキーかすだらけだ。

 甘党だったのか? 飲み物もなしでかなりの量を食べてる。

 口にあったようで何よりだが。

 取り上げないから、落ち着いて食べろ。

 追加で作ったのを与えておく。

 明日はセレスに会いに行く日だからクッキーも持って行こう。気に入ってくれるといいのだが。





 さて、あとはお守りか。

 怪我をしそうになったら魔力でシールドを作る感じか。

 指先をちょっと切るとかの日常の怪我には反応しない方が便利かな? 家事なんかをしてるときにシールドが出てきたりしたら二次災害が起きそうだし。

 でもどれくらいの怪我をするか判断するのは難しいか。悠長に判断してたら間に合わないとか、思わぬ大怪我になるってこともありそうだし。

 うーん、「害意のある攻撃に対してシールド展開」かな。これだと日常生活上での怪我は防げないか。

 交通事故なんかは少ないと思うが、それでも意外な事故はありそうだしなー。

 本人が危ないと判断したら発動……だめか。気付かなかったらアウトだ。

 いっそ常時展開……いいかもしれないと思ったが、盾が周りを囲んでると|可動型引きこもり≪ヤドカリ≫っぽい。見た目的にアウト。

 仕方ないので本人の判断で発動出来るようにしておく。気付かなかったときのために怪我の治癒もつけておいた。

 本人が気付く前に即死した場合はどうしようもないが……これは今後改良しよう。

 取りあえずこれで暫定バージョンだが完成。

 あとは別に致死ダメージを肩代わりしてくれる宝石とか作れないかな? 宝石じゃなくてただの石でもいいような気もするが間違って捨てたりしたら困るしな。

 でも実験が果てしなく難しそうだが。

 動物実験しかないよなぁ。ちょっと気が進まないが、人間で試すなんてできないし。失敗したときは食用になってもらい、尊い犠牲に感謝しよう。

 また材料含めて調達してこないと。

 

 

 


読んで頂き、ありがとうございます。

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