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プロローグ



気付いたら、宇宙にいた。

上下左右、すべて漆黒の闇。

遠くに見える星の輝き。

昨夜も普通にベッドに入って寝てたはずなのに。

つまり、夢か。

いつも見る夢とは違ったために混乱してしまった。

夢らしく、自由に動けるようなので気の向くままさ迷ってみることにした。

なんとなく、あっちに行ってみたいんだよな。

理由もなく惹かれる方向へ移動してみる。

長年自由に動けない夢ばかり見てきたので、宇宙遊泳っぽい状況が楽しい。

景色に変化がないのは原点だが、満天の星空の中は綺麗だ。


やがて、ひとつの星に近づく。

月くらいの大きさに見えるほど近寄ったその星は緑と青の綺麗な星だった。

模様が違うので地球ではないだろうが、似た印象で。

このまま大気圏突入とかして宇宙人がいるか、確かめたくなる。

夢だから大丈夫だよな?

生身で大気圏突入とか普通は絶対無理だろうが、夢なら何でもありだろうし。

それに、どうしようもなくこの星に惹かれる。

まるで、誰かに呼ばれているように。


気軽に深く考えずにその星に近寄っていると。

突然脳裏に声が響いた。

(来るなっ!!)

聞き覚えのある声に怒鳴られ。

俺は弾かれたように飛び起きていた。




目を覚ましたのは当然自室のベッドの上だ。

窓の外はぼんやりと薄明るく。

時計は起床時間の30分ほど前を指している。

ちなみに朝練があるので5時起き。その30分前。

貴重な睡眠時間が……。

二度寝するにも時間が少なすぎるので渋々起き出す。

楽しい夢を邪魔した声に若干の恨みを抱えつつ。

それでも着替えが終わる頃には、そんなことはすでに忘れ去っていた。




基本的に俺は夢をあまり忘れない。

夢であるはずなのに、曖昧さや矛盾の少ない連続した夢を見続けているからだ。

いや、見ていたというべきか。

物心ついたときからずっと同じ少年の夢を見ている。

自分の意志で動くことは出来なかったがその少年と同化したように、彼の中で本を共に読み。

様々なことを学んだ。

王都と呼ばれる中世のような都市を歩き。

身の回りの些細なことから家族やメイドのこと。

庭師の名前に至るまで見聞きしていた。

もちろんリアルタイムにすべて知ってるわけではないが、かなりの部分を把握していると思う。

魔法が使える世界で貴族の少年の夢だ。最初の頃は自分の想像力に呆れていたがあまりに詳細な設定ですべて自分の妄想とは思えなくなってきていた。

が、そんなことを人に言えば可哀想な子を見るような目で見られそうなので連続ドラマでも見るような気分で見ることにしていた。

波瀾万丈というわけではなく、むしろかなり病弱らしい少年の日常はかなり退屈だったが。

だがその夢は少年が高熱で苦しんでいるところで終わっている。

……彼は自分がこのまま死んでしまうのだろうと思っていた。

そして、3日と開けずほとんど毎日のように見ていた夢はもう一週間も見ていない。

彼は死んでしまったのだろうか。

ずっと見てきた、自分の一部のような存在が失われたかも知れない寂寥感は確かにあったがそれをどうにかする術はなく。

俺は俺の日常を生きていた。





その日までは。





この日、もうじき試合のある部活のために疲れ切って寝た俺は昨日と同じ夢を見ることになる。

正しく、続きなのだろう。

目の前にはどうしようもなく惹かれる星。

昨日の夢を思い出したが、止める声は今度は聞こえず。

心の赴くままに、星へ突入していた。





降り立ったそこは緑の森だった。

良く分らない種類の巨大な樹木。見慣れない生き物。

生き物がやたらと獰猛そうだったのが怖い。なんでウサギに立派な爪があるのか。

鹿っぽい生物の角はやたらと鋭そうでなぜか赤黒く濡れていた。……草食じゃないのかもしれない。

他にもイノシシを魔改造した雰囲気の生き物や爬虫類が謎の進化を遂げたのかと思うような生き物を見ながら森を突き進む。


行かなければならない場所があるような気がするんだ。


