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 宿屋は酒場と食堂が一緒になってるようだった。

 このあたりに多い煉瓦作りの建物で、なかなか趣のある風情だ。

 異人館とかいいよなー。見る分には、だが。うちが純和風だったんで憧れがある。くつろぐには畳が一番なんだけどな。

 看板はジョッキと酒瓶が描いてあるのとベッドの絵か。兼業なので2枚出してあるようだ。名前は「黒の風見鶏亭」だ。名前の通り、看板の上には風見鶏がある。

 割とこのあたりでも大きめの店だから怪我人の一人や二人いるのを期待しよう。

 いい匂いもしているし、食事も期待出来そうだ。


 宿は昼のこの時間だからか、食堂がメインのようだ。ギルドで見たような連中が多く、賑わっている。

 ウェイトレスに促されるまま席に座るが、ちょうど4人掛けのテーブルを3人で使ってるグループがいたので相席になってしまった。

 大柄な人が多いせいかテーブルは結構広いのでちょっと狭くはなるが、そんなに邪魔しないですむだろう。

 まぁ、テーブルが大きいせいで置ける数に制限がでてこれだけ混んでるのかも知れないが。


 先客に軽く会釈すると相手も軽く黙礼してくれた。厳つい風貌だがいい人っぽい。

「適当に定食お願い」

 ウェイトレスに頼むと威勢のいい返事が来た。実はメニューは読めるが中身が想像出来ないんだよな。

 その分定食なら外れが少ないので重宝してる。

 ガルガル鳥のブラヒュー煮込みとか言われても困る。食べられないものではないだろうが頼む勇気がでない。

 黙って出てくれば食べ物の形はしてるので食べれないてことはないんだけど。


 それにしてもギルド推薦の宿だけあって探求者なんてやってる人が多いのだろう。女性率が著しく低くて潤いがない。

 いても男勝りって言葉がぴったりだし。

 ウェイトレスも恰幅のいいおばちゃんだった。料理の大皿を3枚くらい一度に運んでる姿がたくましい。別の意味で惚れそうだ。

 このテーブルの人たちも腕輪をしているので探求者っぽい。

 傷を補修したらしい跡が残る鎧や、側に置いてある使い込んでるっぽい武器なんかを見ても歴戦の勇者っぽい貫禄がある。

 怪我はしてないっぽいなー。いいことなんだが。

 いきなり計画の初期段階から躓いてしまった。病院まで行って売り込むべきか?

「なんだ?」

 そんなことを考えながら見てると、視線に気付かれてしまったのだろう。

 嫌そうにされてしまった。

「すみません」

 知らない人間にじっと見られたら不快だよな、ごめんなさい。

 っと、あれ? 気付かなかったが、この人左手首から先がない。

 力人っぽいし再生するんだろうが、さすがにちょっと不便そうだ。あんまり見てるとまた嫌がられそうなのでやっと来た食事に視線を集中させながら考える。

 赤ポーションって傷は治るけど、再生はどうだろう? 欠損も怪我と言えば怪我だから治るような気はするんだが。

 あたりまえだが人間には再生能力がないので再生能力付きのポーションはあると便利だよな。

 モンスターに襲われて命は助かったけど手足を失う人もいる。そういう人がもう一度自由に動けるってのは大きな魅力だ。

 赤ポーションが無理だったら作ってみよう。

 とりあえず赤ポーションで再生するかどうかが試すのが先か。

「あのー」

 ちょうどいいところに怪我人がいることだし、頼んでみよう。

「なんだ?」

 あ、さっきより嫌そうだ。よく考えたらかなりの不審者だよな、俺。

 でもうまくいけばその手が再生するし、許してくれ。いくらほっといても再生するとはいえ、早いほうがいいだろうし。

「薬の研究をしてるんだがよかったら試してくれないか? もちろん無料だ」

 欠落している手を示して頼んでみる。侮られないように普通に話しかけたが馴れ馴れしかったかも知れない。

 案の定ものすごく怪しまれてる。

 他の連れの人も一様にあきれ顔だ。

「そんな怪しい薬なんか試して毒でもあったらどうするんです」

 連れの魔人っぽい華奢な人に全否定された。いや、俺がこの人に毒を盛る必要性なんか皆無だろう。

 怪しいのは否定しないけどさ。

「じゃあ、俺も半分飲むから。で、効果がなかったらここは俺がおごる。どう?」

 この人たち3人組なんだが、結構食ってるんだよな。いくらくらいかは分らないがおごりとなれば薬飲むだけだし受けてくれないかな?

