甲冑
前話の「病院」ですが、指摘を頂いたため
1/30 23時頃、加筆・修正させていただきました。
作中の最後の方になります。
先に読んでくださった方、申し訳ありませんがご確認ください。
けー様、ご指摘ありがとうございました。
すぐに買い物に行こうと思ったのだが、急に人が来て泊まるとなると食事とか部屋で困りそうだったので一端家に戻り、クリストファーさんに説明しておく。
さすがに執事というだけあって、部屋の手配から食事まで全部手配してくれると心強い返事がもらえた。
そのうえ貸し馬車の方も手配して、下男兼庭師のサムさんが夕方に病院まで来てくれることになった。
宿だったらこうはいかないよなー。細かいことに手を取られない分、空いた時間で再生薬を作れってことなんだろうけど、とても助かる。
このまま上げ膳据え膳の生活になれてしまったら宿屋暮らしにはもちろん、一人暮らしなんて出来ないだろうなー。
権力に執着したあの女の気持ちがちょっと理解できてしまった気がする。
あんな風にならないよう気をつけよう。
自力で手に入るものだけでなく、それ以上を求めて人を利用したり傷つけたりするような人間にはなりたくないからな。
市場で秤と分銅、たらいに瓶。鏡の素材に籠。必要なものをどんどん買い込んでいく。
大体の小物は見つかったのだが、ガードマン用の人形で良いものが見つからない。
市松人形的なものがあれば、一番良かったんだけどなー。
動いて襲ってくる市松人形。この恐怖は日本人なら誰でも納得してくれると思う。
たとえ物理的な攻撃力が皆無だとしても、俺は泣いて逃げる自信があるね!
全然威張れないが。
同じ意味でビスクドールとかもいいと思うんだが、残念ながら全然見つからない。
百歩譲って土偶とかもいいかもしれないと思い始めたころ、甲冑をマネキンみたいなのに着せてディスプレイしてる防具屋さんに出会った。
胸当てとか腕当てとか篭手とかパーツで売ってる店は多いのだが、全身揃えて売ってる店を見るのは初めてだ。
セット売りが少ないのは多分部分ごとに消耗が違うからなんだろうな。
頭と胸とか、一番守りたい部分には金をかける人間も多いだろうが、篭手なんかは動きにくくなるって使わない人もいるだろうし。
はじめは珍しいなー、くらいにしか思わなかったのだが。
この甲冑が動いて襲ってきたら、きっとかなり怖いよな。
動く鎧ってゲームとかでは定番だし、武器を持たせて飾っておけるし。
何より人形より飾りやすいよな。
うん、ガードマンはこれにしよう。玄関に一体、部屋に一体、食堂にってどんどん増やしても怪しくないのもいい。
取りあえず一体買って明日にでも配達してもらおう。
ついでに洋館なんかでよく見るような剣の飾りも用意しよう。剣を2本クロスさせて飾ってあるやつ。
装飾性の高いものになるから丈夫さにはかけるだろうが、踊る剣とかちょっと格好いいし。
甲冑と合わせて不意打ちすればそうそう回避できないと思う。
これで警備は万全だな。
買うものを昨日のうちに決めておいて良かった。変更もあったけど、予定があるとだいぶ違う。市場も何度か見て回ってだいぶ目当てのものがどこにあるか、見当が付くようになってきたし。
ただ、困ったのが薬草だ。
毒消しの方は、どんな毒でも中和できるっていう便利な薬はないようだ。
そもそもあったらわざわざポーションにしなくてもいいのだが。
麻痺毒に対応した薬草とか、しびれをとる薬とかいろいろと多彩すぎて困る。
一応代表的なものはあったので、数種類の薬草を混ぜて作ってみようかな?
でも必要なのは毒消しというか「身体に異常を起こす物質の無害化」だよな。
薬草を使ってそれぞれの効能を強化する方向で作ると、対応してない毒は消せないってことになるよなぁ。
魔法でその辺をカバーするわけだが、それならむしろ最初から薬草なしでもいいような気がする。
水から作ればいいんだよなー。
でもそうすると必要な魔力が増えまくって俺以外が作るのがものすごく大変になるし。
一応数種類使って作って、対応してない成分は魔法でカバー。
それが一番魔力を節約できるかな?
うん、その方向で行こう。
そして同じように病気を治すための薬草のほうだが。これがまた種類が多すぎてどうしようもないのだ。
日本の薬局でもそうだよなー。鎮痛剤だけでも頭痛用、腹痛用、歯痛、筋肉痛用。腰痛用とか生理痛用くらいの種類が出てた気がする。
胃薬も食べ過ぎ用に胸焼け用、胃酸の出過ぎに食べ過ぎとかもあったっけ?
