覚悟
まだ早い時間だったが、食堂から出てそのまま部屋を借りてそこで話すことにする。
部屋は奮発して広めのを借りた。
いろいろ買い込むことになるし、長居しそうだしな。
おかげで4人入っても何とかなった。大男が2人もいるのでかなり狭いけど。
「で、頼みってのは?」
レバタさんがリーダー格なのか? 存在感が薄いとか思ってたよ、ごめん。
「さっきの薬なんだけど、完成したばかりで値段決まってないんだよ。で、値段決めるのに助けが欲しい」
言い値で売れるとは思う。金貨5枚とかでもね。
俺や、俺の大事な人がもし腕なんかを失って、でも金を用意すれば治してやるとかいわれたら可能な限り支払う。
たいていの人はそうだろう。
でもそんな高価な薬は困窮する人には買えない。
甘いとは思うが、助かる人は多い方がいい。
元々俺の力ではないんだ。せめて「世界」の望みを少しでも叶えたい。
生活に困らない程度の収入があればいい。他にもいろいろ作れそうだし、便利品の方で儲けて老後の蓄えにすればいい話だ。
多分それだけでも十分な収入になるだろう。収納鞄とかかなり便利だし。
うん、人の命に直結しそうな部分は良心価格で売ろう。
「ルイさんに作り方を教えるからさ、一日にどれくらい作れるかで手間賃とか決めたいんだよ。一人じゃ、分らないから」
俺がその気になれば数百本作れてしまう。その前提で値段を決めると他の人が赤ポーション造って生活しようと思っても安すぎて生活出来ないから供給がないってことになりかねない。
逆に手間賃をとりすぎても赤ポーションを造れる人は探求者やめてポーションを造る生活になるということになりかねない。
それはそれでモンスターの脅威が増えそうだ。
「教えてもらえるなら是非」
ルイさんは即断で頷いてくれた。買うよりは造る方が安くつくのは当たり前だもんな、断るわけないか。
ガルドさんはなんか目に見えて困ってる。
正直な人なんだろう。俺が簡単に製造方法を教えるとかいったからなー。
自分達の得と俺の損を考えて言い出せないが、黙ってるのも悪いって感じかな?
レバタさんは良く分らない。無口な人だなぁ。
「製造方法は広めるつもりなんで一足早く知れるってのと買わなくてすむってくらいの利点にしかならないけどいいか?」
悪いけど、ルイさん達の得にもならない話なんだ。損にはならないと思うけど。
「作り方を黙ってれば莫大な儲けになるってことくらいは解ってるようだな。なのに教えるのか」
「それなりの金額で誰にでも手に入るように出来れば、余計な恨みを買うこともないし。第一、子供の手足を治すために爪に火を灯すような生活をしています、って人が出そうじゃないか。夢見が悪くなる」
本音混じりに出来るだけヘタレっぽく言い訳してみたら予想以上に呆れた表情をされてしまった。
ここで代わりに俺らが儲けてやるよ!って人じゃないとは思うんだが、どうだろう?
「甘いが…損をするのはおまえさんだからな。好きにすればいい。ルイには作り方を教えるとして、儂らには何をさせたい?」
ここでレバタさん達はついでです、とか言ったら怒られそうだな。さらにあなたも十分甘いと思う、とか思っても言わないでおこう。
「護衛を頼む。ポーションの売り出しが安定するまで金目当てとか現物目当てとかの人で騒がしくなるだろうし」
買い出しにも行かないといけないわけだが、金を持ってると思われたら絡まれそうだ。
「研究馬鹿と思ったらただのお人好しってわけか」
ガルドさんの言い分は正しい。腹は立たないが……。
「歩けない、動けない、そんな不自由を抱えてる人間から搾り取った金で豪遊するくらいならお人好しでいたいね、俺は。金を取る以上全員が救えるわけでもないし、ただの偽善だろうけど、俺の自己満足だとしても、それで薬に手が届く人間が増えるならそれでよくないか?」
熱く語ってもしょうがない。
解ってはいるんだが、スルーできなかった。邪魔をするようなら他の人を探さないといけないしな。
「そういうことでしたら、私は全力で協力しますよ」
……あれ?
