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屋敷

 なぜか現在、美味しいお茶を頂いてたりする。お茶だけだけど。

 どうもお茶菓子の文化はないようだ。そもそも砂糖がないようだけど。でもサトウキビっぽい植物は売ってたんだよ。かじって食べると甘いのでおやつに大人気。俺も何本か収納袋の中に入れてる。甘い物って他には果物しかなかったし、精製して味付けに使うって発想がないようだ。

 女の子なら甘いものは多分好きだろうし、珍しさで受けそうだ。今度は何か甘い物でもお土産にしようかな? もし嫌いでも物珍しさはあるだろうし。

 お菓子とかはさすがに作ったことがないが、材料揃えて魔法を使えば完成しそうな気がするし。材料がなくても出来るような気はするが原材料:魔力だと、なんだか身体に悪いような気がする。得体が知れないと言うか、栄養にならない気がするというか。栄養にならない方が体重を気にする女性にはいいのかも知れないけどな。

 このお茶ならやっぱりクッキーとか合いそうだなー。

 さくさくっとした歯ごたえで甘めのがいい。ちょっと渋みのあるお茶にはよく合うだろう。形は女の子が好きそうな花形がいいかな。

 可愛い女の子2人とお茶なんて役得だよなー。

 セレスもだいぶ打ち解けてくれたのか、よく笑ってくれる。まぁ、傷がなくなったので顔を見られるのを嫌がらなくなっただけかも知れないが。

 彼女はまだベッドからでられないのでお茶も当然ベッドの上で飲むことになる。

 俺たちはすぐ近くにおかれたテーブルで。

 早く一緒のテーブルでお茶を楽しみたい。その時はもっと幸せそうな笑顔が見れるだろう。

 そうなるように、早く義肢の試作品を作らないとなー。

 試作用に塩を買ったところで中断したままだったんだよな。傷跡を消す方に集中しちゃったんで後回しにしてしまった。

 本当はもっといろいろ話をしたいところなんだが。

「あ、そういえば。聞きにくいんだけど……怪我の原因ってなに? 他に傷跡が残ってるとかはあるのか?」

 傷によってと言うか、断面の状態によっては義肢をつけたら痛む可能性がある。それだと魔力で徐々に馴染ませて身体の一部にしていくのは難しいかもしれない。火傷とか皮膚が壊死してそうな傷だったら一回ポーション飲んでもらって完治させた方がいいかもしれないし。

 あいにく傷の状態とか病気に詳しいわけじゃないからな。判断が付かない可能性も高いけど、一応聞いておきたい。

 が、聞いたとたん今まで笑顔だったのがとたんに曇ってしまった。トラウマを刺激してしまったのか!? って、普通両足失って顔に酷い跡が残るような怪我をしたらトラウマか。 聞くんじゃなかった、せっかく和やかな雰囲気だったのに。

 アナスタシアも眉根を寄せて俺を睨んでる。無神経なことを聞くなと、責められてるみたいだ。

 失敗したなぁ。本人に聞かなくてもあとでアナスタシアや騎士にこっそり聞くとかすれば良かった。

「ご、ごめん! 言いにくいよな、話さなくていいから! ほんとごめん!」

 だからその泣きそうな顔をやめてください。泣いてはないんだけど、その一歩手前といった風情は罪悪感が刺激されまくりだ。

「いいえ、大丈夫…です。傷は、ハヤト様が癒してくれましたから……」

 全然大丈夫そうじゃない。俺の罪悪感も限界だ。そしてなぜ様付け。アナスタシアは普通に呼び捨てだったのに。

「傷が残ってるなら残りのパック使ってくれれば、それは大丈夫だと思う。足に義足つけたとき、痛まないか心配になっただけだから原因の方はいいよ。余計なことを聞いてごめん」

