販売
魔人の中でも魔力の多いというルイさんが2日かかるものを1日に10本作れるとばれてしまった。
ギルドで販売を待ってる人もいるから嘘です、なんて言えないしなぁ。
さっきは怪しまれたけど体質の理由なんか知らない、で押し通すしかないか。
人間と魔人なんて体格の違いくらいしかないんだし、ずっと人間だと思ってたけど実は体格のいい魔人なのかもしれない、とかいっておけば大丈夫だろう。
取りあえず明日売り出すためにポーションを作っておこう。
作成の効率的には限界まで魔力を込めた液を水で薄めて使うのがいいようだ。
その方が薬草の消費量も少ないし、抽出に使う魔力も浮いていい感じだ。限界はあるから薬草消費なしってわけにはいかないのが残念だが。
俺の場合は水から作ればいいだけなんだけどな。
ちなみに効果の強さは透明度で判断。
全体が赤く見えるのが最低ラインで、それだと軽傷までは癒せる。ほっといても命に別状ない程度の傷までかな。
次のランクは全体が赤く透明感はあるけど反対側は透けて見えない。これでかなりの重傷までいける。力人だと手首の再生まで可能。腕とか足一本になると不明。
一番効果が強いのは塗りつぶしたような赤色。多分死んでなければ大丈夫なんじゃないかってくらいまでいける。これが限界。
反対側が見えるような見えないような微妙なラインとかだとそれなりの傷まで、って感じに濃さで決まってくるのでこの辺は現物を見て交渉してもらうしかないか?
見慣れないと思ったより効果が強いとか逆に低いとかありそうだが。
透明な瓶が普及してて良かった。陶器とかじゃ騙されたとか問題が多発するところだった。
薬草が1回分で120ルト。王都よりちょっと高いが仕方ないか。
給仕とか店番の日当の平均が50~60ルトで探求者の相場が100~120ルト。
探求者は命の危険があるから高いらしいが、薬作りに命の危険はないし中間の80ルトってところかな。
280ルト…ルイさんの魔力で2日だからもう少し多めに時間を考えないといけないか。
あとかかるのはギルドでの販売の手数料と瓶代くらいだから売値は400ルトでギルドに手数料2割で80ルト、作り手に320ルト。
最低ラインのポーションで400ルトか。効果と即効性から考えれば安いと思う。
次のは最低ランクのが5個とれるから5倍で2000ルトか? 高いな。あ、薬草代も5倍になってるし。でもかかる時間が時間だしなぁ。
重傷で入院する期間とかその間の収入を考えたら2000ルトでも大丈夫か。アルゴルゥグの肉2キロ分と思うと高く感じないし。
一番強いのは正直強すぎて怪我には意味がないんだよな。2番目ので足りなければ2本飲めばいいんだし。腕とか足の再生用としてくらいか?
値段はそのまま5倍。
こういうものの値段なんて供給が増えれば自然に落ちていくだろうし。高騰しすぎなければいい、くらいの気持ちでいこう。
それにしても名前が全部赤ポーションだと分りにくいな。
効果が謎だし。強・普通・弱だと簡単で覚えやすいけどさすがに微妙か?
スペシャルヒールポーション、ノーマルヒールポーション、マイナーヒールポーション。
ありがちだけどわかりやすい。
分かりやすいのが一番だよな。下手に凝って間違ったりしたら恥ずかしいし。
作製者が間違うのはかなり気まずいと思う。
この調子で決めるなら病気用だとキュアデイジーズポーションで解毒はキュアポイズンポーション。うん、色で呼ぶのも分かりやすいけど名前で用途が解る方が便利で良さそうだ。
錠剤の方が味にこだわらなくていいから楽そうだと思ったのだが、魔力を込める対象が思いつかなかったのでそっちは却下。
さすがに石とかは効果があっても飲みたくないし。身体にも悪そうだ。ラムネとかあれば良かったのかも知れないけど。
そっから連想して果物でも試してみた。けど、食べやすかったが普通のと区別が付かないし、時間停止袋に入れない限り腐るので諦めた。効果の強さも見た目で解らないから悩むし。売り物にならない。
結局は水最強か。汎用性に溢れてる。安いしどこにでもあるし。
取りあえず今考えなきゃいけないのはこれくらいか?
正直いろいろ考えすぎて疲れた。とっとと寝てしまおう。
あ、一応部屋に警報装置はつけておこう。
「俺以外がドアや窓を開けるとベルでお知らせ」
イメージは警備会社のアレ。
便利系の呪文は人には聞かせられないものばっかだなー。ルイさんに聞かれないよう気をつけよう。笑われそうだ。
警報が鳴ることもなく無事に朝になった。
ギルドにヒールポーションの販売を頼みに行かなきゃな。
ルイさんは昨日に引き続きポーションに魔力を込めて精製中。今日中にノーマルレベルにはなるだろう、たぶんきっと。
俺が本当に10本用意してたのでかなり問い詰められたが、魔力を込める時間は慣れたら早くなるしなんでそんなに魔力があるかって言われても、生まれつきなんで解らないって押し通しておいた。
かなり不思議そうだが実際魔力は生まれつきのものだから納得するしかないようだった。
常識外れの量だそうだけど、10本くらいなら作っても疲れる気がしないんだよな。さすが世界と繋がってるだけある。
ギルドは建物の外にまで人が溢れる、大盛況だった。
昨日も人は少なくはなかったけど、今日はすごいな。なんかのイベントか、それとも昨日たまたまが少ない日だったのだろうか。
「すごい人だなぁ。いつもこんななのか?」
一緒に来てくれたレバタさんに聞いてみる。ガルドさんはルイさんの護衛に残ってもらった。ヒールポーションの作り方をギルドに流すまでは用心するに越したことはない。作り方を独り占めしたい!って奴に襲われる可能性があるからな。念のためだ。
「いいや。おそらく、ヒールポーションの販売を待ってるんじゃないか?」
「それはないだろ。昨日の食堂の10倍は人がいるし」
そもそも10本って言ったんだ。集まっても買えない。先に並んでる10人を除いて帰るのが普通だろう。
だが、いきなり周りを囲まれてしまう。
俺たちの話が聞こえたのか、それとも昨日の食堂にいたのか?