 俺が半分飲むって言う以上害がないのは分ってくれるだろう。もちろんリンゴ味のだから意外と美味しいぞ。前のは味だけで毒認定されかねないが。

 再生能力があるかは謎の赤ポーションだから半ばおごり確定っぽいが、ここで知り合いになってたら新しいポーション作ったときにも頼みやすい。

 さすがに自分の腕切り落とすのは治せると分っててもかなり嫌だし、ちょうどよく怪我した人に巡り会えるか分らないしな。

 ちょうどいい人が見つかったんだ。ここは知り合いになっておきたい。

「ガルド、飲んでもいいんじゃないか? 害はないだろ」

 今まで黙ってたもう一人の力人さんっぽい人が追加注文したあとに口を出してくる。

 めいっぱい食うつもりだな、これは。

 4人分でも払えないことはないだろうからいいけどさ。

 ガルドと呼ばれた怪我人も人の金で飲み食い出来るのは魅力的なんだろう。頷いてくれた。

 連れの華奢な人はまだ何か言いたそうだが、反対はしないようだ。

 決まったようなので早速鞄の中をごそごそ漁る振りをして中の収納袋から赤ポーションを2つ出す。

 俺が半分飲むと量が減ってしまうが2本を混ぜて1本分ずつ飲めば大丈夫だろう。

 コップに入れて大体半分ってとこまで飲んで残りを渡す。


 わくわくしながらじーっと見る。

 ガルドさんは戸惑ってるようだ。

「飲み薬なんかで怪我が治るのか?」

 気持ちは分るが即効性なので安心して欲しい。

「大丈夫大丈夫。俺も飲んだじゃないか」

 とりあえず害がないのだけは信じてぐっといってくれ。

 連れの人たちは追加注文してるし。

 かなり大きなため息をつかれたが飲んでくれた。ありがとう!

 問題はなくなってる手首の方だが……。

「おー、再生した。欠損も怪我のうちか、よかったよかった」

 再生過程もじっくり見ちゃったんでちょっとグロいがモンスターの解体とかでだいぶスプラッタには慣れたよ。

 慣れたくはなかったんだけど。


 3人組の人は呆然としてる。

 気持ちは分るけど反応がないと寂しい。

「えーっと。効果があったからおごらないよ?」

 とりあえず約束の確認を。実験に協力してもらったんだから奢ってもいいかもしれないけどいろいろ物いりだから節約できるところは節約しないと。

 この言葉で我に返ったのか、ガルドさんが真っ先に正気に返った。

「おまえっ、なんだこれはっ」

 胸ぐらを掴んでがくがく揺さぶられる。ちょ、苦しいって!