実体がないのだから一直線に行けばいいのかも知れないが、木に体当たりするには常識が邪魔をするので素直に歩き続ける。

空を飛べないのが残念だ。

疲れはないが、いつになったらたどり着くのだろう。

このままたどり着くまで歩き続ける夢を見ることになるのだろうか。

すでに飽き飽きしながらそれでも歩き続けること数時間。

そろそろ起床時間かなーと思い始めた頃、小さな泉に出た。


喉も渇いてないが、森の中でさ迷ったまま明日の夢に繋がったら堂々巡りのようで気力が失せそうなのでここで目が覚めるまで待機してみようか。

明日ここから始まれば延々と森をさ迷ってるという焦燥はなくなりそうだ。

ごく自然にこの夢が続くと思ってしまうのは、長年継続した夢を見続けたせいだろうか。

まぁ、二度と続きが見られなくても夢は夢。たいしたことはない。


水辺に横になって空を見上げる。

夢の中で寝ようとするのも変だが、くつろぐには横になるのが一番いい。

見上げた空は青く澄んでいた。

森の樹木に囲まれ、遮られた空は狭かったが、それでも綺麗な色で。

現代日本はとうてい見られないような、澄んだ空だった。

この夢もいいものだな。歩いた甲斐はあったかも。


大きく伸びをしたとき、俺は俺に出会った。


うん、なんのことか解らない。

目の前に自分がいたのだ。

毎日鏡に映る自分と寸分違わない姿。いや、やや痩せて顔色が悪いか?

「うわっっ?」

そのまま飛び起きたらのぞき込んでる彼に体当たりしそうだったが、とっさの反射で横に転がったためにそれは避けられた。

かなり情けないと思うが、半分腰を抜かして身構える。

「ひどいな、ずっと呼んでたのに」

少年が俺と同じ声で言うが、呼ばれた覚えなどない。

そして声まで俺とそっくりで正直気持ち悪い。

ドッペルゲンガーか? そっくりさんに出会うと死ぬって話があったよな。

夢だから大丈夫だろうが。


「混乱してるのかな? 初めまして、兄さん」

そういって笑う顔も嫌になるくらい自分と同じもので。

「いや、あり得ないだろ。似すぎ」

世の中に自分の知らない兄弟がいる可能性はそれなりにあるかも知れないが。

年もほとんど同じくらいだし、親父が浮気したとしても母親が違うなんてあり得ないくらい似すぎている。

兄弟だというなら、双子しかあり得ないだろ、ってくらいだ。

「似てて当然。双子だからね」

あ、ちょっと納得。双子ならこのそっくり加減もありだろう。

だが……。

「あり得ないだろ。俺の兄弟は生まれる前に死んでる」

生まれる前に死んだ、というよりは消えてしまったのだというが。

実はよくあるらしい。

存在する前に消えてしまった存在を嘆いてた母を覚えているので軽く調べたんだ。

バニシング・ツイン。

死産や流産よりはマシなのかも知れないが、気付かないことも多いという現象に母は気付いてしまった。

失った存在を嘆き続けて、死んでしまった。

生まれてきた俺を置いて。


「おまえが俺の双子の兄弟だっていうなら、母さんは死ななかっただろうよ」

冗談や嘘として言われるのは、かなり不快だ。

その気持ちが伝わったのか、少年は申し訳なさそうな顔になる。

「僕だって、ちゃんと生まれたかったんだけどね……。とりあえず話を聞いてくれないかな、兄さん?」

しつこく兄弟認定されたままだ。

だが、あれだけ申し訳なさそうな顔をしておいて嘘を突き通すはずもない。

あり得ないと断言した双子説を押し通すつもりらしいし、説明くらいは聞くべきだろう。

夢もまだ覚めないことだしな。


座り直して話を聞く体勢をとる俺に安心したように笑う少年。

「じゃ、まずは名前からかな。僕はレンフォード・グルテルグ。レンって呼ばれることが多いよ」

その名には聞き覚えがあった。

いつも夢で俺が同化してた少年の名前。

彼は親しい人間にはいつもレンと呼ばれていた。メイドや庭師はレンフォード様と呼んでいたからそっちが正式名称だろう。

名字までは知らなかったが。

「兄さんはハヤトだよね? ええっと、フジサキ・ハヤト」

こっちは名字まで知られてたらしい。もしかして俺だけではなく彼も夢の中で俺に同化してたのか?

