別離
基本的な常識の確認と将来設計を簡単に作っていく。
だが、公には出来ないだろうとはいえ貴族だというグルテルグ家から捜索されるだろうと言うことで、最低限この国から出る必要がある。
国と言っても王都から出てしまえばまず見つからないだろうということだが。
……どんだけ危険なんだ、この世界。
さっきから時々見かける魔改造動物はモンスターらしい。
そんなものが徘徊する世界だから城壁を出ればそこは草原。
さすがに商隊が移動する道くらいはあるが、たった一人を捜し出すのは容易ではない。
それを押して探すほどの権限はないというのがレンの意見だ。
常識の方は長年の夢が幸いし、何とかなりそうだ。
習うより慣れろともいうしな。
田舎から出てきたのでちょっと疎いことがあるとでもすれば十分だろう。
王都を出て、北へ向かう。
普通は一人旅なんて危険なことはしない方がいいのだが、長居出来ない以上は仕方ない。
途中で出会ったモンスターを仕留めてその皮や爪、肉を売れば十分な路銀になるという。
「いや、戦うとか無理だって」
数日分の保存食や簡単な旅装を整える程度はあらかじめレンが隠しておいた金に加え着ているものを古着屋で売れば、仮にも貴族。何とかなるだろうという判断だったが。
王都から出てモンスターとがちバトルというのはかなり無理がある。
こっちは平和な日本でごく普通の高校生やってたわけだし。
一応陸上部、体力だけはそれなりだと思うが。……それも過酷な世界だと、一般人以下かも知れない。みんな鍛えてそうだからなぁ…。
「大丈夫だよ、魔法があるし。兄さんの魔力は軽く限界突破レベルの予定だし」
「はぁ?」
予定? 生まれつき持ってるものなら’予定’って言い方はおかしい。召喚につきものの勇者補正、とかはなさそうだしな。
「そういえば、そもそも俺はこの世界に拒絶されないのか?」
流されてしまってたが重要なことだ。確認しとかないと。
この世界に生まれ育ったレンでさえ俺との繋がりがあるというだけで世界に拒まれ、病弱になってたのだ。
異なる世界に生まれ育ち、世界に違和感を感じる俺だとかなり拒まれまくりそうだ。
その場合虚弱体質どころか即死しかねない。
「知らないの? 人は死んだら世界に還るんだよ? だから、兄さんは世界との繋がりが出来る。結構優遇されると思うよ?」
親が子供を大事にするように。他人より孫が可愛いように。繋がりの強さが優遇に繋がるという。
世界に繋がる以上、世界の力である魔法はかなり使いやすくなるらしい。
一般人なら明確なイメージを作るために長い呪文(自己暗示なのか?)精神統一、触媒を必要とするらしいのだが……。
魔法使いと呼ばれるものなら短い単語で発動させることも出来るというのだから何とも融通の利くものらしい。
死亡フラグ乱立よりは遥かに助かるが、レンの犠牲の上というのが何とも居たたまれない。
本来生まれるはずだった場所から奪われ、両親の愛を受けられず。世界から拒絶され死んでしまった。
かなり、理不尽で救いがない。
そんなことが許されていいはずがないだろう。
「死が覆せないというのならせめてこのまま、一緒にいられないのか?」
それで俺が世界に拒絶されるのだとしても。
レンを一人死なせてその犠牲の上に安楽に生きたくない。
病に苦しむとしても、レンと一緒に生きたい。
16年間、存在さえ知らなかったとはいえ兄弟なのだから。
「……僕だって死にたいわけじゃない。だけど、他にどうしようもないならせめてやっと会えた家族には幸せになって欲しい。それだけだよ」
結局、俺たちは同じように互いに幸せになって欲しいと願ってるだけなんだ。
叶わない願いだとしても。
これ以上言いつのってもレンを余計に苦しませるだけになる。
それが解ってしまったので話を元に戻す。
モンスターとのバトルは善処するとして、簡単な地理や物価等々。
基本的に箱入り状態だったレンが知っていることはとても少なかったが。
可能な限りの情報を聞き。
そして、とうとうレンとの別れが訪れた。
生まれる前に奪われ、会うことが出来たのは一日にも満たない。
しかも生きて会うことが出来なかった。
何一つ助けられず、与えられるばかりで。
今から死者の理に従って消える弟に何一つ出来ないまま。
もう二度と会えない。
かける言葉さえ見つからない。
それなのに、そんな俺に笑いかけるレン。
「行ってらっしゃい、元気でね」
……そうだな。この世界で俺が死ねば、俺もこの世界に還るのだろう。
異世界に引き離されても切れないくらい丈夫な縁があったんだ。
また、今度は普通に双子で生まれることが出来るよな。
「ああ。………行ってくる」
実体もないのに、涙だけ流れるとか。
そういう無駄に忠実な再現はやめて欲しいよな。
笑顔で別れたいじゃないか。
いつか還る日まで、ほんの少し別れるだけなんだから。
短いですが区切りがよかったのでここまでで。
ここまでをプロローグにするべきだったかも知れないと思いましたが
今更でした。