表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

対面

ルイが考えてくれたのは木や金属で普通の義肢を作るという案だった。

中には陶器とか粘土とか、無理やりっぽいものも混ざってたが。

「身体と違いすぎたら馴染みにくいんじゃないか?」

金属とか、アレルギーが出そうで心配だし。

「そういうものですか? 魔力で変質させるなら素材はなんでもいいのでは?」

「作りやすさ重視ならそれでもいいけど。でも変質させるにしても身体に近い方が魔力も少なくていいから楽だろ?」

そのためにヒールポーションも薬草使ってるわけだし。

「そんな法則があるんですか。魔力で何かを変質させるなんてのもポーションで初めて知ったくらいですよ」

そもそもの発想からしてかなり場違いだったのか。だから今までなかったんだろうが。

「アイデアの勝利ってわけだ」

実際は違う世界から来た分、知ってるものや考え方が違ったわけだけど、言うわけにもいかないしな。

ルイ達にはばれても大丈夫かも知れないけど、よそに漏れたら変な目で見るやつもいそうだし。怪しまれたり忌避されたりしたくないもんな。

今まではどうであれ、俺はこの世界の人間になったのだから。



「だからやっぱり水か肉だよな。肉は腐りそうだし、気持ち悪いから却下。水で決定!」

生理食塩水って水に塩混ぜればいいんだよな。確か1%より少し少ないくらいだったはず。砂糖と塩入れたらポカリだっけ?

水は一回沸騰させて殺菌させれば大丈夫なはず。あ、でも魔法で出した水は普通に飲めるんだから殺菌いらずか。便利だな、さすが魔法だ。

「何がだからなのかは解りませんが、水では義肢にならないのでは?」

……液体だからね。凍らせるわけにもいかないし。

でもそもそも義肢ってその人にあったものじゃないとダメだよな。

普通なら成長期とかの間は汎用サイズで無理矢理使うってのもありかも知れないが、今から作る予定なのは将来的に自分の身体の一部になるようにするわけだし。

「魔力込めるときに粘性つけて固めれないかな?」

味もつけられるくらいだしやれば出来ると思う。

イメージ的には水に粉状の魔力を練り込んで混ぜていく感じで。

「どっからそんな奇想天外な発想が来るんですか」

電波な人を見るような目で見られてしまった。

俺からすると固定観念にとらわれてるだけじゃないかと思うんだけどなー。

「じゃあ、塩買ってくるな。何かいるものある?」

「なんで塩がいるのかは解りませんが、市場に行くのでしたら花茶をお願いします」

生理食塩水とか知るわけないか。人間塩がないと生きてけない、汗とか乾くと塩が残るだろってことで納得してもらおう。

ルイがいてくれるとこっちの常識的なことか違う意見が聞けて助かるけど、ちょっと心臓に悪いな。

せっかく仲良くなったが俺が秘密を抱え続ける限りは、どうしようもないのかも知れない。






市場で花茶と岩塩、ついでに果物などを買って宿に戻ると。

揃いの胸当てとお仕着せっぽいサーコートと纏った騎士っぽい人が3人ほどいた。

彼らはルイと話してたのだがどうやら俺を待っていたようだ。

こちらの気付くと一斉に立ち上がってあっという間に囲まれてしまった。

武器を向けるわけでもないし、ルイも平然としてるから悪いことではないのだろうが……。

「ハヤト様でしょうか」

騎士っぽい人に様付けで呼ばれる覚えはないぞ?

レイの件での追っ手でないのは確かっぽいので一安心だが。

「はぁ……」

反応に困るな。何事だろう。

「この度のポーションの件で領主様がお会いしたいとのことです」

身内に怪我人でもいるのか? 権力を笠に買い取ろうにも明日にならないとギルドにも納品されないからなぁ。

作製者から買い取ろうってことか? 午前中に売り出して、昼は回ったとはいえまだ夕方にもなってないのにずいぶん行動の早いお偉いさんだなぁ。

権力があるから特別扱いというのは正直、あんまりいい気はしないが断るのも後々睨まれそうだしここは素直について行くしかないだろう。

「わかりました。ええっと。服とかはこのままでもいいんでしょうか」

「構いません。ご同行願います」

先導されて後ろも固められると連行されてるみたいで微妙だなー。

周りの人にも注目されて悪目立しまくり。変な噂が立たないといいが。

ルイは一緒に来てくれないようなので花茶だけ渡しておく。

花茶って精神を安定させる効果があるハーブティみたいなものなんだが。飲んで1時間くらいの間はリラックスしてればって条件付きとはいえ、寝なくても魔力が少し回復するって素敵効果があるだけに結構高いんだよなー。

今度ちょっと飲んでみよう。なんだか美味しそうだ。


そんなことを考えているうちに広場を抜けたところに用意されていた立派な馬車に乗せられていた。

貴族なんかが住む高級住宅地は東側の丘になってるところにあってその中でも位が高いほど高い場所に住むようになる。

領主ともなると当然一番高いところに住むわけで、歩いてると日が暮れるのでわざわざ用意してくれたらしい。

そこで荷馬車とかじゃなくこんな立派な馬車を用意してくれるのだからよほどポーションが欲しいのかも知れないな。

でも丁寧に扱われて悪い気はしない。これで食事とかでたら最高なんだけどなー。

結局貴族様の食事ってのを見る機会はなかったわけだし。これからもなさそうだし。





連れて行かれたのは立派な城館だった。さすが領主の館。

庭も広くて公園ですか?って聞きたくなるレベルだったし、館の中も床まで美しく磨かれている。汚れた靴で歩くのはかなり勇気がいるな。

空、飛べるように練習しておくべきだったか?