「頼む! 娘が大怪我で寝込んでるんだ、このままじゃ死ぬかも知れない。助けてくれ! 金貨5枚出す! 俺に売ってくれ!」
「いいや、俺に売ってくれ! キュルボ退治なんだ。その薬があれば死なずにすむかも知れない!」
「俺の息子は歩けないんだ! もう一度歩かしてやりたい。金なら出す!」
口々に訴えられる。
10本くらいじゃあ、全然足りないんだな…。だが今から大量生産するのはどうしようもなく目立つ。
取りあえず混乱を鎮めるために出てきたギルドの職員さんも巻き込んで緊急性の高い人、深刻だが急がない人、仕事に持って行きたいだけの人などに別れてもらう。
嘘が出ないように’娘が大怪我~’とかは確認すると言っておいたので多分大丈夫だろう。
その結果急がないと命に関わるって人は思ったよりは少なく、5人ほどだった。
その人達を優先して薬を売る。値段は昨日決めたとおり。大金を積んででも欲しいって人はいたが、値段は一定にする。
その次は傷が悪化して危ないが一日も待てないという段階ではない人。
この人達の数が多く、30人近くいた。
この人達にはマイナーヒールポーションを売ることにした。少し数が足りないのは自分用の予備があったことにしてこっそり補充しておく。
ノーマルの方を薄めるだけだがその分安いことと、傷が軽くなれば命の危険はなくなるので明日明後日もポーションを売るのでそれを使えばいいと説明した。
マイナーヒールポーション2個で治れば、ノーマル1個より安いというのも説明したので納得してもらえたようだ。
苦しみが長引くのは辛いだろうが、ないものはないのだから無理も言いようがないというのも大きかったようだが。
あとの欠損部位の再生やモンスターの討伐なんかに行くひとは申し訳ないけど待ってもらう。
緊急性の高い人を優先するのはしかたないよな?
納得しない人もいたがレバタさんが睨むと黙っていた。
なにげにすごい人だな、レバタさん。実はかなり有名なのかも知れない。
ついでに作成方法も教えるつもりがあることも説明する。いつまでも作製者が一人では俺が死んだらポーションの販売がなくなる、とか不安になるだろうし。
供給が確定してれば討伐に行かなきゃいけないとしても数日くらいは待てるだろう。
これは一人一人に教えてるときりがないのでギルドの方で教室を開催してもらえることになった。
授業料を取るのでギルドも儲けるつもりらしいけど、情報が公平に行き渡るのはいいことだよな。
俺にも技術提供料として金貨一枚くれた。金貨なんてはじめて見たよ。
ちなみに日本円で言うと100万円。まさに見たこともない大金だ。
こっちでも金貨は大金だからか、特別扱いで小銅貨→銅貨って風に普通の貨幣は小さいのがあるのに金貨にはなく、代わりに大金貨がある。金貨に「小」をつけるのはいやだったのだろうか? 単純に滅多に使わないからって理由かも知れないけど。
あとは力人の手首くらいの欠損は再生するけどもっと大きな部位は不明なこと、人間の欠損は治るかが解らないことはきっちり説明しておく。
クレームつけられたくないしね。
そしてギルドに力人で腕なんかの大きな欠損部位がある人に対して、ポーションの効果判別の手伝いをしてくれるよう依頼を出す。
報酬は腕の再生です、もちろん。浴びるほど飲んでもらうことになるかも知れないけど治るなら問題ないだろう。
治らなかった場合は日当で100ルトということにしておいた。
同時募集で人間で欠損を抱えてる人も出そうかと思ったけどどんなポーションにすればいいのか思いつかなかったのでそっちはまた今度にする。
命がかかってるせいかみんな必死で。
たくさんの人が救えるのは嬉しかったけれど。
本当はポーションだってもっとたくさん作れたし、魔法で直接癒すことも出来る。
でもそれをやらないのは利用されたり自由を奪われたくないからだ。
ポーションを買えない貧しい人や、普及するまでに死んでしまうであろう人がいるのを解っているのに。
全員を救えるほど、俺は立派な人間じゃない。
そんなことは解っていたが、それでも少しだけ、辛かった。
ポーション販売についてしか語ってないような気がします。地味すぎる。
それでもやっとヒロイン登場へ向けて進みました。
次か、その次にはたどり着けそうです。