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料理


 黒の風見鶏亭まで荷物を取りに行った帰り道。

 市場でジャガイモや小麦粉、卵など思いつく限りの食材を買っていく。

 ちなみに名前は全然違うのだが、俺の中ではジャガイモはジャガイモなのでついつい翻訳して考えてしまう。

 だから店の料理が名前から理解できないのだが、こればっかりは仕方ないと思う。

 ガトゥーザとか言われるとジャガイモだって分ってても食べるのを躊躇うんだよなー。

 ガトゥーザの串焼きとかって言われて八つ切りで串に刺さってたりすると、得体の知れない虫に見えてきたりするし。

 そんなわけでジャガイモはジャガイモだ。「ジャガイモどこで売ってる?」とか聞けないので買い物はとても面倒だが、見た目が俺の知ってるものと同じなので気長に探し回ってる。

 これで見た目はジャガイモ、味はピーマン。とかだったらそうそうに諦めてただろうけど。

 ……ピーマン嫌いなんだよ。そんな目にあわなくて本当に良かった。


 両手一杯の食材を買い込んでから気付いた。収納袋に入れて帰ったら、驚かれるよな。

 まだ知られたくないし、使うわけにはいかない。

 このまま持って歩くのは結構辛い量なんだが。

 がんばって持って歩くしかないか。

 自業自得とはいえ家までの道のりがとても長かった……。

 



 根菜類の重さに挫けそうになりながらもやっと家に辿り着く。

 正直「家」ってサイズじゃないのだが、自宅を屋敷とか館とか言うのも違和感が付きまとうので無理矢理家ってことにする。

 もっと手頃な1LDK……はないか。せめて普通の一軒家が良かったんだけどなー。

 領主さんともなるとこのサイズが最低レベルなんだろうか。

 下手なものを与えたりしたら自分の名折れになるとか、そういう事情でもあるのかな?

 大は小を兼ねるって言うが、大きすぎて持て余す気がする。

 そもそも玄関から入って良いのか悩むんだよ。俺が貧乏性なせいだけじゃないと思う。無駄に扉が大きくて立派だから普段使いは勝手口なんじゃないか気になるんだ。今度聞いておこう。

 取りあえず今回は玄関から入ることにして、扉というかノッカーっていうのかな? ドアについてる輪っかを叩く。

 意外と大きな音が出て驚いたのは秘密だ。

 そうだよな、インターフォン代わりなんだからそれなりの音量がでないと気付かないか。

 でも奥の方にいたら聞こえないとかありそうだ。

 だからこういうお屋敷には何人も使用人が必要なのかもな。

 ちょっと無駄な気がするけど。


 待つこと数分。聞こえなかったかなーとか悩み出した頃に扉が開いた。

「お帰りなさいませ、ハヤト様」

 執事さん。ええっと、名前は確かクリストファー。

 執事さんなんだからセバスチャンだと思ってたが、そんなわけないか。ちょっと残念だが。

 俺が着てるものよりかなり上質っぽい服をきっちり着こなしてる。

 こんな人に出迎えられて頭を下げられると無性に申し訳なくなるなぁ。

 俺はえらい人間じゃないし、そもそも自分の稼ぎで雇ってるわけでもないし。

 でもやめてくれっていうわけにもいかない。クリストファーさんはそれが仕事なんだ。言われても困るだけだろう。

 お互いに慣れたらもう少し砕けた態度をとってくれるように頼むとしよう。

「ただいま。食材買ってきたんだけど、台所ってどこ?」

「ご自身でわざわざ買ってこられたのですか?」

 驚かれてしまった。

 一応自分の食べるものくらい自分で作れるよ?

「晩飯作るのに足りない材料があったら困るだろ?」

「食事は当面の間サリューが用意いたしますし、買い出しはリリィが行います。ハヤト様にご心労をおかけして申し訳ありません」

 サリューにリリィってメイドさんのことで良いのかな?

 買い出しに行ってくれるのは助かるな。ポーション用の薬草とか瓶とかもついでに頼めるのだろうか。でも距離もそこそこあるし大変か。

「そうか? ありがとう。でも女の子には大変じゃないか? いろいろ必要なものもあるしついでだから買ってくるけど?」

 微妙な表情をされてしまった。普通は買い出しは頼むものなんだろう。

 でも気になるものは気になるんだよ、特に俺はただの居候状態だし。

「店側に配達を頼みますので心配はいりません。ご入り用のものがありましたら、お申し付けください」

 金持ちは自分で買い物には行かないのか。

 リリィさんの買い出しも注文だけしてあとは届けて貰うようだ。

 つまり今日がんばって運んだ努力は無駄な努力だった、と。

 重かったのに……。

 ま、まぁ……今日食べたかったものを今から届けて貰うのは間に合わなかっただろうからいいよな!

 ポテチも食べたいし。


 それにしても屋敷の維持管理は領主さんが受け持つって話だったけど、それ以外にも食材や細かい消耗品なんかにも結構金がかかるよな?

 全員住み込みだって話だったし、彼らの衣食も満たすとなると結構物いりだ。まとまった金額が必要になるだろう。

 当面は手持ちの金で足りそうだが、これからどうするかなー。

 現在の収入源であるポーションは他の人もそのうち売り出すだろう。

 もちろん普及が目的なので売り出してもらわないと困るのだが、売り出されれば収入が減ってしまう。

 今までは一人だから割と気楽だったがこうなってくると真面目に稼がないとやばいよな。

 義肢はもちろん急ぐとして他に売れそうなものを考えないと。

 鏡とかもちょっとした需要はありそうだからいくつか作ってみようか。

 あとはポーションの病気を癒すのと毒消し。この辺を早く形にしたい。

「じゃあ、一応金渡しておくから足りなくなったら言ってくれ。金銭管理はセバ、じゃない。クリストファーさんで良いんだよな?」

 やばいやばい、うっかりセバスチャンって言いそうになった。間違えないようにしないと。

「いえ、旦那様……エクタード様から支給されますので。ご存じありませんでしたか?」

 エクタードって領主さんか。至れり尽くせりだが本当になんでそこまでするんだろう?