目立ちすぎるだろうから出来ないけどさー。

本当に場違いすぎて困る。その辺の使用人よりみすぼらしい格好だってのが良く分るんだよ。

破れたりつぎはぎがあるってわけじゃないし汚いわけでもないとは思うんだが、布の粗末さがここまで分りやすいものだとは知らなかった。

今は懐に余裕もあるし、早急にもっとマシな服を用意しよう。

別に高級な服を着たいわけではないんだが、今まで一般人として普通に生きてた身としては普通よりみすぼらしい、ってのは結構辛い。

一億総中流とかいう自覚を持つ国民性だ。成金っぽく着飾るのも貧民に見られるのも落ち着かないし、嫌だ。


内心かなり落ち込んできたが先導の騎士さんは平然と進んでいくし、逃げれそうにない。

このまま領主さんに会うのは遠慮したい気分なんだがそういうわけにもいかないだろうしなー。

謁見~とかって大広間にでも通されるのかと思ったが、そうではないらしく。

重厚感溢れる立派な扉の、だが周りのドアの間隔から言って普通サイズの部屋に案内された。

「エクタード様、ポーションの作製者ハヤト殿をお連れしました」

エクタードってのが俺を呼んだ人らしい。領主さんでいいのかな?

見事な青い髪で40代だろうか。若くはないがまだまだ現役っぽい。体格も風貌もいい。

これで有能だっていうんだから天は二物も三物も与えたのだろう。

「ああ。急に呼びたててすまない。楽にしてくれたまえ」

手振りだけで騎士を下がらせてしまう。

あとは執事っぽい雰囲気の人がいるだけだ。緊張しなくてすむので俺としてはありがたい。

「はい。お呼びだそうですが、どのようなご用件でしょうか」

あー。執事さんがぴくってなってる。どうも俺の口の利き方が気に入らないらしい。

これでも精一杯がんばって丁寧に喋ってるのに。

美辞麗句とかは期待しないでくれ、レンなら言えるかも知れないが俺はそんなスキルは持ってない。

幸い領主さんの方は気にしてないみたいだ。最初から期待してないだけかも知れないが。

「君が作ったポーションとか言う薬のおかげで明日をも知れぬ重傷者が立って歩けるようになったと言うではないか。この地を治める者として偉大な薬の作製者に礼をしたい」

言葉の割りにその鋭い視線はなんなんだろうね? 値踏みされてるとしか思えないぞ。

「薬代は頂いていますので」

正直関わり合いにならないでくれるのが一番助かる。

利用されるのは嫌なんだ。最悪この街からも逃亡かもなー。

「欲のないことだ。望むなら功績を称え貴族に取り立ててもいいが」

そんなに簡単に貴族になれるのか? 興味ないけど。あ、食事内容にはちょっと未練があるが。でもそれも厄介ごとになりそうなら即あきらめれる程度だ。

「まだまだ若輩者に過ぎないこの身には過ぎるお言葉です」

舌を噛みそうだ。これで断ってるって通じるか?

「力人でもそれなりに時間がかかるはずの手首の再生を者の数秒で成すほどの薬を作れる人間はそうはいまい」

どこまで調べてるんだろうな、この短時間で。有能だっていうのは掛け値なしに本当の話らしい。

来る街の選択を間違った気がしてきた。繁栄してるような場所じゃなくてもっとごたごたしてそうなところにするべきだったか?

それはそれで厄介ごとに巻き込まれそうだが。

「ギルドで売りに出された薬では力人以外では四肢の再生は叶わないという話だが、人間やその他の種族に効く薬はあるのかね?」

売りに出した時点では力人以外は不明って話だったのに無理って判明してるのか。作成者より情報が早いってどういうことだ。有能すぎるだろう。

「現在開発中です。効果を試すことが出来ないのでなかなか難しいかと思います」

成果を脅して手に入れようとかいうつもりはないようだが、薬が欲しいなら手伝ってくれてもいいんじゃないかな?

その方が早くできるし俺も助かる。

領民の為っていうのももちろんあるのだろうけど、どうも個人的にも再生薬が欲しそうな雰囲気だしな。

この人自身の為でないならやっぱり身内のためなのか?