「薬って、落ち、着けっ、は、な、せっ」

 もがくが逃げられない。すごい力だ。さすが力人だけあるな。

 だんだん酸欠で目の前が暗くなって……。

 落ちる前に華奢な人が取り押さえてくれた。

「ありがとー」

 ぐってりと机に突っ伏しながら取りあえずお礼を言っておく。

 食べたものが喉元まで来てるよ。吐きそう。

「すまない。それにしてもすごい薬だな。見たことも聞いたこともないぞ」

 それはそうだろう。自作だし。

「長年の研究のおかげさ。何度失敗したことか……」

 唐辛子味はきつかった。

 遠い目をして語る俺を見て勝手にいろんな苦労を思い浮かべてくれたのだろう。

 彼らの視線に尊敬が混ざった気がする。



 連れの力人さんはレバタ、魔人さんはルイ。自己紹介してもらったので名乗り返す。

 地味に周囲の注目も集めてるようだが寄ってくる人はいない。

 聞き耳は立てられてるっぽいが。

「今ので2本使ったんで在庫はないけど、かなり便利だと思うよ? それなりの重傷でも治るはず」

 実験台が自分だけだったのであんまりひどい傷は試せてないけど。

「あったら是非売って欲しかったんだが……」

 残念そうだ。ひとつあったら生還率が格段に上がるだろうしな。

 せっかく魔人のルイがいることだし作り方を教えてもいいが、生活費稼いでからの方がいいか。普及して欲しいのは山々だが、俺も生活できないと困る。

「明日にはいくつか用意できるからさ、買ってくれる?」

「一日で用意できるのか!?」

 また詰め寄られた。

 ガルドさん、短気だな。そして問答無用で殴って沈めたレバタさんが怖い。

「……えーっと」

 助けを求めてルイさんに視線を向けたら、そっと逸らされた。味方がいない。

「10本くらいなら出来るけど」

 それ以上だと、他のものを作る時間がない。やっぱり病気用とか毒消しも作りたいしなー。

 野宿用に安心して寝られる結界が作れないかも研究中だし。

 かなり控えめな数にしてみたが、彼らにしてみれば十分すぎる本数だったようだ。

「売ってくれ! いくらだ!?」

 詰め寄ってくる多数の人。周りにいた人も参加して大混乱になっている。

 もっと少なくいうべきだったか?

 ってか、ここまで需要があるとは。こういう仕事の人には生命に直結するからなぁ。

 「世界」の大事な子供の為だしさっさと作成方法教えるべきか。

 俺の生活が落ち着くまでに取り返しのつかないことになる人がいたら申し訳ないもんな。

 取りあえずこの場をどうするかが問題だが。

「作ったらギルドに頼んで売ってもらうので、落ち着いてください! 数日中には手に入りますよ!」

 叫んでおく。ギルドにはこれから頼むけど、手数料払えば大丈夫だよな?

 確実に売れるだろうし。

 周りの人もそれで納得したのか落ち着いてくれた。お店の人、ごめんなさい。


「なんか大騒ぎになってごめん」

 半分くらいは騒いだガルドさんの責任のような気もするが。

 テーブルの上の食事が無事だったのが奇跡だ。

 素材は謎だがかなり美味しいので無事でよかった。水玉模様の魚とかかなり食べにくかったけど。

「いや、こっちこそ。それにしてもすごいな、その若さで手を再生させるような薬を作るとは」

 レバタさんが褒めてくれるがふと新しい疑問が出来てしまったのでそれどころではなかった。

「あの、聞きたいんだけど。力人の人には手首がないのもそのうち治る怪我のうちだよな?」

 肯定が返ってきたので続けて問う。

「それだと力人以外だと「治らない欠損」ってのは傷がふさがった状態が治ってる状態になるか?」

 3人とも一緒に悩んでくれた。いい人達だ。

「多分そうなるんじゃないでしょうか?」

 真っ先に答えてくれたのはルイさんだ。さすがに力人じゃないので欠損した部位についての考えは信頼できそうだ。

 力人の二人にはわかりにくいようだけど。

「さっきの、怪我を治すだけの薬なんで……」

 そういうと3人とも納得してくれた。

「じゃあ、私だと怪我は治っても手足を失った場合はそのままの可能性があるんですね」

「その可能性が高いな」

 また確認しないと……。

「あ、力人以外に欠損部位抱えてる怪我人に心当たりとかあったりしない?」

 ダメ元で聞いてみる。

「病院に行ってみたらどうだ?」

 一番確実な答えが返ってくる。そりゃそうか。

「病院の位置知らないもんで。それに怪我人一人だけ治してあとは放置ってのもなかなか気まずくないか?」

 何人もいたりすると一番大怪我の人を治すにしても他の人に恨まれそうだ。

「そうですね。ですが、ハヤトの薬を買えば治るのですからそういえば皆納得するでしょう」

 ってことは在庫がそれなりにいるな。やっぱりここで知り合ったのも何かの縁だろう。

「3人にちょっと頼みがあるんだけど。ここじゃなんだし、つきあって貰えるか?」

 3人とはいってもルイさんがメインだけど。

 興味を持ってくれたのか、3人に了承を貰ったので部屋を借りて場所を移す。

 ここで話してもいいんだが、周囲がまだ聞き耳たててるので落ち着かない。

 ちょっと迂闊だったか。





誤字脱字ご容赦ください。

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