 だからそんな風に無理してます!って感じに微笑むのはやめてくれ。

「はい…。ありがとうございます」

 今度の微笑みは穏やかだ。……よかった。

「ねえ。義足ってなんのこと? 治せないから作り物で誤魔化すつもり?」

 アナスタシアの関心はそっちにいったらしい。足は治せないのかと、険しい表情だ。

 友達思いなのはいいけど、もし失敗したらあとが怖そうだな。

「前例がないことだからな。いろいろ試すことになるんだ」

 傷跡を消すくらいならポーションの前例があるからうまく行くだろうと思ったが、再生は当分実験の繰り返しになりそうだし。

 ルイと話してた試作品とか、ちょっと自信はあるけどぬか喜びさせるのは嫌だ。そもそも最初っから実験につきあってもらうって約束だし。

 そういうと、まだかなり険しい表情だったが他に頼るものがないのだろう。黙ってしまった。

「一生消えないであろう傷も消してくださったのですもの、ハヤト様ならきっと治してくれると思います。ハヤト様に無理でしたら、他の誰にも無理でしょうから……そのときは、諦められます」

「俺に出来る限りのことはするよ」

 こうもまっすぐ信頼されると面はゆい。そしてますます失敗できなくなった感が。

 さっきまで足の傷を見せてくれるのか悩んでたのが馬鹿らしくなってくるなー。ここまで信頼してくれてるのだから、傷は見せてくれるだろう。

 俺は最善を尽くす。それだけだ。




 ささやかなお茶会も終わり、次は3日後に会うことを約束した。

 いろいろ試作品を作りたいし、お菓子も出来れば作ってみよう。義肢だけに集中した方がいいのかも知れないが、気分転換は大事だ。

 甘い物は疲れを癒すしな。思い出したら無性に食べたくなって食べないと落ち着かない気分だってのもあるが。

 芋類はあるし塩はちょっと高いが今の財布事情なら余裕で買えるし。まずはポテチを食べていったん落ち着こう。そのあとで試行錯誤していけばいっか。

 お菓子に思いをはせながら騎士の先導で歩いていると、昨日の領主さんの部屋に案内されてた。

 帰るっていったはずなのだが、呼び出されてたらしい。全く気付かなかった。ポテチに夢中になってたせいか?

「セレスティアの傷を治してくれたそうだな。礼を言う、ありがとう」

 さっき傷が消えたとき走ってった騎士さんの報告かな? 相変わらず情報が早いなー。そしてセレスの名前はセレスティアだったのか。セレスは愛称かな?勝手に呼んでしまったが何も言ってこないので良いのだろう、多分。

「いえ。効果がありまして何よりです」

「昨夜は無法者に襲われたそうだが、怪我がなくて何よりだ。もし良ければ今回の報酬代わりにこちらで住居を用意するが」

 どんだけ情報が早いんだ? むしろこれは、監視されてるのか。

 いきなり見たことも聴いたこともないような効果の薬を作る、街に来たばかりの人間。

 ……怪しまないって可能性の方がないか。監視されて当然って気がしてきた。

 仕方ないとはいえ、いい気はしないが……。

 家まで用意してくれるってことは監視強化もあるんだろうけど便利な人材として取り込む気もあるのかな?

 利用されるのも自由を奪われるのも嫌なんだが……あんまり断っても怪しまれるだろうけど、家なんてもらって永住が確定しても困るしなぁ。昨日貴族にって話を速攻で断ったばっかりだから刺激したくなんだけど、仕方ないか。

「いつまでこの街に滞在させて頂くか解りませんので、せっかくのご厚意ですが無駄にしてしまう方が失礼でしょうし遠慮させて頂きます」

 こんな感じでいいのかね? そもそも口答えしてる時点で礼儀に反してるって視線を執事さんから感じるんだけど一応がんばって敬語を使ってるんだ、努力は評価してくれ。

「それなら問題ないな。この街での滞在に使うと良い。不在時の維持管理くらいは任せたまえ」

 相手の方が上手だった。俺なんて足元にも及ばないな。

 がんばって考えた断り文句も速攻で潰された。

「……ありがとうございます」

 こう答えるしか道はないよな?