「ああ、甘いのもそれだけ覚悟があるなら立派なもんだ」
ガルドさん、肩を叩いてくれてるんでしょうが、その力だと骨が砕けかねないんですが。
「儂らは元々4人組だったんだが。傷が元で仲間を亡くしてな……。苦しむ仲間を見るのがどんなに辛いかは良く分る。おまえさんが金儲けのことだけ考えるような輩でなくてよかったよ」
……その場合どうなってたのかは聞かない方が精神衛生上良さそうだな。
と、とりあえず……。
協力者が出来たようでよかったと思おう。うん、そうしよう。
護衛の件も快く了承してもらったので、ルイさん相手のポーション作成講座開幕だ。
作れたら魔力の消費量や時間で手数料を考えて、原価と足して値段決定か。ルイさんくらいだと一日どれくらい作れるだろう?
「あ、ガルドさん。傷薬結構使うんで買ってきてくれるか? あと、瓶と」
せっかく雇ったので使いまくる。いや、雇ったと言っても報酬はルイさんにポーションを教えるのと相殺扱いなんだけどな。
立ってるものは親でも使えって素敵な言葉が日本にはあったことだし。
教えるのはもちろん薬草から作っていく方式だ。
そのほうがただの水から作るのより魔力の消費が少ない。
もしそっちが簡単に出来るようなら水からも出来るって教えればいいし。
何か言われたら俺は魔人じゃないから魔力の消費量が少ない方がやりやすいんだって誤魔化せるしな。
「まずは薬草を水に漬ける。で、薬草の傷を治す力が水に溶け出す!ってイメージで水を攪拌して。どんどんと溶けて凝縮されていくってイメージ」
まずはこの説明が通じるまでが長かった。
解ってはいるんだけどその通りになれば苦労しないって言うのか?
傷を治す力ってなんだ?って疑問を抱くとそこで詰まるらしい。
薬草って本来は傷を治すんじゃなくて化膿させないようにしたり自己治癒を高める働きがあるとからしい。
「じゃあ、自己治癒を高める力がどんどん強くなるイメージで」って言ったら「どっちですか!」ってさらに混乱してた。
深く考えちゃダメだよな、魔法なんだし。
疑うと発動しなくなるよー。って言ったら怒られたよ……。
でもこの辺は割とすぐに慣れてくれた。
「あ、ここまでで魔力どれくらい使った?」
メモを用意してっと。紙も実は高いんだよなー。1枚で大学ノートだと2~3冊買えそうなくらいで驚いた。羊皮紙じゃないだけよかったと思うけど。
こっちの文字も書けるけど日本語で書いておけば解読不能の暗号状態。便利だ。
「そうですね、1/20くらいでしょうか」
切りよく100を基準値にしてっと。5点消費って感じか。
「あ、ルイさんって魔人の中で魔力少ない方?」
「多い方だと思いますよ。平均よりは5割り増しくらいです」
ルイさんって実はすごい人だったのかも。これなら水からでも作れたかもな。
「次は濃縮水にさらに傷が良くなる力を送っていくイメージで。傷が治る力で水が赤く染まっていくってのをイメージしたら分かりやすいかも。血の補給とか的に。
あ、味もイメージでつくみたいなのでリンゴ味で飲みやすい、って念じておくとあとで辛くない」
「どんどん解りにくくなっていきますね」
ダメでしたか。
「この水を飲むと怪我が治る! 赤いリンゴ味の超回復薬!って根性を叩き込むとか」
「そっちの方が分かりやすいですね」
一生懸命考えたのより適当に言った方が採用されたらショックだね。
今度ルイさんには血の補給をメインにイメージして血の味のするポーションを作ってあげようと決めた。
そうやってわいわいと薬を作り続けること数時間。
深夜そろそろ寝て明日に持ち越すべきかと思い始めたころ、ようやくルイさんの試作一号が完成した。
ほんのりと赤い程度だが軽傷なら十分癒せるレベルだ。
でもルイさんは魔力を使い果たしかけてぐったりしてる。
「これにさらに魔力注げば十分な効果のになるし、慣れれば大丈夫だって」
この分だと当分2日で1本ってところかな?
こっちの作り方でもかなり魔力が必要らしい。
人前では作れないな、これは。
魔人でもないのに怪しすぎる。
「ハヤトはこれを1日で10本作れるって言ってましたよね」
……言いましたね。もっと考えてしゃべるべきだった……。
誤魔化しも思いつかない。
「ちょっと特異体質なだけだよ。あ、もうこんな時間だな。しっかり寝て休んで、続きは明日に!」
思いっきり怪しまれたが、全力でスルーだ!
「いいでしょう。この時間ですしね、また明日にします」
逃げ切れないらしい。
どうしよう……。
4人もいると誰の台詞だか解りにくいですね。
やっと友人らしき人の出来た主人公です。