「もしかして、夢か?」

半ば確信しながら問いかければ肯定が返ってくる。

見られて困るような生活は送ってないが、私生活が筒抜けだと思うと気まずい。

見られてるだけでなく見てるしな。

見てまずそうな光景は多分ないと思うが。

「最初に。僕らは一緒に生まれてくるはずだったんだ。だけど、それをこっちで僕の母親と言うことになってる女が奪った」

その女は跡継ぎを埋めないことが判明したら離縁されかねなかった自分を守るために普通なら成功しないはずの召喚魔法を改造し、成功させたらしい。

そもそもの召喚魔法はこの世界の存在を一時的に呼び出すことしかできない。

それぞれの存在には自分の居場所がある。それを魔術で切り離すのは難しいらしい。

切り離せても、この世界に存在し続ければ正しい場所に戻ろうとする力が働く。世界から完全に切り離してしまえば、存在自体が消え失せる。

だから異なる世界から連れ込むことにしたらしい。

だが、そんなことをしてもこの世界の存在でない以上いずれ世界に拒まれ消える。

そこを、異世界の胎児を自分の胎に宿し血肉を備えて生むことで肉体という器を世界に認められる存在として定着させたと言うことだ。

……実際にはもっとややこしい話らしいが俺の理解力ではこの辺が限界だった。


本来双子として生まれてくるはずだった俺たちには何らかの絆が残ったのだろう。

それで互いの夢を見続けたのかも知れない。

血肉がこの世界のものだとしても、俺とのつながりが残ったせいか本質が異なる少年…レンは世界に拒まれ続けた。

世界に拒まれるというのがどんな感覚かは俺には分らないが、かなり辛い思いをしたのだろう。

そのせいで母親の所業を知ったらしいが。

「一応肉体を作った存在だけどね、母親だなんて言ったら怒るよ?」

内心で思っただけなのに突っ込まれた。

これが双子の以心伝心ってやつなのか? 余計なことを考えると怖いな。

とにかく、そうやって母親だと思ってた女の所業を知ったが自分自身の件にはすでに打つ手はなく。

彼女がやろうとしていることを調べるのが精一杯だったらいい。


俺は夢で彼を見続けていたが何も気付かなかった。

彼が苦しみ、傷ついていたことも、調べていたことにさえ。

ただのんきに食事を楽しみにしたり、魔法にわくわくしてただけだった。

気付いたからといってどうにかなるものではないだろうが心苦しいことに変わりはない。

「……ごめん」

謝って済むことではないだろうけど。

母親に置いて逝かれたことで生まれてこなかった兄弟を羨み、恨んだことさえあった。

それを、レンが知っているかは解らないけれど。

「謝ることなんてない。悪いのはあの女だしね。……それに、僕も母さんのことは知らなかった。僕を失って悲しんでくれたって聞いて、嬉しかったしね……」

互いに顔を見合わせ、苦く笑う。

どちらとも、本当に誰にも知られたくないような部分は伝わってなかったらしい。

いいのか悪いのか。


そして現在の話に戻るが。

その女……よほど嫌いなのか名前さえ教えてくれないんだが。そのレンを苦しめた女は。

レンが身体が弱く、跡継ぎにふさわしくないと言われたことで焦り。

レンが死んだのを機に、その肉体を利用し再度召喚を行ったのだという。

そして呼ばれたのが、俺。

肉体自体には繋がりがないとはいえ、ずっと入ってた魂への関わりから召ばれることになってしまったらしい。

どうしようもなくこの星に惹かれ、今でも呼ばれている気がしてならないのはそのせいか。

双子の繋がりが元の世界に繋がってない以上、レンよりはマシだろうが、それでも俺も世界に拒まれそうなんだが……。

そもそも意識が違う。俺自身がこの世界を異世界と認識する以上、馴染むのは難しいような気がする。

……空を飛ぶ魔改造イノシシとかを見ると切実にそう思う。物理的に無理な体型と翼に見えるぞ、あれ。

「呼ばれてる気分を無視し続けて夢が覚めるのを待つしかないのか?」

この感じだと、行かなければこのまま過ごせそうな気がする。

むずむずして嫌な気分だが、のこのこ行ってレンの身体を奪うのは嫌だし、利用されるのも嫌だ。

「だから来るなっていったのに、来ちゃうから……もう手遅れだよ、切り離された。帰り道がない」

マジ?

ああ、昨日最後に怒鳴られたな。聞き覚えがあったはずだ、自分の声にそっくりってことか。

昨日の声を覚えてて、忠告に従えばよかったのか。

「……ごめん」

また謝るしかない俺。

情けないがどうしようもない。夢だと思ってったとか、今日は制止されなかったとか言い訳はいろいろ思いつくが助けようとがんばってくれたレンに言えるはずがない。

「このままここで幽霊やってれば利用はされないか?」

正直このままというのは死んでるようなものだからなー。いい気はしないが、利用されて遣い捨てられるよりはマシと思うしかない。

レンを利用し、苦しめたやつの利になるようなことをするくらいなら死んだ方がマシだしな。

「ここまで来ちゃった以上、このままじゃ死んでるようなものだし。僕の身体があるんだから、それを使って生きて欲しいんだけど」

あっさり言われてしまった。

レンの身体を乗っ取るのは嫌だし、利用されるのも嫌だと言っても聞かない。

身体があるんだから自分が戻れと言っても死んだ人間が生き返れるはずがないと反論される。

「なんで俺が入ったら死体が動くんだよ」

意味が分らない。死体は死体だろうに。魂が入ればいいと言うなら、レンでもいいはず。

「魂が死んでるんだよ、僕は」

良く分らないルールがあるらしい。

さんざん言い争ったが、結局身体は俺が使うことになった。

死というのは覆せない以上仕方がない。

このまま二人で死んでもただの心中だ。

だが、利用されるのだけは回避したいので、その辺の計画を練ることになった。


週一くらいでの更新を心がけたいと思っています。

よろしくお願いします。

(精霊と彼女の5倍の時間がかかってますorz)

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