「遠縁の娘が、事故で両足を失っている。薬の作成に対して私の名で援助しようではないか。期待している」

その娘さんが実験につきあってくれるわけじゃなく、他の平民で実験するように援助してくれるってことか。

それがこの人達の当たり前なのだろうが、リスクは平民に負わせて成果だけ要求するってのはあんまりいい気分じゃないな。

「ありがたい話ですが成功するかも分らない段階の話ですので、援助は遠慮させていただきます。幸いヒーリングポーションのおかげで研究は可能ですから」

だから優先してその娘さんに成果を回すことはしない。

別に助けたくないわけじゃない。義肢がうまくできればそのうち手に入るだろう。

でも、一番最初に手に入れるのは実験につきあってでも四肢を取り戻したいと思うくらい、求めてる人であるべきだろう。

完成してしまえばその娘さんは権力を使ってすぐにでも手に入れるんだし。

俺の気持ちが伝わってしまったのだろう。執事さんはものすごい目で睨んできてる。

だが、領主さんは苦笑いしている。意外な反応だ。

「事故が元で人前に出ることを嫌がるのだよ。だが、君なら治せるかもしれないな。頼めるだろうか」

事情があったらしい。勝手に勘違いして反発してれば執事さんの反応も当然か。ごめんなさい。

うーん、権力者に過剰反応してる気がする。

これまでの人生で関わったお偉いさんって「あの女」くらいだもんな。色眼鏡で見てたのかも知れない。

先入観に捕らわれてたらろくなことにはならないだろう。気をつけないと。

「すみませんでした。治せるかは分りませんが、出来る限り力になりたいと思います」

疑ったお詫びも込めて。娘さんが人前に出たくないっていうなら傷跡が残ってるとかか?

美容液強化バージョンとか作れば綺麗に出来そうだし。





今度は執事さんに案内して貰って移動する。

この執事さんはさっき睨んでた人なのでちょっと怖い。

謝ったんだが、怖い笑顔でスルーされた。

謝ることなんてないっていってくれたんだけどね?

謝っても許さないって二重音声で聞こえた気がした。

何となくこのまま人気のない場所に案内されて闇に葬られそうだなーとか思ったのだが、そんなことはなく。

遠縁の娘さんとやらの病室まで案内してもらえた。

……娘さんが治るまでの命だってことはない、よな?

執事さんは領主様至上主義っぽいからなー。

領主さんが気にしてる娘さんを治したらさっきの無礼は相殺して忘れてくれるのを祈ろう。



病室らしく、白が目に付く部屋に着いた。

窓に掛かるカーテンはレースがたっぷり使われているしベッドは天蓋付き。

どこまでも少女趣味全開の部屋だな。それなのに色がどこまでも白いうえに、微かに残る奇妙な草の匂いが病室っぽさを助長させているけど。

広いベッド少女が横たわってるけど、健康的とはお世辞にも言えないな。

これが遠縁の娘さんなのだろう。

身体のサイズに比べて、掛布の下のふくらみは明らかに短い。

両足を失ってるっていってたが、痛々しいなぁ。

顔の右半分にも無残な火傷の跡が残ってるし。左は普通だから余計にひどく感じてしまう。

顔を見られるのが嫌なのだろうな、泣きそうな顔で俯いてしまった。

これは辛いだろうな、早く治してあげたい。


でも現在めっちゃ睨まれてます。。

ベッドの上の子を庇うみたいな位置でこっちを睨んでるのは見たこともないくらい綺麗な子だ。

艶やかな栗色の髪に翡翠色の瞳。肌は雪のように白いが頬はバラ色で健康的。

俺の乏しい語彙では解説なんて出来ないくらい、本当に綺麗だ。

人形みたいな綺麗さではなくて生きてる人間らしい生気に満ちた綺麗さなのが俺的にポイントだ。

睨まれてるのにまつげの長さに感心してじっくり眺めてしまう。

マッチ棒が乗りそうな長さと濃さって本当にあるんだなー。

3本くらいいけそうな気がする。

「あなたがセレスを治せるって人? 本当なの?」

うわ、声も可愛らしいな。ちょっと高めだけど。

遠縁の娘さんはセレスか。

緑がかかった青色の髪と同じ色の瞳の娘さんだ。

二人とも俺とそう変わらない年に見える。

「やってみないと分らないけど顔の傷を消す薬は明日にでも試作品を作ってくるよ」

足も治してあげたいが、成功するかどうかが変わらないし。出来そうなところからやってみよう。

年頃の娘さんだから顔に傷があるのは辛いだろうし。

「俺は隼人。君は?」

「アナスタシア・レイシャードよ。本当にセレスを治してくれるの?」

いい名前だ。確かどっかの皇女にそんな名前の人がいた気がする。高貴な名前なのか?

都の名前が名字ってことは領主の娘さんっぽいしな。

「きっと。約束するよ」

そういった俺にやっと見せてくれた笑顔は。

花よりも可憐で、愛らしかった。



やっとヒロインの登場です。

生理食塩水の塩分は大体0.9%です。

ポカリスエットも塩と砂糖だけでは、当然ですが作れません。

主人公はあまり詳しくありません。ご了承ください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