 今度あったら聞いてみよう。

「それはありがたいけど、自分の生活費くらいは自分で払うよ。出して貰ってると思うとあれが欲しいとかこれが欲しいとか、わがまま言えないし。俺の稼ぎじゃクリストファーさん達を雇えないから生活費だけ出すって言うのは滑稽かも知れないけど、せめてね」

 領主さんが一番期待してるのは義肢だろうが、他にもいろいろ作りたいからなー。

 いや、もちろん一番優先するのは義肢だけどな。

「……かしこまりました」

 一礼して了解するクリストファーさん。動作がいちいち格好いいのは執事って仕事柄だろうか。

 これがイギリスだったら新聞にアイロンを掛けてくれそうだよな。

 なんかの映画で見たのが印象的で一回生で見てみたかったんだが、こっちには新聞なんてない。残念だ。




 とりあえず食材を台所に運んでサリューさんに託す。サリューさんは鱗のある魚人だ。といっても魚が直立歩行してるとかいうような斬新な姿ではない。

 それはそれでちょっと見てみたかったけど。

 残念ながら普通の人に鱗が少しついてる、と言う程度だ。頬とか手足に数カ所見える程度。服で隠れてる部分は分らないが。

 あとは耳の部分が魚のエラっぽい感じになってる。水中でも短時間は息が出来るというから不思議だ。

 そして料理が得意なので料理人が見つかるまでは彼女が食事を作ってくれるという。

 魚人なのに火を使うのか、とか一瞬思ってしまった。ごめんなさい。


 台所はサイズ的に台所じゃなく厨房って呼ぶべき場所だった。

 土間になってて、竈がでーんと鎮座してる。パン窯や水瓶もある。真ん中にあるテーブルは俺が寝られそうなサイズだ。でも籠に入れられた野菜が何種類も置かれているので作業スペースはそんなに大きくないか。

 壁際にある棚には調味料っぽいものが置いてあり、香辛料は高価だからかあまりない。ハーブとかの香草が中心になってる。

 岩があるのが見えてちょっと驚いたが、あれは岩塩か。黒いから一瞬なんかの呪い(まじない )かと思った。

 物珍しさであちこち見てたが、邪険にせずにこにこしてるあたりサリューさんは優しい人っぽい。

 早速ポテチを作ろう。作り方は簡単だからこれは魔法を使わない。普通に作る方法を覚えてもらっておやつに出してもらえるようにしたいからな。

 クッキーなんかも普通に作る方法を教えたいところではあるんだが、お菓子はさすがに作れない。

 一回作って見せて、試行錯誤して貰うのが良いか。

 さすがに毎回毎回魔法使って作ってると本題の義肢なんかを作る暇がなくなりそうだからな。

 でも実は結構甘党なんだ。たまには甘いものも食べたいんだよ。お菓子も多少普及してくれると良いんだが。




 そろそろ夕食の準備を始めなきゃいけないというサリューさんに頼み込んでポテチ作りの開始だ。

「あとは油でからっと揚げて塩を振るだけ!」

 ジャガイモを薄切りにして水に晒して、拭く。下ごしらえなんてそんなものだから簡単にできる。

「こんなに薄いと食べ応えなんてないと思うんですけど……」

 おやつだからなー。軽くさくさく食べられるのがポイントだと思う。

「いいからいいから」

 一般的な油はザーガンってモンスターの肉からとれるんだが、これが獣から取れるとは信じられないくらい臭いも癖もない。

 肉のほとんどが脂肪なのに見た目は象と水牛の中間っぽい見た目ってのが謎だけど。

 ちなみにキュルボってのはまん丸いスライムのようなモンスターなんだが、素晴らしい硬さを誇ってる。肉も硬く食べられないほどだ。

 でも移動方法はぶよんぶよんっと弾んで転がる。どこにそんな柔軟性があるのかは誰にも分らない。

 こっちから油が取れる方が納得なんだが、世界は不思議に満ちてる。

 いつか見てみたいものだ。


 ザーガン油で揚げられた薄切りジャガイモに細かく砕いた岩塩をかける。

 早速一つ摘んで口に入れる。

 うん。ぱりぱりした食感も味もまさしくポテチ!

「やった!」

 うん、うまいうまい。これでコーラーがあれば完璧なんだが。さすがに魔法なしだと炭酸は作れない。とりあえずはレモン水で我慢しよう。

 俺が夢中で食べてるとサリューさんがじっと見つめていた。

 あ、うっかり独り占めしてたよ。

「ごめんごめん。うまいよ? どうぞ」

 皿をサリューさんの方に押しやるが、なぜかちょっと悩んだあとやっと食べてくれた。

 作り方も、俺が食べてるのも見てるだろうに。怪しいものじゃないってば。

「はじめて食べる食感です。でも、美味しいです」

「癖になるよな。時々無性に食べたくなる」

 ぱりぱり。ぽりぽり。

 あっという間に食べ尽くしてしまった。主に俺が。

 サリューさんも気に入ってくれたみたいではあるのだが、俺の勢いに負けたのかあまり食べてない。

 人に勧めておきながら自分で食べ尽くすとか。ちょっと恥ずかしい。

「時々作ってくれたら嬉しいんだけど、頼めるかな?」

 それでもしっかり頼んでおくが。

 笑って頷いてくれた。いい人だ。



ちょっと短めですが。

長さのばらつきが酷くてごめんなさい。

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