 宿代が浮いて良かったと思おう。拠点もちょっと欲しかったし。

 こうなったら荷物たっぷりおいてせいぜい有意義に使い潰させてもらおう。

 





 いつもの馬車で案内されたのは立派な屋敷でした。

 ………………。

 どう見ても黒の風見鶏亭くらいのサイズはある。

 左右の家と間違えてないかなーと見回すが、そっちも勝るとも劣らぬ豪華さだったので諦めて正面の屋敷を見る。

 貴族街のある丘の下とはいえまだまだ十分に裕福な者しか住めないあたりだ。

 こんなに立派な家を貰って良いものか。悩んだが、3日後に迎えに来ると言い残して騎士さんはさっさと帰って行ってしまう。

 いや、もうちょっと説明していこうぜ。途方に暮れてる人間をあっさり見放していくな。

 昨日の今日でよくもこんな立派な屋敷を用意したもんだ。

 庭にも荒れてる様子がない。こから見える窓にもちゃんとカーテンが掛かってるし。

 でも一人で住んで掃除とかどうしろって言うんだ? 人を雇うってのが当たり前のサイズに思えるんだが。

 悩みはつきないが、貰ってしまったものだしいつまでも見てるわけにもいかないので、とりあえあず寝室だけでも使えるようにしておこう。

 飲み食いは適当な食堂で済ませれば多少安上がりになるだろうしなー。


 立派な鉄の門をくぐり、屋敷のドアを開ける。

 自分の家になるわけだし、と思ってノックもしなかったのだが。

 ドアを開けた先に人がいてびびった。

「あれ?」

 間違えたのか? 普通にメイドっぽいお仕着せを着た女性が掃除してた。

「どちらさまでしょう」

 ノックもせずに入ってこようとした俺に向ける視線はかなり厳しい。不法侵入だもんな。

「すみません。今日このあたりに家をもらいまして。案内されたんですが間違いだったようです」

 苦情は是非案内した騎士さんにお願いしたい。俺のせいじゃないと思うし。

 深々と頭を下げて、撤退。長居すると不審者として通報されそうだ。すでに遅いかも知れないけど。

「え、家を貰ったって。あの、ハヤト様でしょうか」

 慌てた声で呼び止められた。あれ?



 執事っぽい青年が出てきたり、メイドっぽい女性の一人がはじめて見る鱗付きの人でちょっとテンションが上がったりしつつ説明を受けた。

 どうやらこの屋敷が俺の貰った屋敷であってるらしい。

 執事1名、下男兼庭師1名、メイドさん3名。総勢5名つきで。

 彼らの給金は領主さんが出すそうなので維持管理は任せて良いようだ。

 むしろ家を貰ったというか、領主さんの別荘を借りた状態だな。その方が楽で助かるが。

 こっちのそういう気分まで把握した上だとしたら、用意周到すぎる。

 本格的に囲い込まれてる気がしてならない。

 セレスの治療が完了したら逃げるべきかなー。

 今のところ悪用されるようなものは作ってないし、普及して欲しいものばっかりだから困りはしないが。

 ポーションやパックなんかはこの街の特産品として売りに出してくれても構わないしな。むしろその方が世のため人のためになるから歓迎したいくらいだし。

 その二つのために屋敷まで与えて囲い込もうとするのはちょっと買いかぶりって気もするが。

 俺が他に何を作るかは解らないが、これまでのを鑑みて役に立つって判断したのかも知れないな。

 下手なものを作らないように気をつけよう。武器は絶対禁止だな。元々あんまり作る気はなかったが。

 取りあえず食事の心配もなくなったことだし、宿に置きっぱなしの荷物をとってこよう。

 あとは、レバタさん達にここを教えておかないと。



 ……街に到着して数日で家まで出来てしまった。しかも使用人付き。

 意外すぎて自分でもびっくりだ。

 うまくいきすぎだよな。何かどんでん返しがありそうで怖い。

日間ランキングがなんと3位にはいっていました。

読んでくださった皆様、ありがとうございます。


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