とにかく多すぎる……。
試作品は水から作ったが、薬草からはどうやっても出来そうにない。
毒消しのように代表的な薬草を使って作るのも数があまりに多いので無理がある。
やろうと思ったらお伽噺の魔女のようにでっかい鍋でぐつぐつ煮込むことになりそうだ。
一瞬楽しそうだとか思ったが、笑いごとではないのでやめておく。
もう諦めて病気用は水から作るしかないかな。普及しなさそうだが、不治の病以外はこれまで通り療養と薬草でがんばって治してもらおう。
そして難病だけは高価なポーションで治す。……だめか。
そうなるとお金持ちだけは些細な病でもすぐ治せるが貧しい人は死を待つのみってことになりそうだな。
どうするべきか。
取りあえず今出来てる分が効くかどうかだけ確かめて、普及させるための方法はまた考えよう。
うっかり道ばたで考え込んでたので地味に注目の的になってた……。
気を取り直して宝石店で小さな水晶をいっぱい買ってみたり、ノリと勢いで宝石もいくつか買ってしまった。
お守りにする金属板に宝石で字を書けば見た目にも綺麗で贈り物にはよさそうじゃないか。
俺用は普通にドッグタグみたいな見た目で十分だが、女の子にいかにもドッグタグっぽいのはどうかと思うし。
セレスみたいな子にドッグタグは似合わないよな。
ドッグタグが何かって分るのが俺くらいだとしても、それでも気になるものは気になる。
せっかく贈るなら良いものを贈りたいしな。
センスには自信が無いが、それなりにがんばってみよう。
その後は特に何もなく、すでに待ってたサムさんとマリィさん母子と合流し家に帰る。
家ではマードックさんが待っていてくれたのだが、繭も完成してないことだし今日はゆっくり休んでもらうことにする。
マリィさんには先にポーションを飲んでもらうことも考えたのだが、万が一にも容態が急変したりしたら繭の作成が遅れそうなのでやめておく。
来てもらうのが早すぎたかな? とも思ったが、薬を飲む前の状態を記録しててもらえば飲んだあとの改善状況が分かりやすくなるので3日間ほど記録をつけてもらうことにした。
病気状態のまま3日も記録するは長すぎるかとは思ったのだが、病気は外からでは良く分らないからなぁ。
きちんと記録して確実に治ったか判断できるようにしたい。
マリィさんが治ったら、もう数人に協力を要請した方がいいかもしれないな。
その間に他の人でも作れるような方法を考えないと。
とりあえず今夜中に繭を作って、明日一日は繭の効果と調整かな。
明日時間が空いたら、お菓子と結界風味な水晶球を作ろう。
で、明後日セレスに会って。
……繭が完成して足が治れば会えなくなるのか。
一瞬もっと時間をかけて作ろうかとか思ってしまったが……。
治るものを長引かせるなんて酷いことは出来ないよな。
足が治れば、きっと嬉しそうに笑ってくれるだろうし。悲しげに俯かれるのはもう嫌だ。
会えなくても、身体が元通りになって幸せに過ごしてくれるなら……いいよな。
うん、さっさと食事を済ませて繭作りに入ろう。
今夜の食事は平べったいパンとサラダにジャガイモぽいポタージュスープ。それに白身の魚に赤いソースが掛かったものがでた。だが失敗したのか、全体的にもさもさとしてて味が無かった。
マリィさん親子はマリィさんがベッドから動けないので部屋で食べてるし、マードックさんも利き手が使えないのでみっともない食べ方になるからといって部屋で食べてるから、結局また一人で食事だし。
せめて美味しいものが食べたかったなー。
味気ない食事をそうそうに切り上げ、繭を作るために現在水の計量に勤しんでる。
1%弱の塩分を小さな秤で計算するのは思った以上に大変だった。
何せ水を計るのも計量カップがないし。重さで計算するしかないわけだ。
買ってきたカップに入る水の量から塩の量を計算して一杯、二杯を数えつつたらいに注いでいく。
魔法がある世界なのに妙に地道な作業だ。
さすがに生理食塩水は魔法では出来なかったので仕方ないけど。
そんなこんなでたらい一杯の生理食塩水の完成。
がんばった。途中で数が分らなくなってやりなおしたのもいい思い出だ。
思い出したくないけど。
あとは魔力を注ぎながら水をかき混ぜていくだけ。
「異世界特製・魔力による肉体回復。魔力によって記憶の中の四肢を再生! 本人の魔力よって最適化を実行いたします」
別にテレビ通販のファンだったとかじゃないんだけどなー。
でもひとつの商品相手に30分くらい延々と絶賛されるとすごくいい品のような気がしてくるあのアピールはすごいと思う。
だからかな、胡散臭いCM風呪文が一番イメージしやすいのは。
失敗しするよりマシだし、このままでいいか。
数回呪文を繰り返し、たらいの中で白い粘土状の物体が完成した。
最後の方はかなりの重さになったのでかき混ぜるのが大変だったが、これで大丈夫だろう。
明日マードックさんに使ってもらって性能を確認しなきゃな。
さすがに今からってのは迷惑だろうし、俺も疲れた。主に腕。
あとはポーションだけ作って今日は休もう。
おやすみなさい。
ガーディアンには甲冑がいいのではないかという意見を頂きましたので使わせていただきました。
これで人形やぬいぐるみを飾るのが趣味にならないですみます。
ライ様、東雲様、ありがとうございました。